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「妻への家路」と「唐山大地震」の饅頭・餃子・トマト

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今回は、現在公開中の中国映画2本に登場する餃子やその他の食べ物について取り上げる。

「妻への家路」の饅頭と水餃子

「妻への家路」は、「紅いコーリャン」「初恋のきた道」本連載第34回参照)等で知られる中国の巨匠チャン・イーモウ監督が、上海出身のアメリカ華僑作家であるゲリン・ヤンの小説「陸犯焉識」を原作に、監督デビュー作の「紅いコーリャン」以来のコンビである女優コン・リーを8年ぶりに主演に起用して撮った作品である。ワン・ビン監督の「無言歌」本連載第10回参照)でも描かれた、反右派闘争と文化大革命を時代背景にしている。

 1957年、大学教授のルー・イエンシー(チェン・ダオミン)は、共産党に逆らうインテリ右派として捕らえられ、強制労働所に収容されていた。文化大革命のさなかの1974年、彼は逃亡し妻のフォン・ワンイー(コン・リー)、娘のタンタン(チャン・ホエウェン)の待つ家に向かうが、彼の行動を察知した党員たちは先回りしてワンイーとタンタンに彼が来ても絶対に会わずに通報するよう厳命するのだった。党による思想教育を受け、舞踊学校で革命演劇の主役を目指すタンタンは強く肯くが、ワンイーは夫の安否を心配し、動揺するのだった。

逃亡中の夫のために大量の饅頭を作る妻のワンイー(コン・リー)

逃亡中の夫のために大量の饅頭を作る妻のワンイー(コン・リー)

 やがてイエンシーから「明朝8時に駅の陸橋で待つ」という伝言が届く。ワンイーは久しぶりに会う夫のために、小麦粉をこねて大量の饅頭(マントウ)を作る。この饅頭は、餡の入っていない蒸しパンのようなもので、これから続くであろう夫の逃亡生活を考えてシンプルな饅頭を選んだと思われる。これと防寒用の上着を携えて彼女は駅に向かうが、情報を提供すれば主役に推薦すると見張りの男に言われたタンタンの密告によってイエンシーは捕らえられてしまう。

 ワンイーは陸橋の向こうにいる夫に近付こうとするが党員たちに阻まれ、激しく抵抗する中で背負袋の紐がほどけ、白い饅頭が道にこぼれていく様は再び離ればなれになる夫婦の切なさを表現している。

 3年後の1977年、文化大革命が終結して20年ぶりに解放されたイエンシーはワンイーとついに再会するが、彼女は娘の裏切りや夫を待ち過ぎた心労によって記憶障害を患っており、彼を夫とは認識できなくなっていた。しかし夫を待つ思いは残っていて、「5日に帰る」という夫からの手紙を信じ、毎月5日になると夫の名前を書いたプラカードを持って駅に立つのだった。

 イエンシーは仕方なく他人として向かいの空き家を借り、和解したタンタンの協力を得ながら妻に自分のことを思い出してもらおうと努力する。ある時はピアノの調律師として、またある時は彼が収容所で書き溜めた何百通もの妻への手紙の朗読者として。そして毎月5日には夫を駅に迎えに行く彼女の付添いとして。

 そうしているうちに彼自身が体調を崩して寝込んでしまう。すると彼女は手作りの水餃子を持って大晦日に彼を見舞うのだった。あくまでも他人としてではあるが、餃子がイエンシーのワンイーへの思いが伝わったことを示す印象的な小道具として使われている。

 チャン監督は恋のきた道」のきのこ餃子もそうだが、食べ物で登場人物の心情を表現するのが得意である。

「唐山大地震」の冷やしトマトと餃子

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「唐山大地震」は、1976年に中国・河北省唐山市付近を震源として発生した大地震によって引き裂かれた家族を32年にわたる年月を通して描いた作品である。日本では2011年3月26日に公開予定だったが、同年の3月11日に発生した東日本大震災によって公開が延期され、4年の時を経て今年の3月14日に公開に至った。

 揺れた時間はたった23秒だったが、公式発表によると242,769人が死亡、799,000人以上が負傷したという。これは20世紀の地震被害者数としては最大のものである。地震発生時のシーンは特撮やCGによってリアルに再現されており、人によっては精神的なストレスが生じる可能性があるので、ご鑑賞の際はご注意いただきたい。

 1976年7月28日。河北省唐山市。ファン・ドン(チャン・ツィフォン)とファン・ダー(チャン・ジアージュン)の双子の姉弟は、父ファン・ダーチアン(チャン・グォチアン)、母リー・ユェンニー(シュイ・ファン)と貧しいながらも幸せに暮らしていたが、この日の深夜に発生したマグニチュード7.8の大地震によって崩壊した家の下敷きになってしまう。

 父のダーチアンは2人の子供を助けようと家に飛び込むが、建物の倒壊に巻き込まれて落命し、母のユェンニーが一人残される。翌朝、救助に当たっている近隣の人が彼女に子供たちが瓦礫の下でまだ生きていることを知らせるが、瓦礫はシーソーのように危ういバランスをとっている状態で、どちらかを助ければもう一方は下敷きになってしまう状況であった。

「息子か娘か選んでくれ、早くしないと両方死んでしまうぞ!」

 あまりにも残酷な究極の選択を迫られた母は、苦悶の末「息子を」といって泣き崩れる。さらにむごいことに、その声は娘のドンの耳にも届いていた……。

 実はその前夜、暑さしのぎのために洗面器に水を張って冷やしておいたトマトを姉と弟で奪い合う一幕があって、その時に母が弟を優先したことが、この衝撃的な出来事とラストへの伏線になっている。

執筆者

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。