ダーティハリーとホットドッグ

ホットドッグを一口かじるハリー
行きつけのスタンドでホットドッグを一口かじるハリー。この直後に銀行強盗事件が発生する。

大リーグ観戦の定番メニューであったり、早食い選手権が話題になるなど、アメリカ文化に根付いているホットドッグであるが、今回はそれが映画の中で印象的に使われた例としてクリント・イーストウッド主演の「ダーティハリー」シリーズを取り上げたい。

英国王とホットドッグ

 先日、「私が愛した大統領」(2012)という映画を観た。アメリカ大統領を史上最多の4期務めたフランクリン・ルーズベルトの後半生を、彼の愛人で従姉妹のマーガレット・サックリーの残した日記を基に描いたものである。

 この中で、イギリス国王ジョージ6世(イギリス女王エリザベス2世の父。映画「英国王のスピーチ」〈2010〉の主人公)が1939年6月にアメリカを訪問した際にハイドパークのルーズベルトの私邸を訪れ、ホットドッグを食べるパフォーマンスを披露する場面がある。英国王としては第二次世界大戦のヨーロッパ開戦を目前に控え、アメリカのファストフードの代表格であるホットドッグを食すことで親善をアピールする意味があったと言われている。

ホットドッグ一口の間の活劇

ホットドッグを一口かじるハリー
行きつけのスタンドでホットドッグを一口かじるハリー。この直後に銀行強盗事件が発生する。

 さて、「ダーティハリー」シリーズはサンフランシスコ市警のはみだし刑事ハリー・キャラハン(イーストウッド)を主人公としたポリス・アクションで、1972~1988年にかけて全5作が製作された。

 ハリーは世にはびこる悪党を憎み人一倍正義感が強い性格で、破壊力の強い拳銃スミス&ウェッソンM29「44マグナム」を愛用する射撃の名手である。そんな彼が初めてその凄腕を披露するのが、第1作「ダーティハリー」で銀行強盗を現行犯逮捕する場面である。

 ハリーは強引な捜査手法について市長から直々にお目玉を食らった後、行きつけのホットドッグスタンドに向かいカウンターに座って「いつもの」を注文する。

店主 「ランチか ディナーか」

ハリー 「どう違う」

店主 「大して」

拳銃を犯人に向けるハリー
拳銃を犯人に向けるハリー。まだ右頬にはホットドッグが入っていて膨らんでいる。

 この会話から読み取れるのは忙しい刑事稼業では昼も夜もホットドッグなどのすぐ食べられるファストフードで済ましているということである。「リーサル・ウェポン」シリーズ(1987~1998)などアメリカの他の刑事ドラマでも、仕事の合間にホットドッグを食べるシーンは多く見られる。

 通りをはさんだ銀行の前に不審な車がエンジンをかけたまま停車しているのを認めたハリーは、店主に警察に電話するよう命じる。出されたホットドッグを一口だけかじったところで犯行が始まり、彼は「畜生」と呟き外に出て行く。口をもごもごさせながら懐から拳銃を取り出し、犯人グループを制止するが、言うことを聞かないと見るや容赦なく発砲を開始する。

 逃走車が横転し、消火栓にぶつかり水が噴出する阿鼻叫喚の中、ハリーがたった一人で犯人たちを制圧するまでに要した時間は1分足らず。まだ口はもごもごと動いたままである。彼は落ちている銃を取ろうか躊躇している犯人の一人に拳銃を向け挑発する。

「考えてるな。弾が残ってるかどうか。撃ちまくって俺にもわからん。でもこれは特製の大型拳銃だ。脳味噌が吹っ飛ぶ。それでも賭けてみるつもりか」

 ハリーは弾を撃ちつくしていたのだが、はったりでカマをかけた結果、犯人はあきらめ、ことなきを得る。しかしこの事件は物語の序章に過ぎず、連続殺人鬼「さそり座の男」との対決がこの映画の本筋である。ハリーはクライマックスでこの「さそり」に対しても同じセリフを放ち、伏線としての効果を挙げている。

砂糖入りコーヒーが知らせる危機

「ダーティハリー4」(1983)はイーストウッドがシリーズで初めて監督を手がけた作品である。彼が出演した第一作のドン・シーゲル監督やマカロニウエスタン「荒野の用心棒」(1965)のセルジオ・レオーネ監督から影響を受けた演出手腕には定評があり、現在日本映画のリメイク版が公開中の「許されざる者」(1992)と「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)で二度アカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞している。

 映画の冒頭近く、自ら逮捕した犯人が裁判で公訴棄却となり、裁判官に違法捜査を咎められたハリーが帰りに寄った行きつけのカフェでいつものブラックコーヒーを注文する。ウエイトレスのロレッタはなぜかシュガーポットから山のように砂糖を注ぐのだが、彼は新聞を読むのに夢中でそれに気付かない。実はこの時すでに店内には強盗が侵入していて、ロレッタは彼らに俺たちのことをハリーに話したら殺すと口止めされていたのである。そのため、彼女はいつもと違う大甘なコーヒーを供することで無言のうちにハリーに異常を知らせようとしたのだった。

 結局ハリーはコーヒーを店内では飲まず、新聞に目を落としたまま持ち帰るのだが、店の外で一口口にしてブッっと吹き出してしまう。店を振り返ると「OPEN」の看板が「CLOSED」に掛け替えられていて、初めて彼は店の異状に気付くことになる。店に戻ったハリーは強盗たちに銃を捨てろと命じる。

ハリー 「俺たちからは逃げられんぞ」

強盗 「貴様と誰だ」

ハリー 「スミス&ウェッソンさ」

 そして銃撃戦の後、ロレッタに銃をつきつけて盾にしようとする強盗の一人にハリーが拳銃を向けて言う “Go ahead, make my day.” (さあやれよ、俺を楽しませてくれ)というセリフは、名台詞として記憶される――ハリウッド映画俳優出身のロナルド・レーガン第40代アメリカ大統領が、議会の増税路線に対して拒否権を行使すると牽制する演説をしたときに引用したことでも有名である()。

ケチャップなんかつけやがって

 ホットドッグに話を戻すと、映画の冒頭、ゴールデン・ゲート・ブリッジを望むサンフランシスコ湾岸の丘の上、女が車の中で男の股間を38口径の拳銃で撃ち抜くという殺人事件が発生。ハリーが現場に到着すると同僚の刑事が股間を撃たれた被害者を見ながら、平気でホット・ドッグにかぶりついている。パンからはみ出たソーセージの様子が被害者の状況と重なって見え、さすがのハリーも呆れて嫌味のひとつも言いたくなるというシーンである。

「毎日ある殺人も、老人から年金を強奪する事件も、校内暴力も気にはならん。犯罪が増え一方では無関心と腐敗と官僚主義がのさばってる。だけど、それも平気さ。我慢ならんのはお前のホットドッグだよ。ケチャップなんかつけやがって」

 この事件は過去に北カリフォルニア沿岸の町サン・パウロで発生したレイプ事件に端を発しており、妹の復讐のために加害者たちを次々と血祭りに上げていく姉には当時イーストウッドの公私共にパートナーであったソンドラ・ロックが扮している。

 サン・パウロに出張したハリーは事件の真相を突き止めるが、逆襲に転じたレイプ加害者たちのあまりの非道ぶりに“大岡裁き”とも言える判断で事件を解決させることになる。ダーティハリーも女性の涙には弱いといったところだろうか。

※ Remarks at a White House Meeting With Members of the American Business Conference (March 13, 1985)
http://www.reaganfoundation.org/reagan-quotes-detail.aspx?session_args=901C34E9-974B-4DA5-9B43-61B492461E7E&tx=2111

作品基本データ

【私が愛した大統領】

◆公式サイト
http://daitoryo-movie.com/

原題:HYDE PARK ON HUDSON
製作国:イギリス
製作年:2012年
公開年月日:2013年9月13日
上映時間:94分
製作会社:Daybreak Pictures, Film Four, Free Range Films
配給:キノフィルムズ
カラー/モノクロ:カラー
アスペクト比:シネマ・スコープ(1:2.35)

◆スタッフ
監督:ロジャー・ミッチェル
脚本:リチャード・ネルソン

◆キャスト
フランクリン・ルーズベルト:ビル・マーレイ
デイジー:ローラ・リニー
ジョージ6世:サミュエル・ウェスト
エリザベス:オリヴィア・コールマン
ミッシー:エリザベス・マーヴェル
エレノア・ルーズベルト:オリヴィア・ウィリアムズ

【ダーティハリー】

「ダーティハリー」(1972)

原題:Dirty Harry
製作国:アメリカ
製作年:1971年
公開年月日:1972年2月11日
上映時間:102分
製作会社:マルパソ・カンパニー・プロ
配給:ワーナー
カラー/モノクロ:カラー
サイズ:35mm
メディアタイプ:フィルム
アスペクト比:シネマ・スコープ(1:2.35)

◆スタッフ
製作・監督:ドン・シーゲル
脚本:ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク、ディーン・ライズナー
製作総指揮:ロバート・デイリー
撮影:ブルース・サーティース
音楽:ラロ・シフリン
編集:カール・パインジター

◆キャスト
ハリー・キャラハン:クリント・イーストウッド
ブレスラー:ハリー・ガーディノ
殺人犯:アンディ・ロビンソン
チコ:レニ・サントーニ
市長:ジョン・ヴァーノン

【ダーティハリー4】

「ダーティハリー4」(1984)

原題:Sudden Impact
製作国:アメリカ
製作年:1984年
公開年月日:1984年4月14日
上映時間:117分
製作会社:マルパソ・カンパニー・プロ
配給:ワーナー
カラー/モノクロ:カラー
サイズ:35mm
メディアタイプ:フィルム
アスペクト比:アメリカンビスタ(1:1.85)

◆スタッフ
製作・監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジョセフ・C・スティンソン
原案:アール・E・スミス、チャールズ・B・ピアース
キャラクター創造:ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク
撮影:ブルース・サーティース
音楽:ラロ・シフリン

◆キャスト
ハリー・キャラハン:クリント・イーストウッド
ジェニファー・スペンサー:ソンドラ・ロック
ジャニングス署長:パット・ヒングル
ブリッグズ警部:ブラッドフォード・ディルマン
ミック・パーキンズ:ポール・ドレーク
レイ・パーキンズ:オードリー・J・ニーナン
クルーガー:ジャック・チボー
ドネリー警部補:マイケル・カリー
ホレース・キング:アルバート・ポップウェル
ベネット巡査:マーク・キールーン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。