商業化超えたブラック・パワー

ブラックムービーの食べ物(2)

「黒いジャガー」(1971、ゴードン・パークス監督)と、舞台になったニューヨークの食べ物について述べていく。「ブラック・ムービー」とその中に登場する食べ物について取り上げていくシリーズの第二弾。本作は1970年代前半にブームとなった「ブラックスプロイテーション映画」の代表作である。

ブラックスプロイテーション映画とは

 ブラックスプロイテーション(Blaxploitation)とは、ブラック(Black)とエクスプロイテーション(Exploitation、搾取)をくっつけた造語。もともと、観客の興味を惹きそうなセックスや暴力等を題材に低予算で製作された“金返せ系”映画をエクスプロイテーション映画(Exploitation film)と呼んでいて、それにブラックが付いた。その多くは黒人のヒーロー/ヒロインが悪の白人をやっつけるというストーリーで、差別・抑圧されている黒人たちの白人に対する復讐願望に乗じた映画会社の商魂が生んだジャンルである。

 このジャンルが成立した背景には、1950年代から60年代にかけて、キング牧師やマルコム・Xが主導した黒人公民権運動の拡大によって人種的意識の高まった黒人たちが、白人ばかりが目立つ映画に飽き足らなくなり、「黒人の、黒人による、黒人のための映画」を求めたことがある。

 とは言え、映画会社の安易な製作姿勢もあり、その多くは駄作で、70年代半ばにブームは去ったが、「黒いジャガー」をはじめ「ロールスロイスに銀の銃」(1970、オシー・デイヴィス監督)、「スウィート・スウィートバック」(1971、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督)、「スーパーフライ」(1972、ゴードン・パークス・Jr監督)といった黒人監督による初期の作品群は、奇跡的に優れた“ブラック・パワー・ムービー”になっている。

飲食が映し出す1970年代のニューヨーク

1927年、ニューヨークのグリニッジビレッジで創業した「カフェ・レジオ」。ニューヨークで初めてカプチーノを出したという老舗である。
1927年、ニューヨークのグリニッジビレッジで創業した「カフェ・レジオ」。ニューヨークで初めてカプチーノを出したという老舗である。

「黒いジャガー」はニューヨークが舞台。黒人私立探偵のシャフト(リチャード・ラウンドツリー)が、娘を誘拐されたハーレムの黒人ボス、バンピー(モーゼス・ガン)から娘の捜索依頼を受け、黒人解放組織「黒軍派」のリーダー、ベン(クリストファー・セイント・ジョン)と協力して、ハーレムの支配を狙うイタリア・マフィアがバンピーの娘を誘拐したことを突き止め、救出するまでを描いたアクションである。

 メインスタッフとキャストを黒人で固めた“純ブラック・ムービー”で、音楽を担当したアイザック・ヘイズが作曲した主題歌「黒いジャガーのテーマ」は第44回アカデミー歌曲賞を受賞し、BGMは日本の刑事ドラマの劇伴(伴奏音楽)にも影響を与えている。

 シャフトが巡るニューヨークの街で立ち寄る場所での飲食シーンは本作のアクセントであり、この時代のニューヨークという街を映し出すのに一役買っている。オープニング後の靴磨き店のシーンでは甘過ぎるコーヒーに文句を言うシャフトに、靴磨きの老人がバンピーの手下がシャフトを探していることを伝える。バンピーとアポをとった後の屋台で焼き栗を買うシーンでは、イエローキャブがシャフトの乗車を拒否して白人を乗せるという露骨な差別描写がある。

 ベンのアジトに向かう前のホットドッグスタンドのシーンでは、警部補のビク(チャールズ・チオッフィ)がタマネギ抜きのホットドッグを注文しながらシャフトに探りを入れ、グリニッジビレッジの酒場ではバーテンを装ったシャフトがスコッチをおごるふりをしてマフィアを罠にはめる。マフィアの殺し屋との待ち合わせ場所、1927年創業の老舗コーヒーショップ、「カフェ・レジオ」では、シャフトがエスプレッソを飲みながらサンドイッチとレモンピールについてウェイトレスと丁々発止のやり取りを繰り広げるといった具合である。

ブラックスプロイテーション映画を継ぐ者たち

「黒いジャガー」はヒットし、「黒いジャガー/シャフト旋風」(1972、ゴードン・パークス監督)、「黒いジャガー/アフリカ作戦」(1973、ジョン・ギラーミン監督)の2本の続編が作られ、1973年にはTVシリーズも製作された。また、現代アメリカを代表する黒人男優サミュエル・L・ジャクソン主演でリメイク「シャフト」(2000、ジョン・シングルトン監督)、2019年には続編「シャフト」(ティム・ストーリー監督)が作られている。

 ブラックスプロイテーション映画の熱狂的信者として知られるのが、サミュエル・L・ジャクソンの出世作「パルプ・フィクション」(1994)の監督、クエンティン・タランティーノである。「肌の色以外は黒人」と公言してはばからないタランティーノは、「コフィー」(1973、ジャック・ヒル監督)、「フォクシー・ブラウン」(1974、ジャック・ヒル監督)等のブラックスプロイテーション映画に主演したアクション女優パム・グリアの大ファンで、1997年に彼女主演でブラックスプロイテーション色の強い「ジャッキー・ブラウン」を監督し夢を実現させた。「ジャッキー・ブラウン」にはサミュエル・L・ジャクソンも出演し、第48回ベルリン国際映画賞の銀熊賞(男優賞)を受賞している。


【黒いジャガー】

「黒いジャガー」(1971)
作品基本データ
原題:SHAFT
製作国:アメリカ
製作年:1971年
公開年月日:1972年4月1日
上映時間:100分
製作会社:スターリング・シリファント、ロジャー・ルイス・プロ
配給:MGM
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:ゴードン・パークス
脚本:アーネスト・タイディマン、ジョン・D・F・ブラック
原作:アーネスト・タイディマン
製作:ジョエル・フリーマン
撮影:アース・ファーラー
音楽:アイザック・ヘイズ
編集:ヒュー・A・ロバートソン
キャスト
シャフト:リチャード・ラウンドツリー
バンピー:モーゼス・ガン
ビク:チャールズ・チオッフィ
ベン:クリストファー・セイント・ジョン
エリー:グウェン・ミッチェル

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。