海外土壌の化学性は日本とは違う

中国の巨大青果市場(山東省で)
中国の巨大青果市場(山東省で)
中国の巨大青果市場(山東省で)
中国の巨大青果市場(山東省で)

日本は多くの農産物を海外から輸入しているが、海外産地の土壌に関する実用的な知識はほとんどないと言っていい。調べる機会も、それを理解するための知見にも欠けているのだ。

産地の土の性質を全く知らない日本

 土の化学性を一応わかったというところで、日本の土壌の特徴を理解するために、少し海外の土壌を見ておきましょう。

 普通は、土は国外から持ち込むことができません。主に検疫上の問題があるからです。そのため、日本にいる限り、日本人は海外の土壌を調べたり、違いを理解するという機会がほとんどありません。

 それに加えて、日本の農林水産省は日本国内の農業ためにあるという大義名分があります。そのため、海外の土壌情報などは管轄外であるか、むしろある意味ではこれに触れることは“ご法度”でさえあります。そうした事情も、海外土壌について知る機会が用意されていない理由と言えます。

 とは言え、実際には日本が海外から輸入している農産物の多さは、ここで改めて指摘するまでもないことです。それなのに、それを食べている人も、食べてもらうために商っている人も、海外の土壌について知識がないというのは、おかしな話です。

 そんなことから、海外土壌に関する情報は、この連載の目玉でもあります。詳しくはさらに先の時期にまとめてお話しますが、今回は“日本の土壌と海外の土壌とでは様子が違う”ということを知ってもらうためのお話を少しお届けします。

日本の土は“だしがら”

 筆者は、日本企業が海外で行う栽培事業などのコンサルティングを請け負い、これまでにオーストラリア、ミャンマー、中国大陸、韓国、スペイン、イスラエル、サイパン、ドミニカなどの現地に赴いて、実際にいくつもの土壌調査を行ってきました。それらを通じて、日本にいては入手できない実態を知るチャンスを得たのです。

 その結果、降水量の多い日本の土壌と海外の土壌とは、全く異なる観点から対処していかなければならないものなのだということに気付きました。

 日本の土壌は、風化過程で言うと極限まで進んでしまっているのに対して、他の多くの地域の土壌では、物理的には形状として粉々になってはいても、化学的には岩石が風化している程度が少ないということです。

 料理にたとえて言えば、日本の土はだしを取った後の“だしがら”、海外の土はだしを取る前の素材といったところでしょうか。

 日本の土壌は、高温多雨によって岩石が持つさまざまな成分を出し切ってしまった後の残骸ということです。ですから、一見肥えているような黒い土でも、化学分析すると、そこには成分はほとんど抜けた状態のものがあるだけです。

 このような状態の土について研究を進めてきた日本の土壌学は、実は海外にあるほとんどの乾燥地土壌には応用できず、役に立たないのです。

土壌溶液のカリウムイオンが0ppm?

山東省の圃場
見た目には細かな粒の土だが、日本の土の延長で考えると大間違いになる(山東省の圃場)

 海外の土壌の性質の中でも、とくに理解できなかったのが、カリウムの成分についてでした。

 中国東北部、瀋陽近郊の畑でのことです。土の血液にもたとえられる土壌溶液を採取して(第19回参照。土壌溶液の採取法は回を改めて説明する)、その中のカリウムイオンの濃度を測定したところ、1~2ppmだったのです。

 日本の圃場でこうした分析を行えば、30~50ppmぐらいの値になります。ところが、中国ではその数十分の一、ないしは0ppmというサンプルさえあったのです。この結果は信じられないものでした。

 私は測定器が故障したのか、あるいは中国人スタッフが手順を間違えてやっているのではないかと考え、何度もやり直しを指示してしまいました。

 この測定値を疑った理由は、日本と比べて極端に数値が低いということだけではありません。そこで栽培されている作物に、カリウム欠乏症は全く発見できなかったのです。

 カリウム欠乏症というのは、葉の周辺全体の緑色が帯状に後退して、やがてそれが黄褐色になっていくもので、とてもわかりやすい症状です。この異常を探して、いくつもの圃場の作物を見て回りましたが、出ていないのです。

 しかし、土壌溶液中にはゼロに近い濃度のカリウムしか存在していない。

 この不思議の理由は、私には全くわかりませんでした。そして日本に戻って、さまざまな土壌学の専門文献を調べたのですが、どこにも解説されていませんでした。

日本の土壌学が通用しない不可思議

 結局、私は一つの仮説を立てました。中国内陸部にあって降水量の少ない気象条件下では、岩石の風化は物理的には進んで、硬い岩石も粉状になったとしても、日本の土のように雨水による化学的溶脱は行われていないのではないかという見方です。

 そのため、土壌の造岩鉱物中に含まれるカリウムが分離して放出されることがほとんどないのではないか。細かな粒や粉の土の様相を呈してはいるが、土壌溶液中にはカリウムイオンが存在しない。あるいは微量しか溶け込んでいないのは、そのためではないか。

 これは、日本のような降水量の多いところでは絶対にあり得ないことです。繰り返しますが、日本の土壌学は、岩石や火山灰が極限まで風化して、その中の成分がほとんど溶出したものを対象として、その性質を研究してきたものです。ですが、大陸の乾燥土壌では通用しない原理も多くあるということです。

 ほかにも、日本には酸性土壌が多く、アルカリ土壌は少ないことから、この種の土壌への対応も、日本の土壌学が苦手な分野の一つです。

 そして、今回の最初で述べた通り、日本は多くの農産物を海外から輸入しているのにもかかわらず、その栽培現場に日本の農水省が出向いて調査や指導をすることは、基本的にあり得ないことです。海外の土壌を調査し、理解し、使いこなしていくには、民間で実際に買い付ける人、栽培に携わる人が、自分で勉強していくしかないのです。

関祐二
About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。