2015年食の10大ニュース[7]

私のメールマガジン「安心!?食べ物情報」の2015年の記事から、恒例の今年の10大ニュースを拾ってみました。

●安心!?食べ物情報
http://food.kenji.ne.jp/

  1. 異物混入事件とペヤング復活
  2. 食品標準成分表と食事摂取基準改訂
  3. 食品表示法
  4. 機能性表示食品制度
  5. 太平洋クロマグロ規制問題
  6. ロシアによるサケ・マス流し網漁禁止
  7. キュウリ食中毒事件
  8. 加工肉を発がん性分類
  9. TPP基本合意
  10. 福島原発事故の放射線健康被害予想

1. 異物混入事件と「ペヤング」復活

 もう昔の話のような気がしますが、正月頃にはこの話題がいっぱいでした。今でも散発的にネット上のニュースは見かけますが、マスコミで話題になることはほとんどなくなっています。

 食品を作るのに事故はつきものですが、問題になりそうなのはやはり全面回収に至るようなものと、犯罪的なものでしょう。その他の偶発的な事件や給食の作業場での事件を大騒ぎするのはどうかしています。

 些細な事件でも、食品メーカーは対応に頭を痛めるものですが、その中でも「ペヤング」が半年の休業を経て復活したのは水際立った対応でした。結果、今年1年の売上げはいつもの年より多かったのではないかと思います。

 半年休むなどという芸当はよほどの優良企業しかできませんが、こういうときのためにしっかり稼いでおくのも重要なことだと改めて感じました。

 気の毒だったのは「マクドナルド」で、中国での事件は日本の「マクドナルド」とは全く無関係だったのに、マスコミの標的にされてしまいました。「マクドナルド」側の対応も悪かったのでしょうね。

2. 食品標準成分表と食事摂取基準改訂

 年末に「七訂」が公開されました。だいたい5年ごとに見直しているようですが、今回はその中でも大きなものです。

「炭水化物」を実際の分析値にしたのが大きな変更点ですが、今までは「全体 - 水分 - 灰分 - 脂肪 - たんぱく質 = 炭水化物」で、実測値ではありませんでした。

 また摂取基準も見直されています。その中でも、「食塩」が問題です。次の食品表示の方でも「ナトリウム」から「食塩相当量」に変更されました。

 ニューヨーク市で「塩マーク」を表示せよ、などと言い出していますが、世界的に塩分の過剰摂取が問題となっていて、日本はかなり摂取量が多く、急いで減らす必要があるのですが、なかなか対策が進みません。

 健康のためには一に禁煙、二に減塩です。その他のことはかなり優先順位が低いのですが、ニュースに振り回されて肝心の対策が進まないのは政府の責任であると思います。

3. 食品表示法

 今年の4月から、食品表示法が施行されて、いくつか表示方法が変更になっています。

 栄養成分表示を必須とすることや、上記の食塩相当量表示、また原材料と添加物を区分して表示することなどが目新しいところです。

 ただし猶予期間が5年もあるのと、製造所固有記号がまだ方針として確定していないこともあり、新表示への対応はあまり進んでいないようです。

 猶予期間中はもちろん旧表示も有効ですが、一つの商品に新表示と旧表示を混在させてはいけません。新しくするときは全面的に新表示にしなければならないのですが、製造所固有記号のみは当面旧来の表示でよい、などと言っています。しかしこんなことを言われて、「新表示 + 旧来の製造所固有記号」というラベルを作る気持ちにはならないですよね。

 まず来年の4月に出る予定の製造所固有記号を確かめてから、包材がなくなってから切り換える……などという動きになりそうです。

4. 機能性表示食品制度

 機能性表示食品制度も4月から新しく実施されています。アメリカの制度をまねたもので、メーカーの自己責任での機能性表示を可能としたものです。

 アメリカでは「サプリメントは食品ではない」と宣言しているそうなので、何が起こってもメーカーの自己責任が問われるだけなのですが、日本ではそうはいきません。

 制度としては「届出制」なので、書類さえきちんとしていれば審査なしに受け付けるはずなのですが、届出内容に疑義が出されたりして、実質的には審査も同然の感じです。

 問題が発生すれば消費者庁や食品安全委員会が責任を問われることになると思いますので、お役所としては馬鹿な制度を作ったものだと思います。

「機能性表示食品」の儲けはメーカーに、責任はお役所に、というのでは困ります。メーカーにしても、もっと自由にやらせてほしいのじゃないのでしょうか。

5. 太平洋クロマグロ規制問題

 クロマグロの漁獲規制が問題になっています。私のところではマグロの小さいのをヨコワと言いますが、マグロではなくヨコワのときに驚くほど大量に漁獲してしまっています。

 水産庁も「未成魚(ヨコワ)は食べるな」と言い出していますが、未だに有効な規制をしようとしていません。

 マグロに限らず、日本では有効な漁獲規制がほとんどされていません。

 一応「規制値」があっても、実際の漁獲量より規制値の方が大きなことも多く、さらに、規制が船ごとではなく総量規制なので、早く獲ったもの勝ちという“オリンピック方式”がまかり通っています。

 さらにその上に、漁獲量の申請そのものも非常に怪しいのが現実です。漁獲量をごまかしていたのがバレて、ロシアに拿捕された漁船がありましたが、今まではロシア側に賄賂を送って見逃してもらっていたのだとか。

6. ロシアによるサケ・マス流し網漁禁止

 引き続き漁業関連ですが、来年からサケ・マスの流し網漁が禁止されます。

 日本側は反発していますが、ロシアの言い分の方に分があると私は思います。

 長大な流し網を使う漁は、混獲も多く、魚の品質も損ねます。資源の浪費につながるのは間違いありません。他国の経済水域で認められていた方が不思議です。

 いろいろと危機に瀕している日本の漁業ですが、そろそろきちんとした漁業規制の元に再生することを考えないといけません。今までのやり方の漁業には一度“死んで”もらうことが再生の条件になります。

 日本は漁業後進国である、というのが現実なのです。

7. キュウリ食中毒事件

 食中毒事件もいろいろありましたが、いちばん驚きが大きかったのは夜店で売られていた「冷しキュウリ」による食中毒事件でしょう。

 野菜を生で食べるという行為はごく普通に行われていますが、衛生面では問題を含んでいます。

 夜店で刺身が売られていたら警戒しますが、冷しキュウリで中毒するとは誰も思っていませんから、私も驚きました。

 ちょうどアメリカでは、野菜による食中毒事件が多発しています。O157をはじめとする原因微生物が直接野菜についているという事件が大規模に起こっています。

 このところの微生物界の変化は激しくて、どういうルートからかわかりませんが、畑で収穫した時点で汚染されていることがあります。

 とくに飲食店では、野菜を生で出すときには、次亜塩素酸などで消毒するのが常識にならないといけないという時代になってきているのでしょう。

 肉類を生で食べるのは論外ですが、野菜にも警戒が必要というのはもっと広まってほしい概念です。

8. 加工肉を発がん性分類

 国際がん研究機関(IARC)が食品を発がん性で分類しているのですが、今年「加工肉」を「グループ1」(人に対して発がん性がある)に、「赤身肉」を「グループ2A」(人に対しておそらく発がん性がある)に分類しました。

「加工肉」はハム・ソーセージの類ですが、「赤身肉(レッドミート)」は普通に言われている「肉の赤身」ではなく、「牛肉、豚肉、羊肉(ラム、マトン)、馬肉、山羊肉を含むすべてのほ乳類の肉」なのだそうです。

 要するに肉には発がん性があるかもしれないよ、ということなのですが、だからと言って「食べるなと言っているわけではない」のが悩ましいところです。

 ここには2つの問題が含まれています。

 まず第1には、食べ物そのものの中に発がん性は普通にあるということです。特別に悪い食べ物や添加物があって、それを食べることでがんになるのではなく、私たちの普通の食生活そのものに一定のリスクがあります。発がん性に対する理解の仕方を変える必要があるのです。

 第2には、加工肉の方がリスクが高いということです。塩漬や燻製といった肉の保存性を高める加工に問題があります。

 元々、今誰かがハムを作る方法を発明しても、危険だからと許可されないだろうと言われていました。

 伝統的な加工は長年の知恵の蓄積でもあり、貴重な人類の遺産ですが、安全面まで配慮して作られてきたわけではありません。伝統的なものには安全面でのリスクがあると考えるべきです。

 もちろん、少しくらいリスクが高くなっても、保存することで人々が生き延びる道を広げたのですから、偏らないようにしながら、これからも食べ続ければよいのですが。

9. TPP基本合意

 たぶん合意には至らないと思っていたTPPですが、原則合意まで到達しました。この間の日本政府の交渉力はなかなか見事だったと思います。

 これからの最大の関門はアメリカで批准されるかどうかで、見通しは半々、大統領選挙の行方次第というところでしょうか。

 メールマガジンでは小麦との関連を取り上げましたが(「安心!?食べ物情報」833号)、いろいろ言われているTPPの影響のうち、最大のものは国産小麦が立ち行かなくなるだろうということです。

 今までは国産小麦は輸入小麦の割り当て時に製粉会社に押しつけてきたのですが、それも輸入課徴金を原資として安く売るから成り立ってきたものです。

 このところ国産小麦の市場での人気が高まり、押しつけなくてもよくなったと聞きますが、輸入小麦の倍以上の価格になったとき、買うメーカーがあるとは思えません。

 その他の農業への影響は思っているほど大きくはないと想像していますが、あまり自信はありません。世の中全体に対する影響はどうかと聞かれたら、プラスになるのだろうな、と考えています。

10. 福島原発事故の放射線健康被害予想

 最後はよいニュースです。世の中では悪いニュースはよく伝わるが、よいニュースは伝えられないということがよく起こります。これもそんなところです。

 福島県では米を全量検査しているのですが、今年はついに完全に規制値をクリアしました。魚介類の検査でもほとんど問題がなくなり、内部被曝を心配しなければいけないのは汚染されたままの山に自生しているきのこ類くらいだと思います。これは例外的な食べ物ですから、福島産の食品の放射能汚染は完全に解消されたと言ってよい状況です。

 ここに至る関係者の努力に敬意を表したいと思います。

 また、全体としても外部、内部とも被曝量は予想されていたよりずっと少なく、健康被害が出るようなことはないと確認されています。

 UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告でも、こう言っています。

東電福島第一原発事故に関するUNSCEAR報告について

3. 公衆の健康影響

心理的・精神的な影響が最も重要だと考えられる。甲状腺がん、白血病ならびに乳がん発生率が、自然発生率と識別可能なレベルで今後増加することは予想されない。また、がん以外の健康影響(妊娠中の被ばくによる流産、周産期死亡率、先天的な影響、又は認知障害)についても、今後検出可能なレベルで増加することは予想されない。

(首相官邸・東電福島原発・放射能関連情報)
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g66.html

 これが“ファイナルアンサー”なんですが、今でも妄想(福島で健康被害が出てほしい)をまき散らす輩がいるのは本当に困ったことです。

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About 渡辺宏 5 Articles
Webサイト「安心!?食べ物情報」主宰 わたなべ・ひろし 1974年から1998年まで生協に勤務し仕入れや商品開発にかかわる。1999年Webサイト「安心!?食べ物情報」を開設し、生協時代の経験を活かした、食に関する情報発信を行う。メールマガジン「安心!?食べ物情報 Food Review」を毎週発行中。また、その前年からWebサイト「宮沢賢治の童話と詩 森羅情報サービス」を運営している。2010年、中国・大連に食品販売会社を設立、総経理となる。著書に「『食の安全』心配御無用!」(朝日新聞社)、「食の安全 裏側の話―元生協仕入れ担当者が明かすつくり手の事情・消費者の言い分」(カザン)。和歌山市在住。