「SR サイタマノラッパー」北関東三部作のブロッコリーとこんにゃく

こんにゃく屋の作業場
「SR サイタマノラッパー2」アユムのこんにゃく屋の作業場

今回は筆者の地元、埼玉県などが舞台の「SR サイタマノラッパー」シリーズと、それに登場する地域特産品について述べていく。

 本シリーズは、埼玉、群馬、栃木の北関東三県を股に掛け、プロのラッパーを目指す若者たちの夢と挫折を描いた青春三部作である。

ラップについて

 ラップを辞書で調べるとこうなる。

1970年代後半にニューヨークの黒人街で流行し、1980年代のヒップホップへと継承された、ダンスやビートに合わせてリズミカルに早口の語りを乗せていく音楽のこと(三省堂「大辞林」)。

 即興で作った韻(ライム=rhyme)を踏んだメッセージ性の強い歌詞が特徴で、MC(ラッパー)とは、ラップミュージシャンのことである。

ブロ畑育ちのラッパー

「SR サイタマノラッパー」と「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」のブロッコリー

ブロッコリー
「SR サイタマノラッパー」MIGHTYの畑で穫れた「福谷名物」のブロッコリー

 シリーズ第1作「SR サイタマノラッパー」(2008)は、埼玉県北部の架空の町、福谷が舞台。アマチュアのヒップホップグループ「SHO-GUNG」(将軍)のメンバーであるニートのIKKU(駒木根隆介)は、友人のTOM(水澤伸吾)、後輩のMIGHTY(奥野瑛太)らと共に、今は病床にある伝説のDJ・タケダ先輩(上鈴木伯周)に作ってもらった曲でライブを計画するが、TOMは風俗店のアルバイト、MIGHTYは家業のブロッコリー畑の手伝いで忙しく、公民館での「市民と若者の集い」では、ラップも知らない“良識派”市民たちに屈辱的な言葉を投げかけられる始末である。

 そんな折、IKKUはスーパーの書籍売場で、高校を中退して上京しAV女優となった後、地元に戻ってきた元同級生の千夏(みひろ)と再会するが、狭い町で好奇の目にさらされた彼女は再び福谷を去ることになる。

 MIGHTYは、一向に目の出ないIKKUたちに見切りをつけ、本格的にラップに取り組むために東京に出て行き、TOMに至ってはラップ自体をあきらめて道路工事の作業員となるなど、「SHO-GUNG」のメンバーたちは次第にバラバラになっていく……。

 福谷のモデルとなった深谷市はネギで有名だが、ブロッコリーの生産も盛んで、市町村別での出荷量は愛知県の田原市に次ぐ全国第2位である(平成18年農林水産省野菜生産出荷統計)。ブロッコリーは花蕾と茎を食用とするアブラナ科の緑黄色野菜で、ビタミンCやβカロテンなどを豊富に含む他、がんの予防やピロリ菌の抑制に効果があると言われているスルフォラファンも微量含んだ機能性野菜だ。

 MIGHTYは自分の畑で穫れたブロッコリーを「ブロ」と呼び誇りに思っている。上京後の彼を主人公としたシリーズ第3作「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(2012)では、ブロ畑育ちのラッパーを自称し、傷害事件を起こして栃木に逃げた後も、恋人の一美(斉藤めぐみ)に穫れたてのブロのうまさについて語る場面などに、彼の福谷への郷愁が表れている。

タケダ岩ライブへのこんにゃく

「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー 傷だらけのライム」のこんにゃく

こんにゃく屋の作業場
「SR サイタマノラッパー2」アユムのこんにゃく屋の作業場

 シリーズ第2作「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー 傷だらけのライム」(2010)は、前作で病死したタケダ先輩が伝説のゲリラライブを行った“聖地”群馬を舞台に、彼の精神を受け継ぐ女子ラッパーたちが、伝説の聖地「タケダ岩」でのライブを目指すストーリーである。

 主人公のアユム(山田真歩)の家はこんにゃく屋で、彼女は3年前に妻と死別した父(岩松了)の仕事を手伝っていたが、埼玉からタケダ先輩の聖地を探しにやって来たIKKUとTOMに刺激を受け、高校時代に組んでいた女子ラッパー5人組「B-hack」(美白)を再結集すべく、かつての仲間に声をかけ始める。

 しかし、実家の旅館の借金返済のために東京から帰ってきたミッツー(安藤サクラ)、ソープ嬢のマミー(桜井ふみ)、父親が市長選挙に出馬するビヨンセ(増田久美子)、走り屋のクドー(加藤真弓)などそれぞれが事情を抱えていて再結集は容易ではなかった。いちばんのネックとなったのがライブ開催のための資金で、アユムはそれを捻出すべく一計を案じ、父に黙って店のこんにゃくの横流しを始めるのだが、その食用以外の用途については実際に映画を観て確認していただきたい。

こぼれ話

 MIGHTYのブロッコリー畑は、監督の入江悠の地元でもある深谷市の畑でロケされており、MIGHTYの母親役はその畑の実際の農家さんである。

 またアユムのこんにゃく屋のロケ地は、埼玉県寄居町にある「大黒屋商店」(http://www.daikokuya-shouten.co.jp/)で、劇中で作られていた「大玉こんにゃく」も実際に売られている。


【SR サイタマノラッパー】

「SR サイタマノラッパー」(2008)
公式サイト
http://sr1.sr-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2008年
公開年月日:2009年3月14日
上映時間:80分
製作会社:ノライヌフィルム
配給:ロサ映画社=ノライヌフィルム
カラー/サイズ:カラー
メディアタイプ:ビデオ 他
スタッフ
監督・脚本:入江悠
撮影:三村和弘
音楽:岩崎太整
録音:高田美穂
MA:山本タカアキ
HIPHOPアドバイザー:RTR
キャスト
IKKU:駒木根隆介
小暮千夏:みひろ
TOM:水澤伸吾
MIGHTY:奥野瑛太
李:杉山彦々
KEN:益成竜也
タケダ先輩:上鈴木伯周

【SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー 傷だらけのライム】

「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー 傷だらけのライム」(2010)
公式サイト
http://sr2.sr-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2010年
公開年月日:2010年6月26日
上映時間:95分
製作会社:「SR2」CREW(制作 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭実行委員会=NORAINU FILM)
配給:ティ・ジョイ
カラー/サイズ:カラー/16:9
メディアタイプ:ビデオ 他
スタッフ
監督・脚本:入江悠
エグゼクティブプロデューサー:外川康弘
製作:畠中達郎、澤田直矢、國實瑞惠、入江悠
プロデューサー:綿野かおり、入江悠、遠藤日登思
撮影:三村和弘
音楽:岩崎太整
録音:山本タカアキ
照明:三村和弘
ラップ指導:上鈴木伯周、上鈴木タカヒロ
キャスト
アユム:山田真歩
ミッツ:安藤サクラ
マミー:桜井ふみ
ビヨンセ:増田久美子
クドー:加藤真弓
IKKU:駒木根隆介
TOM:水澤紳吾
アユムの父:岩松了
タケダ先輩:上鈴木伯周

【SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者】

「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(2012)
公式サイト
http://sr-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2012年
公開年月日:2012年4月14日
上映時間:110分
製作会社:「SR3」製作委員会(アミューズ=ノライヌフィルム=鈍牛倶楽部=パルコ=角川書店=SPOTTED PRODUCTIONS)(制作プロダクション アミューズ=ノライヌフィルム/制作協力 ダブルディー)
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
メディアタイプ:ビデオ 他
スタッフ
監督・脚本:入江悠
撮影:三村和弘
音楽:岩崎太整
編集:入江悠
MA(音声編集):山本タカアキ
キャスト
MIGHTY:奥野瑛太
IKKU:駒木根隆介
TOM:水澤紳吾
相沢一美:斉藤めぐみ
MC林道:北村昭博
等々力辰彦:永澤俊矢
山下紀夫:ガンビーノ小林
高島紀代美:美保純

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。