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京都で見つけた懐かしい茴香

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すっかり春となりましたが、3月の終わりの花見の季節の頃のことです。私の住まいは京都にとても近いのですが、まだ花見で京都に行ったことがありませんでした。それで、日曜日の3月29日、満開にはちょっと早かったのですが、やっと京都へ花見に行くことができました。

デパ地下にあった茴香
京都の百貨店で見つけたフェンネル

京都の百貨店で見つけたフェンネル

 ちょっとワクワクして出掛けました。しかし、今回の京都行きでは、美しい桜を見る以上にうれしい発見がありました。帰りに寄った高島屋京都店の地下、野菜売り場でのことです。

 そう、黄ニラ(前回をまた読んでみてください)があるかと思いついて、その百貨店に入ったのです。そして、いつものようにデパートの野菜売り場のたくさんの種類の野菜に見とれてうろうろしていたところ、ふと、使い慣れた日本のスーパーでは見たことがないものを目にしました。

 それはもしかしたら、茴香(ういきょう)ですか?

 ――そう思って近づいて、一束を持ち上げて、香りがあるか嗅いでみました。私が期待した懐かしい香りはなさそうでした。また、丸い大きな根も付いています。中国の野菜売り場で売っている茴香には丸い根がありません。それに茎の一本一本がもっと細い気がします。ちょっとがっかりしました。

 でも、それがどんな野菜か、店員さんに聞いてみました。それはフェンネル(fennel)というハーブで、魚料理の調味料として使われているとのことでした。調味料として使われるのならきっと香りがするだろう――そういう願いを込めて、半信半疑で買って帰りました。

 家でさっそくこれを洗って、根を切り落としてみました。その瞬間です。懐かしい茴香の香りが立ったのです。本物だ!

 やはり根のところは香りが強い。そして、楽しくなって、日本に来て初めて茴香餃子を作りました、大満足でした。

フェンネル=茴香
茴香の水餃子は私の好物の一つです

茴香の水餃子は私の好物の一つです

 その後、ちょっと調べたところ、やはり百貨店の店員さんが「フェンネル」と言ったものは「茴香」と同じだとはっきりしました。主な産地はインド、中国、エジプトなど。日本には平安時代に中国から日本に渡来しました。

 甘い香りと苦みが特徴で、消化促進・消臭に効果もある茴香は、中国では調味料の原料として使われますが、餃子や饅頭の具としてもよく使われています。これは私の好物の一つですが、日本ではあまり見かけません。だから、今回の発見は、私にとってまさに“重大”な発見と言えます。

 ところで、中国ではどうして「茴香」と名づけられましたか、おわかりでしょうか。それは、鮮度が落ちた肉や魚に茴香を使うと、その本来のよさを取り戻したようにおいしくなる効果があるのが、茴香の言葉の由来だそうです。「茴」の中国語の発音は「回」と同じです。これは「回復」と書くように「戻る」という意味があります。そして草の一種ですから、「回」の上にくさかんむりが付けられた。読んで字の如く、見て字の如く、ですね。

 それにしても、日本でも昔から「茴香」という漢字を使ってきたようですが、今はこのハーブを表す言葉は「フェンネル」が一般的になっています。漢字ならみなさんもこの由来の説明がわかりやすいでしょう。それなのに、カタカナで「フェンネル」と書いてしまっては、この意味も歴史も失われてしまいます。西洋風の魚料理に使われているので、フェンネルのほうが一般的になったのかもしれません。今度、私も茴香を使う魚料理を試してみようと思います。

香りを味わう茴香の水餃子

 さて、お薦めの食べ方はやはり茴香の水餃子です。作り方はとても簡単です。茴香をみじん切りにして、ひき肉と混ぜて、適量の塩を入れれば具が完成です。この独特な香りと、もちもちの皮の食感はきっと気に入るはずです。ただし、この香りを嫌う人もいます。残念ながら誰もが好きな野菜ではないようです。

 日本のデパ地下は、世界の食材の展示場のように、品ぞろえが本当に豊富です。また、見に行って、次のうれしい発見があることを期待しています。

 野菜でこんな幸せな気分を味わったのは久々です。これは異国でしか味わえない“味”でしょう。このおいしい体験を大切にしましょう。

【編集部・齋藤訓之より】

 徐さん、茴香の水餃子はおいしそうです。中国料理の素晴らしさの一つは香りのバラエティだと思います。だから、茴香の水餃子も中国の料理らしい一品でしょう。でも、香りが苦手という人は確かにいます。

 二十歳の頃、中国料理店に親戚が集まったときのことです。そこで出て来た料理の一つに香菜(シャンツァイ。パクチー、コリアンダー)がトッピングされていました。私はそれがあまりにもおいしくて、お店の人に頼んで、それだけを小皿に山盛りに出してもらいました。

 お店の人はおいしい肉味噌をつけてくれました。私はそれをおいしいおいしいと言って食べながらビールを飲んでいたのですが、一緒にいた何人かは怪訝な顔をしていました。

 八角(スターアニス)の香りが苦手という人も多いようです。ある中国料理店の東坡肉(トンポーロー)は味付けはよかったのですが何かもの足りない感じがしました。聞いてみると、八角を嫌う人がいるので使わないで作ったということでした。あれはがっかりしました。

 それでも、景気がよかった1990年前後から、日本ではかつてないほどに世界中のさまざまな料理が大衆向けに紹介されて、日本人も香りが特徴の料理をずいぶんたくさん楽しむようになったと思います。

 フレンチやイタリアンの料理店でふさふさのフェンネルがたっぷり使われるようになったのもその頃だったと思います。

 そうそう。あのフェンネルの丸い根ですが、ヨーロッパでは八百屋さんでその部分だけで売っていて、サラダやスープなどによく使うのだそうです。フェンネルはイタリア語でフィノッキオ(finocchio)ですが、日本のレストランでフィノッキオと言うと、とくにその根を指すことが多いようです。

 徐さんがおっしゃるように、多くの日本人は「フェンネル」より先に「茴香」を知っていました。とくに料理とお酒の好きな人ほど、よく知っていたでしょう。というのも、昔から親しまれている大衆薬の「太田胃散」など漢方処方の胃腸薬に使われる生薬の一つとして宣伝や説明書で見ていたはずだからです。

 しかし、茴香の水餃子なら、おいしいおいしいと言ってどんなにたくさん食べても、胃薬のお世話にならなくてもよさそうですね。

執筆者

徐航明
徐航明
じょ・こうめい Xu Hangming 中国の古都西安市出身。90年代後半来日。2000年東京工業大学大学院卒業。外資系通信機器メーカーを経て、2002年から電機メーカーに勤務。中国向けの標準化とアライアンス活動に携わっている。中国や日本などの異文化の比較研究、新興国のイノベーションなどに興味を持ち、関連する執筆活動を行っている。著書に「リバース・イノベーション2.0 世界を牽引する中国企業の『創造力』」(CCCメディアハウス)があり、「中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる『山寨革命』の衝撃」(阿甘著、日経BP社)の翻訳なども行っている。 E-mail:xandtjp◎yahoo.co.jp(◎を半角アットマークに変換してください)