韓流映画ブームとその食べ物

平成のごはん映画を振り返る(3)

映画に登場するフードを通して平成を振り返るシリーズの3回目。今回は平成の韓流ブームに乗って大きく公開本数を増やした韓国映画のフードシーンを取り上げる。

ブームから定着へ

「シュリ」(1999)

 まず映画における韓流ブームについておさらいしておこう。

 平成初期まで日本における韓国映画の年間公開本数は1桁台にとどまっていたが、流れを変えたのは南北問題を題材にしたスパイ・アクション大作「シュリ」(1999)の大ヒットだった。日本で公開された2000年(平成12年)は第1回南北首脳会談が開かれた年で、またサッカーの日韓ワールドカップを2年後に控えた頃でもあった。

 この年の韓国映画の年間公開本数は11本と初めて2桁を越え、その後も板門店を舞台にした「JSA」(2000)等のヒット作が相次いだ。

 さらに、2003〜2004(平成15〜平成16)年にNHKで「冬のソナタ」(2002)が放映され韓流ドラマブームが起きたことも後押しする形となり、2005年(平成17年)の韓流映画の日本公開本数はアメリカでのそれに次ぐ年間61本に達し、その後も韓流映画の国別年間公開本数の2〜3位をキープ。すっかり定着した感がある(図1参照)。

 ジャンルにおいてもアクション、ホラー、SF、コメディ、ラブロマンス、ミステリー、時代劇と多岐に渡り、2004年の第57回カンヌ国際映画祭で「オールド・ボーイ」(パク・チャヌク監督)が審査員特別グランプリ、2012年の第69回ヴェネチア国際映画祭で「嘆きのピエタ」(キム・ギドク監督)が金獅子賞を受賞する等、質的に優れた作品も現れている。

 これらの韓国映画に映し出されるフードシーンは、李氏朝鮮時代の宮廷料理から現代のいわゆるジャンクフードまでさまざまで、日本で従来から普及していた韓国料理以上の韓国の食文化に対する知見を日本の映画ファンにもたらしている。以下、具体的な作品で見ていこう。

図1 韓国映画の日本公開本数
図1 韓国映画の日本公開本数

「食客」のユッケジャン

「食客」(2007)は、TVドラマにもなったホ・ヨンマン原作の漫画の映画化。

 日韓併合時代の朝鮮総督府の役人の孫、フジワラが所有していた李氏朝鮮最後の王、純宗(スンジョン)に仕えた伝説の宮廷料理人、待令熟手(テリョンスッス)の包丁。フジワラはそれを韓国一の料理人に与えるという。この包丁をめぐり、2人の料理人が「料理の鉄人」のような対決を繰り広げる。一人は、かつて老舗料亭「雲岩亭」(ウナムジョン)の後継者の座を争いながらフグ中毒を起こして店を追われた料理人、ソン・チャン(キム・ガンウ)。もう一人は、ソン・チャンの才能を妬み、彼を陥れた雲岩亭店主の孫、オ・ボンジュ(イム・ウォニ)である。

 一次予選は鳥料理、二次予選は因縁のフグ料理、三次予選は牛の解体といった課題をクリアし、決勝に駒を進めたソン・チャンとボンジュに与えられた最後の課題は純宗が最後に食べたという牛スープ。待令熟手の弟子だったという祖父から習った秘伝のスープで勝負に出たボンジュに対し、ソン・チャンが出したのはごくありふれたユッケジャン。だがそれにはソン・チャンの祖父の思いが込められていた……。

“日韓併合時代に自分の先祖がかけた迷惑”を心底謝罪するフジワラの姿勢は、“韓国人にとっての日本人の理想像”なのかも知れない。昨今の日韓摩擦における韓国人の気持ちを理解するうえで参考になる作品である。

「彼とわたしの漂流日記」の炸醤麺

キムがパム島で発見した「ジャパゲティ」の袋。「辛ラーメン」の農心が販売するインスタントの炸醤麺である。

「彼とわたしの漂流日記」(2009)は現代のソウルを舞台に、借金苦で漢江にかかる橋の上から投身自殺を図った男、キム(チョン・ジェヨン)が無人の中洲(パム島)に漂着してしまい、誰の助けも来ないまま都会の真ん中でサバイバル生活を送る毎日と、その様子を漢江沿いのタワーマンションの上から望遠鏡でのぞき見するひきこもりの若い女「わたし」(チョン・リョウォン)の交流を描いた作品である。

 漂着後もいったんは首を吊って死のうとしたキムは、足元に生えていたサルビアの花の蜜を吸い、その甘さに救われる。死ぬのはいつでもできる、とりあえずここで生きてみようと心に決め、無人島で食べ物がない中、自生するキノコで生き延びる。魚や鳥はうまく獲れないが、立て続けに魚と鳥の死骸を見つける幸運もあり、鳥の丸焼きを食べながら「進化というのはおいしくなる過程なのかも知れない」などと思う余裕が出てきたキム。砂浜に大書した助けを求める「HELP」の文字を「HELLO」に書き換え、借金取りに追われることのない無人島暮らしを満喫し始める。

 そんなある日、キムは川岸でインスタントの炸醤麺(ジャージャー麺)「ジャパゲティ」の袋を発見する。しかし、中に入っていたのは粉末ソースの袋だけ。炸醤麺は食べたいが麺はなし。キムはこのおあずけ状態に身悶えする。炸醤麺は韓国人にとって国民食とも言えるものだと言えばキムの心情がわかっていただけるだろうか。黒味噌と具を茹でた麺に乗せてよくかき混ぜて食べる麺料理で、韓国映画でも刑事もの等の出前で目にすることが多い。

 キムは雑草の実を集めて麺を作ろうとするがうまくいかない。いっそ粉から作ってしまえと、自生するトウモロコシを畑を作って育て、粉の量産に取り組み始める。そんなキムの様子を望遠鏡で観察していた「わたし」はワインのボトルに「HELLO」と書いた紙を入れて漢江に流す。3カ月後、ワインボトルはパム島に流れ着き、キムは自分を見ている存在がいることを知る。キムは砂浜に「HOW ARE YOU?」と返事を書き、2人の一風変わった文通が始まる。

 キムが炸醤麺を食べたがっているのを観察して知っていた「わたし」は、どこにでも配達することが売り文句の中華料理店にパム島への出前を頼む。かくして哀れな出前持ちは、足漕ぎ式のスワンボートに乗ってパム島のキムに“普通”“つけ麺”“海鮮”の3種類の炸醤麺を届ける。ところが、キムは出前持ちに炸醤麺を持って帰るように言う。

 その様子を望遠鏡でうかがっていた「わたし」はキムの意外な反応に戸惑うが、出前持ちからの伝言に納得する。その伝言とは。また、果たしてキムは炸醤麺にありつけるのか。そして、彼の無人島生活の結末は……。

4月14日はブラックデー

 ところで、日本では2月14日のバレンタインデーのお返しを渡す日として3月14日のホワイトデーが定着しているが、韓国では4月以降も月ごとの14日の記念日が食品会社等によって提唱されている。その一つが4月14日の「ブラックデー」だ。バレンタインデーやホワイトデーでプレゼントをもらえなかった恋人のいない男女が黒い服を着て炸醤麺等の黒い飲食物を食べる日とされている。韓国映画でよく使われる「今年も炸醤麺を食べることになりそう」というセリフは、今年も恋人ができそうにないという意味である。

 恋人の有無にかかわらず、来る4月14日は口の周りを真っ黒にしておいしい炸醤麺を味わってみてはいかがだろうか。


【食客】

「食客」(2007)
作品基本データ
原題:식객
ジャンル:ドラマ
製作国:韓国
製作年:2007年
公開年月日:2009年4月25日
上映時間:115分
配給:彩プロ
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:チョン・ユンス
原作:ホ・ヨンマン
音楽:ファン・サンジュン
キャスト
ソン・チャン:キム・ガンウ
オ・ボンジュ:イム・ウォニ
キム・ジンス:イ・ハナ
ク・ホソン:チョン・ウンピョ
チャン・ドッキ:チョン・ジン

(参考文献:KINENOTE)


【彼とわたしの漂流日記】

「彼とわたしの漂流日記」(2009)
作品基本データ
原題:김씨 표류기
ジャンル:コメディ / ラブロマンス
製作国:韓国
製作年:2009年
公開年月日:2010年6月19日
上映時間:116分
製作会社:Banzakbanzak
配給:CJ Entertainment Japan
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・脚本:イ・ヘジュン
製作総指揮:カン・ウソク
製作:キム・ムリョン
撮影・照明:キム・ビョンソ
音楽:キム・ホンジプ
編集:ナム・ナヨン
衣装:チェ・ウィヨン
ヘアメイク:ソン・ジョンヒ
キャスト
キム:チョン・ジェヨン
わたし:チョン・リョウォン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。