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太平物産倒産で混乱の意味は

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肥料の製品の成分や原料に偽装が指摘されていた太平物産(秋田市、佐々木勝美社長)が11月27日に秋田地裁に民事再生法の適用を申請しました。

 毎日新聞は「関係者に驚き、混乱」と見出しを立てていますが、もともと業績が悪かった上に、事案の発覚後は出荷が止まっていたのですから、本当に驚いたり混乱したりしている関係者がいるのだとすれば、そのことの方に驚きます。

太平物産:民事再生手続き 関係者に驚き、混乱 /秋田(毎日新聞 2015年11月28日 地方版)
http://mainichi.jp/area/akita/news/20151128ddlk05020170000c.html

 農林水産省は、偽装発覚からの経緯と対応についてWebページで説明しています。

 まず11月5日に全農が、太平物産から仕入れている同社の4つの工場で製造している783銘柄について出荷の停止・回収等の措置をとったことを発表しました。理由は、肥料の原料や配合割合が肥料袋の表示と異なるものが多数あるということです。そして、この中には有機JASや特別栽培農産物に使用可能なものが含まれているため、それらを使っていた場合、実際にはそれらの規格に合わない可能性があり、「有機JAS」ないし「特別栽培農産物」のマークを表示しないよう要請していることも公表しました。

 これを受けて、農水省は、肥料取締法に基づいて、農林水産消費安全技術センターに立入検査を指示しました。検査は、肥料袋が確認された621銘柄を対象にしたということです。その結果、以下の不正が発覚しました。

  • 原料の種類の記載不適正(375/621件)
  • 原料又は材料の使用不適正(56/621件)
  • 保証成分量不足(72/621件)

 そこで農水省は、肥料の保証票の記載を改めるまで出荷を停止すること、原材料の使用不適正なものについては製品を処分すること、それらの報告を行うことなどを指導しました。

太平物産株式会社の生産した肥料への対応について(農水省)
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/151120.html

 ここまでであれば、肥料取締法違反で、話はシンプルなものです。肥料取締法というのは、農家がお金を払って肥料として効きもしないゴミをつかまされるような悪事がかつて横行していたため、それを防ぐ目的で作られた法律です。国はウソをついてものを売ることを止めさせ、別途民事でゴミの代金なり作物が穫れなかった損害を弁償してもらえば、話は終わるという性質のものでしょう。

 ところが、厄介なのは、その肥料に有機JASや特別栽培農産物に対応できるとしていた肥料が含まれていたことです。ある種の作り方をすれば、品物の品質がどうであれ特別な価値をアピールし得る“魔法のシール”を貼り付けて売りさばくことができる。そのマーケティングツールの仕組みを国の制度として整備してしまっていたために、シールを貼るな、シールをはがせといった要請を役所がして回らなければならなくなった。

 もちろん農家としてもアテがはずれた。先の毎日新聞の記事は「今後はJAや行政が中心となって、傷ついた秋田県の農産物のイメージ向上に努めてほしい」という農家のコメントを紹介しています。そういうことにも税金を使わなければならないかもしれないということです。

 本来、有機栽培というのは生産者の信条に基づいて行われるべきもの、消費者の信条に基づいて買われるべきものであり、国が口を挟むような性質のものではないのです(筆者自身は消費者として有機栽培のものを敢えて選ぼうという気持ちはありませんが、長年有機栽培に取り組む人たちの環境保護と持続可能な農業に向けた高い理想と優れた栽培技術には敬意を抱いています)。有機JASの規格の内容も、科学的に何かの効果が担保される類のものではありませんから、本来は民間でそれぞれにルールを作って取り組んでいればよかった話です。

 もちろん、有機JASなりコーデックスの有機ガイドラインなりが登場する以前は、あまりにも多くの「有機」「オーガニック」が氾濫し、国内市場や貿易上の混乱を来し、「有機」「オーガニック」の信用失墜の危機という懸念もありました。しかし、それでもしダメになるようであれば「有機」「オーガニック」運動の失敗というだけの話ではなかったかと筆者は考えています――もし国家や国際機関にも何か手を打つべきであったとすれば、民間の諸団体がそれぞれに作っていた規格の上位の規格を作って従わせるのではなく、市民に対して「有機」「オーガニック」が何であって何でないかを説明し理解させるための教育プログラムを用意すべきではなかったか。

 事が「有機」「オーガニック」等の表示に関わるということで、有機JASの内容についてあまり詳しくない一般の消費者が最も関心を寄せているのは、安全・安心に関わることでしょう。しかし、農水省は上記Webサイトに「当該肥料を施用したほ場で生産された農作物の安全性に問題はありません」と記していますから、「有機ではないが安全である」ということです。つまり、「有機JAS」というのは消費者が安全・安心を求める場合には全く意味のない制度だということが、こういうところにも現れているわけです。

肥料の準備(記事とは直接関係りません)

肥料の準備(記事とは直接関係りません)

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →