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「リトル・フォレスト 冬・春」四季折々の味覚(2)

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今回は、現在公開中の「リトル・フォレスト 冬・春」メニューを、昨年8月に公開された「リトル・フォレスト 夏・秋」(本連載82回参照)に続いてとりあげていく。

 本作の舞台である「小森」は、岩手県奥州市衣川区(旧・衣川村)の大森地区をモデルとしている。原作の漫画は、作者の五十嵐大介がそこで体験した自給自足の生活を主人公のいち子に投影させ、一年の四季を通して描いたもので、映画の撮影も当地で行われた。

 また、本作は今年の第65回ベルリン国際映画祭で、食をテーマにした秀逸な作品を選出するキュリナリー・シネマ部門に正式招待されている。

冬のメニュー7品
1. クリスマス・ケーキ
母が焼いてくれたケーキは、赤米とホウレンソウで着色したクリスマスカラー。

母が焼いてくれたケーキは、赤米とホウレンソウで着色したクリスマスカラー。

 クリスマスの日、いち子(橋本愛)は、かつて母・福子(桐島かれん)が焼いてくれた赤米とホウレンソウでクリスマスカラーに着色したケーキをヒントに、色を変えたものを作ることにする。

 黒米で水分少なめで濃いめに甘酒を作る。甘酒は真っ黒になるが、小麦粉、ベーキングパウダー、砂糖、油と混ぜて生地にすると、ちょうどよい紫色になる。紫色を鮮やかにするため、この生地に卵は使わない。

 次に、カボチャの黄色い生地を作り、型に黒米の生地を半分より少し低い高さまで入れて、その上にカボチャの生地を全体が8分目の高さになるまで入れて、オーブンで焼く。

 焼き上がったらすぐにラップして、膨らんだ面を下にして冷ます。これで全部の面が平らになる。そうして生地が縦2色になるように90度回転させ、生クリームでデコレーションする。

2. 納豆もち

 納豆に砂糖醤油を混ぜ、つきたてのもちをちぎり入れる。

 いち子が通っていた村の分校では、もちつき大会の3日前に柔らかく煮た大豆を藁苞(わらづと)に包み、保温効果のある雪穴を掘って埋め、納豆を作っていた。その分校も過疎化・少子化のあおりで今では廃校となり、現在では電気もちつき機でもちをついている。

3. 凍み大根と干し柿

 皮をむいて縦に切った大根を、生のまま外の寒さで凍みさせ干し上げると、身欠きニシンと炊き込むとおいしい凍み大根になる。

 また、秋に実がまだ固いうちに採った庭の柿は、皮をむき、枝を縄に挟んで軒下に吊るし、たまに手で揉むと、冬には柔らかい干し柿になる。そのままお茶うけにするもよし、なますに入れるもよし。

 これらは寒さを“調味料”にした、寒くないとできないものと言える。

4. ラディッシュの即席漬けと焼きおにぎり

 いち子が街で暮らしていた頃は、節約のために部屋でラディッシュを栽培していた。スーパーのバイトで同僚の男の子の昼食が菓子パン1個だけなのを見て、彼女は彼に小森から持ってきた米を炊いて作った焼きおにぎりとラディッシュの即席漬けの弁当を作ってやるのだが……。

5. アズキ

 秋に収穫して干したアズキを、冬の初めにクズ豆やゴミを選り分けて瓶に入れて保存する。このとき、よく太った形のよい太った形のいい豆は別にして、それをまた春の終わりに畑に播く。小森では、アズキを播く日は決まっている。早過ぎても遅過ぎてもダメで、タイミングが大事だ。

 あんこ作りも砂糖を入れるタイミングは、アズキを指でつぶせるくらいよく煮てから。そんなことを考えながら、いち子は、自分が街に出たタイミングは早過ぎたと感じていた。

6. ひっつみとチャパティ

 いち子は、雪の中を歩きながら、昨日キッコと喧嘩したときに「他人とちゃんと向き合ってきたの?」と言われたことを思い出していた。彼女はそれができなくて小森に帰ってきたのだ。

 家に戻ると、キッコが仲直りのカレーの鍋を抱えて待っていた。一計を案じたいち子は、ひっつみに小麦ふすまを混ぜ、麺棒で薄く伸ばして網で焼き始める。ひっつみは岩手県を中心とした地域で食べられているすいとんの一種で、水で練った小麦粉をひっつまんで鍋の中に入れることからその名があるが、出来上がったものはインド料理のパンであるチャパティだった。

 寒い小森で食べる暑い国の料理もまたおいしい。

執筆者

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。