溶かせばいいだろうとはいかない増粘多糖類の巻

増粘多糖類の表示例
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増粘多糖類の種類と用途を概観した上で、今度は使う上でのノウハウの話となった。

溶かし方に気をつかいます

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「ええっと、この間は増粘多糖類の種類をざーっと見て、用途を再確認したんでした」

リョウ 「うん。増粘多糖類を供給する側にも、利用する側にもいろいろなノウハウがあるらしいって言ってたけど、それはたとえばどんなことだ?」

タクヤ 「ボクは食品添加物というものは、私は食べ物の一種だと思っていて、それを使うというのは調理だという理解をしています。調理というのは、純粋な物質をいくつか少量ずつ使って行う科学実験とは違って、結果に影響を与えるファクターがいろいろあって複雑に絡み合いますから、やっぱりその難しさがあります」

リョウ 「お前の説明のほうが難しいよ。何か例を挙げなよ」

タクヤ 「ですか。じゃまあ、増粘多糖類を使うときの一般的な注意点から話してみます。まず、いちばん大事なことは、水に溶けてくれないと効果がありません」

リョウ 「そりゃそうだろうな。液体をゲル化したり、液体のコロイドを安定させたりっていうのが使う狙いなんだから、液体に溶けてくれないと話にならんだろう」

タクヤ 「それでも増粘多糖類メーカーがそれを口酸っぱく言うということは、その重要性を忘れちゃう場合が多いっていうことですね。というのも、増粘多糖類にはいろいろな種類があるわけですが、ものによって溶かし方とか、うまく溶かすための条件とかが違っていて、『入れたから溶けただろう』と思っていると、思わぬ失敗が、なんてことがけっこうあるようです」

リョウ 「めんどくせえな」

タクヤ 「たとえば、キサンタンガムや大豆多糖類は冷水に溶かして使います。でも、寒天などは冷水に入れてもびくともしません」

リョウ 「寒天が冷水に溶けたら、ところてんとみつ豆出してる甘味屋さんはつぶれるな」

タクヤ 「です。寒天は煮沸してやらないと溶けない。しかも、棒状に乾燥したままの寒天が昔からありますよね。あれを上手に溶かすのはよく見ていてやらないといけなくて、けっこう骨です」

リョウ 「日本料理の料理人さんに素人向けの料理教室をやってもらったことがあるんだけど、デザートに牛乳羹を作るときは寒天じゃなくてゼリーを使うレシピを書いてくれた。何でですかって聞いたら、『寒天は溶かし方をしくじる人がいるから』って言ってた」

タクヤ 「もっとも、今は粉末の寒天も出ていて、これなどまだ扱いやすいほうですがね。温度については自由度が高い増粘多糖類もあって、寒天と同じ海藻由来でもカラギーナンは冷水から70℃ぐらいまで対応できます。ジェランガムなどは、冷水から沸点までカバーするとか。工程の中で高温を経験させるわけにいかない食品であれば、必ず冷水で溶ける増粘多糖類を使う必要があります」

溶かすときと使うときの温度に注意

リョウ 「そうか。溶かすときの心配だけじゃなく、製品になったときの状態も考えていないとだめだな。冷たく冷やす缶コーヒーに冷水で固まる増粘多糖類を入れると具合が悪い。缶から出てこないぞーなんて。その点、カラギーナンは合っているわけか」

タクヤ 「温度だけでなく、増粘多糖類の濃度も関係してくるでしょうけれどね。そう、当たり前に聞こえるかもしれませんが、溶かすには十分な水が必要ということもポイントです。高濃度にしようとするとダマが出来てしまう。さきほどの粉末の寒天も、いっぺんにドバッと入れちゃうとしくじるでしょう」

リョウ 「ダマができたら、くずしてやればいいじゃないか」

タクヤ 「これもものによるでしょうけれど、一般に増粘多糖類は水に溶けてゲル化するものだとすれば、ダマの表面はゲル化した膜になります。これは水をブロックしますから、ダマの中の粉末はいつまで経っても水に接触できないことになります」

リョウ 「なるほど、ダマカプセルになっちゃうわけか。しかも、大きなダマは目に見えて『あ、しくじった』ってわかるだろうけれど、小さなダマは見つかりにくくてつぶしにくいだろうなぁ」

タクヤ 「そうならないように、水をたっぷり使う配合を考えるとか、投入する前に他の粉末材料と合わせるとかの工夫がいるわけです」

リョウ 「それはお菓子屋さんが得意な話だ。小麦粉を液体材料に溶かしてからかき混ぜていると粘りが出てしまうから、予め乾燥状態で砂糖や粉乳などを混ぜておいて、それから水や牛乳を入れるとかするものだな」

酸性かアルカリ性か中性かも使い方を決める

タクヤ 「もう一つ大事なのが、材料同士の相性です」

リョウ 「相性な。大事だよな……」

タクヤ 「もしもし、関係ない思い出に浸ってませんか?」

リョウ 「うるさいな。材料同士の相性だろ。何にだって合わせられるわけではないのか」

タクヤ 「多糖類全般でだいたい共通することとして、酸性に傾いていたり、なんとかナトリウムとかなんとかカルシウムのような塩(えん)が高濃度とか、アルコールを含んでいるとかだと溶けにくいようです。ジェランガムとかペクチンなどはカルシウムがちょっとでもあると溶けなくなるとか」

リョウ 「えん、ね。えんがなかったよな……」

タクヤ 「もしもし?」

リョウ 「だんだん化学の話が濃ゆくなってきたな」

タクヤ 「まだありますよ。増粘多糖類も酸性のもの、中性のもの、アルカリ性のものがあります。たとえば、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン、アラビアガム、大豆多糖類などは酸性。ローカストビーンガム(LBG)、タラガム、グァーガム、寒天、タマリンドシードガム、キチンなどは中性」

リョウ 「アルカリ性はないのか」

タクヤ 「多くないですね。キトサンぐらい。実はこれが曲者です。キトサンと酸性のカラギーナンを合わせると反応してしまって使えないのです」

リョウ 「ラブラブ過ぎて周りに迷惑かけるやつらっているよな」

タクヤ 「だから、そういう話ではなくて」

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。