大統領へのおばあちゃんの味

縮緬キャベツとサーモンのファルシ
「大統領の料理人」に登場する縮緬キャベツとサーモンのファルシ

今回と次回は年末企画として、今年公開された映画の中で印象的な食べ物や飲み物が出てきた映画を、私rightwideが独断と偏見で洋画と邦画に分け10本ずつセレクトして発表する。通常の連載ではカバーしきれなかった作品を一挙に紹介。順当な作品から意外な作品まで、これであなたも今年のごはん映画通? ではさっそく、洋画編から。

【選定基準】

2013年1月1日~2013年12月31日に公開(公開予定)の作品で、
・食べ物や飲み物の「おいしそう度」
・食べ物や飲み物の作品内容への関連性
・作品自体の完成度
の3点を加味して選定した。

●2013年度ごはん映画ベスト10〈洋画編〉(得点順)
チェック項目 おいしそう度 作品との関連性 作品の完成度 合計
大統領の料理人 ★★★★★ ★★★★★ ★★★★ 14
二郎は鮨の夢を見る ★★★★★ ★★★★★ ★★★★ 14
王になった男 ★★★★ ★★★★★ ★★★★ 13
天使の分け前 ★★★ ★★★★★ ★★★★★ 13
スタンリーのお弁当箱 ★★★★ ★★★★ ★★★★ 12
名探偵ゴッド・アイ ★★★ ★★★★ ★★★★★ 12
クロワッサンで朝食を ★★★ ★★★★ ★★★★ 11
ハッシュパピー バスタブ島の少女 ★★★ ★★★ ★★★★★ 11
ヒッチコック ★★★ ★★★ ★★★★ 10
地中海式 人生のレシピ ★★★ ★★★★ ★★★ 10

●2013年度ごはん映画ベスト10〈邦画編〉 →

1位「大統領の料理人」の縮緬キャベツとサーモンのファルシ

縮緬キャベツとサーモンのファルシ
「大統領の料理人」に登場する縮緬キャベツとサーモンのファルシ

 フランス大統領官邸・エリゼ宮で1988年からの2年間、当時のミッテラン大統領に仕えた女性シェフ、ダニエル・デルプシュをモデルにしたドラマである。

 大統領の料理人を辞したオルタンス・ラボリ(カトリーヌ・フロ)が「南極料理人」(本連載第38回参照)を彷彿とさせるフランスの南極基地にいる冒頭のシーンで意表をつき、男中心で縦割りの官邸厨房で奮闘した彼女の物語が回想形式で進んでいく。

 大統領の友人の三つ星シェフであるジョエル・ロブションにスカウトされた彼女の料理は、高級の枠にとらわれない“おばあちゃんの味”的な田舎風の味付けが特徴。それを象徴するのが、彼女が大統領のために最初に作った縮緬キャベツとサーモンをいく重にも重ねたファルシ(肉詰め)。葉付きのロワール産ニンジンをあしらった彩りも鮮やかで、この後も夢のような料理の数々が繰り出される。

2位「二郎は鮨の夢を見る」のおかませコース

 本連載第42回参照。ミシュランの三つ星に輝く銀座の名店「すきやばし次郎」にデヴィッド・ゲルブ監督が取材したアメリカ製のドキュメンタリーである。

 87歳で現役の初代店主・小野二郎の長年の研究の末に行き着いたその時の旬の食材を使った鮨20カンが次々と繰り出される「おまかせコース」は、一編の交響曲のような芸術品である。

3位「王になった男」の小豆粥

 李氏朝鮮時代、豊臣秀吉の出兵後に第15代朝鮮国王となった光海と、彼と瓜二つであったために影武者に選ばれた道化師ハソンの二役を「GIジョー」シリーズや「REDSリターンズ」でハリウッドに進出したイ・ビョンホンが演じた歴史劇である。

 敵対勢力による暗殺未遂で床に伏した光海の代役となったハソンが、慣れない宮中生活の中で癒されるのが毒見役の女官が作った小豆粥。この映画では韓流ドラマ「チャングムの誓い」にも出てくるような豪華な宮廷料理が次々に登場するのだが、この粥だけはハソンが幼い頃に食べた“おふくろの味”に似ていたのである。

 小豆粥は、その後も本物の王とは不仲の王妃やハソンを王の偽者と疑って斬り付けた武官に差し入れたりと重要な役割を果たし、クライマックスの悲劇にも関わってくるのである。

4位「天使の分け前」のスコッチウイスキー

 北アイルランド紛争を描いた「麦の穂をゆらす風」(2006)で第59回カンヌ国際映画祭パルム・ドールをするなど社会派の作風で知られるイギリスの名匠ケン・ローチが、スコットランドの不良青年たちの人生の逆転劇を描いたコメディである。

 傷害事件を起こし、裁判で社会奉仕活動を命じられたロビー(ポール・ブラニガン)は、指導者のハリー(ジョン・ヘンショウ)にウイスキーのテイスティングの才能を見出される。オークションに1樽100万ポンド(約1億4,000万円!)もする「幻のモルト」が出品されると知った彼は大胆な盗みの計画を立て、3人の仲間と北スコットランドの蒸留所に向かう。

 タイトルはウイスキーの製造工程で蒸発によって目減りする分のことで、ハリーらが樽から拝借する分の暗喩ともなっている。

 品評会でのテイスティングはこの作品の見所の一つで、ウイスキーの愛好家たちがその香りをさまざまなものにたとえるのがユニークである。

5位「スタンリーのお弁当箱」のインドのお弁当

 本連載第53回参照。ステンレス製のお弁当箱に小分けされたお弁当は、授業中に早弁してしまうのも無理はないと思われるほど彩り豊かでおいしそうだった。

6位「名探偵ゴッド・アイ」の炉端焼き

「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(本連載第2回参照)でも食べ物の使い方に冴えを見せたジョニー・トーの監督作品で、全盲の名探偵と“脳味噌筋肉”の女刑事のコンビが活躍する推理コメディである。

 ジョンストン(アンディ・ラウ)は、目が見えない分その他の感覚が発達しており、その一つが味覚という設定で、容疑者の炉端焼き店の板前を尋問する際に味付けの微妙な変化で心理的な動揺を見破る。

 職務を忘れてロブスターや帆立貝に舌鼓を打つジョンストンの食いしん坊ぶりが何ともおかしかった。

7位「クロワッサンで朝食を」のクロワッサン

 今年で85歳になるジャンヌ・モローが久しぶりの主演を果たした作品である。

 エストニアから家政婦としてパリにやって来たアンヌ(ライネ・マギ )が、同郷の老婦人フリーダ(モロー)の世話をするが、孤独で気難しいフリーダはアンヌが作る朝食に手をつけようともせず、アンヌがスーパーから買って来たクロワッサンを「プラスチックを食わすのか」とつき返し、「パンはマルシェ(市場)で買うものだ」と言ってつらく当たる。アンヌはそんな彼女と時には衝突しながら、次第に彼女の心を開いていく。

 確かにマルシェで買ったクロワッサンと紅茶の朝食は、スーパーで買ったしなびたそれよりもおいしそうに見える。

8位「ハッシュパピー バスタブ島の少女」のワニのから揚げ

 撮影当時9歳のクヮヴェンジャネ・ウォレスが史上最年少でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたことで話題となったファンタジーである。

 ルイジアナの河口近くにある「バスタブ」と呼ばれる島を、ある日百年に一度のハリケーンが襲い、島は水没してしまう。コミュニティの中で気ままに暮していたハッシュパピー(ウォレス)と父(ドワイト・ヘンリー)も難民キャンプに追いやられ父は病に倒れてしまう。

 ハッシュパピーは父のために、出て行った母の思い出の料理であるワニのから揚げを届けようと奔走する。「極楽」という名のナマズ料理店の女料理人によって、一見グロテスクなワニの切り身がジューシーなから揚げに変貌していく様が魔法のようであった。

9位「ヒッチコック」のバタートースト

 ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)が本連載第45回で紹介した「サイコ」(1960)の中盤で主人公のマリオン(ジェネット・リー)を殺すアイデアを、ヒッチコックの妻で脚本家のアルマ・レヴィル(ヘレン・ミレン)に話すシーン――アルマはバターを塗ったトーストを齧りながら「最初の30分で殺すのよ」とけしかける。このトーストは、本編でマリオンがベイツ・モーテルの主人のノーマン(アンソニー・パーキンス)に出されたパンを食べるシーンと明らかに対照していて興味深かった。

10位「地中海式 人生のレシピ」のサンドイッチ

 バルセロナの小さな港町にあるレストランの一人娘ソフィア(オリビア・モリーナ)が2人の幼馴染の間で揺れ動きながら一人前の女性シェフに成長していくスパニッシュ・グルメ・ラブコメディである。

「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」(本連載第53回参照)のフェラン・アドリア等、スペインの一流シェフたちが監修した創作料理が最大の見所だが、幼少時代のソフィアが海水浴場で売り歩く創意工夫を凝らしたサンドイッチがいちばんおいしそうに見え、彼女の将来性を感じさせるシーンになっている。

 ちなみに、映画館のシーンで上映される映画は前出「クロワッサンで朝食を」のジャンヌ・モローの若かりし頃の作品「突然炎のごとく」(1962)で、ソフィアと幼馴染2人との三角関係を暗示している。

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。