がむしゃらなチャレンジャー農家の方へ(2)水田での畑作を狙う

私の農業分野の師匠、農業技術通信社の昆吉則社長が今国内農業生産者に向けて熱心に呼びかけていることの一つが、「水田でトウモロコシを作ろう」ということです。これは一つの解決になるでしょう。

水田を畑にする技術・農機

水田でのジャガイモ栽培
水田でのジャガイモ栽培の例(岩手県)
モミガラサブソイラ
サブソイラが土を切りながらモミガラを充填していく
湛水しての代掻き
湛水しての代掻き
レーザーレベラー
レーザーレベラー
レーザー墨出し器
レーザー墨出し器

 とは言え、これについては水田作を知っている人であるほど、「それは無理だ」と考えるでしょう。何しろ、水田という圃場はなるべく水が抜けないように作ってあるものです。それを畑として使おうとすれば、湿害(根の窒息)が起こると考えるのが普通です。

 しかし、これまでにも水田での大豆作などの転作は行われているわけです。農業技術通信社は、このほかに水田転作としてポテトチップス用など加工用ジャガイモの生産を呼びかけていて、成功している事例があります。

 これをうまくやっている人の決め手は、言うまでもなく排水をうまくやるということです。これには、暗渠を設置し直すことや、もちろん知っている方には釈迦に説法ですがサブソイラという道具を使うことで対処します。サブソイラは巨大なナイフのようなもので、これを圃場に差し込んで縦の亀裂を入れます。その亀裂が簡単に埋まらないようにモミガラを充填しながら作業をするものもあります。また、地中の先端部が弾丸(というよりは砲弾)状になったもので「弾丸暗渠」を作っていくものもあります。

 このような道具は、盆栽の鉢の中のように、上部の作土は比較的緻密に、その下の底土は粗くなるようにと、上下で構造の違いが出るようにするもので、地表面の湿り気を保ちながら、水抜けはよく根の呼吸を妨げないようにするものです。

 水田を畑として使う場合にもう一つネックとなるのが、整地・均平です。水田を水田として使うならば、代掻き、すなわち、田起こしした後、湛水し、回転刃と板を組み合わせたハローをトラクタで引いて、土塊を砕きながら水面と並行な面を作る(均平)ことは比較的容易です。ですが、問題は水を入れない場合に、どう均平を取るかです。

 実は水田作をしている方ならご存知のように、ハローによる代掻きには欠点があります。泥の状態で土をかき回すことで土を練ってしまい、これが原因となって根の呼吸を妨げ得るということです。これに対して、水を入れずに均平を取る道具が開発され、実用に供されています。

 これまたご存知の方には今さらという話ですが、レーザーレベラーというものです。作業機としては、鋼鉄製の大きなコイルを横起きにして、それを転がす方向に回転させることで乾いた土を砕いて土を均していくものですが、最大の特徴は、これがレーザー受光器をしょっているという点です。

 コマのように回転するヘッドからレーザー光線を発する、レーザー墨出し器という機器があります。建築業界では常識化している道具ですが、このヘッドが垂直軸で回転していれば、周囲360度にレーザーで水平面を知らせることができます。壁があれば、レーザー光線がそこに水平な直線を映し出してくれます(墨出し)。この光をトラクタで引くレーザーレベラーに感知させ、作業機が圃場面に水平面を作っていくように作動させるわけです。ちなみに、レーザー墨出し器にたとえば0.5%の傾斜を付けさせれば、圃場面にも0.5%の勾配が出来るということになります。こうした設定をすることで、圃場の排水性も改善できます。

 このレーザーレベラーを水田で使えば、田の土を練らずに済むわけです。また、乾燥状態ですから、そこに種もみを蒔いても水に流れることはありません。そこで、苗を植える田植えではなく、種もみを直接蒔く(乾田直播)こともできるようになります。

日本の水田は世界に誇る優良な圃場

陸田での畑作
陸田での畑作

 これらの道具を使えば、水田は乾いたまま均平を出すことができ、排水性も確保できるというわけです。ですから、水田は畑にできないとは言えません。

 また、水田にも畑にも使える「陸田」というタイプの圃場も、関東を中心に昔からあるものです。こういうところであれば、畑としての利用はしやすく、そうした場所の生産者は、そのような圃場の使い方にも慣れているわけです。その知恵を、他地域にも普及させることも考えられるでしょう。

 こうした道具や技術によって水田を畑として使えるようになった場合、水田は俄然優良な圃場として再発見されるでしょう。日本は早くから国家事業として水田の整地・均平・集約を行ってきました。畑でも進んでいますが、水田は100%完了していると言われています。したがって、水田は、起伏の激しい日本の国土にありながら、しかるべき面積が平らな状態でまとまり、道路、用水、その他の設備がしっかりと整備された優良な圃場ということです。これは、世界に冠たるレベルで整備されていると言えるでしょう。

 これまでは米しか作れないように考えられてきた、そうした優れた圃場が畑作に使えるということになれば、高い生産性が期待できるわけです。

 もちろん、土壌条件や経営環境からすべての水田で導入できるものではないにせよ、水田を畑として使うための技術と道具はあるわけです。したがって、水田でトウモロコシや野菜を栽培することは不可能なことではありません。

《つづく:2013年7月18日掲載予定》

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →