「ゴールデンウィーク」の語を生んだ「自由学校」の食べ物

鮎のフライをつまむ茂木(大映版より)
鮎のフライをつまむ茂木(大映版より)

大型連休も後半に入ったが、「ゴールデンウィーク」という言葉が映画界から生まれたことは有名な話である。

 1951年(昭和26年)5月5日(土)、同じ原作を大映と松竹が同じ題名で映画化した「自由学校」が同時に封切られ、大映版の方は会社創業以来の興行成績を記録した。

 正月映画やお盆映画に匹敵するヒット作が出たことに気をよくした当時の大映常務取締役の松山英夫が、この時期を「ゴールデンウィーク」と名付けて宣伝に利用したのが定着し、一般にも使われるようになったのが始まりとされている(語源由来辞典「ゴールデンウィーク」)。今回はこの「自由学校」の内容と登場する食べ物について述べていく。

自由学校とは何か

「自由学校」は朝日新聞に1950年5月26日~同年12月11日に連載された獅子文六による長編小説である。獅子文六は当時の人気作家の一人で、その作品の多くが映画化されており、この作品については松竹と大映の両方が映画化権を得たことで競作となった。ちなみに彼の原作による1955年の「青春怪談」も日活と新東宝の競作となっている。

 ストーリーは、自由が欲しいという理由で会社を辞めた五百助(松竹:佐分利信、大映:小野文春)が妻の駒子(松竹:高峰三枝子、大映:木暮実千代)に家を追い出され、ルンペン暮らしの末に和解して家に戻るまでを描いたものである。

 作品は敗戦による連合国軍占領下(最近話題となったサンフランシスコ講和条約による日本国の主権回復は1952年4月28日)という当時の世相を反映し、カタカナ英語が頻繁に飛び交うものとなっている。フランス語で「戦後」を意味するアプレ・ゲール(アプレ)と呼ばれた若い世代の代表として「キャンディ・ボーイ」(内容のない甘い当世風の若者の意)こと隆文(松竹:佐田啓二、大映:大泉滉)とユリ(松竹:淡島千景、大映:京マチ子)のカップルが「飛んでも、ハップン」(とんでもないの意)や「イカレ・ポンチ」(すぐ流行などに熱中する軽薄な若者の意)といった流行語を連発して主演の夫婦に波風を立てる役回りを演じている。

お金の水橋の炊き出し

 家を出た五百助は東京の街をあてどもなく歩いた末に浮浪者の金治爺さん(松竹:東野英治郎、大映:藤原釜足)の住む焼け跡の防空壕に身を寄せる。そこで得た仕事はタバコの吸殻を拾い集めて燃え残った葉を改めて紙巻にし、闇タバコとして売る洋モク拾いであった。やがて二人は焼け跡を出てお金の水橋(御茶ノ水橋がモデル)の下の小屋に引越し、住民たちが集まって歓迎会が行われる(映画では松竹版のみ)。

 焼酎四合壜一本、焼きスルメ、ゆでソラ豆、それに爺さんと五百助のために、大握飯六個──

(原作「自由学校」より)

 今まで属していた上流階級とは対照的な貧しい食事であったが、五百助はそこで初めて求めていた自由を得たのである。

ブロンディの鮎のフライ

 なかなか家に戻らない夫を心配した駒子は大磯に住む彼の叔父の家に相談に行く。そこでは「やんす」「ざます」言葉を使う「アバン・ゲール」(アプレ・ゲールの反語で戦前派の旧世代の意)の道楽である神楽の会が開かれていて、その一員である辺見(松竹:清水将夫、大映:山村聡)に見初められた彼女は、事あるごとに彼に誘われるようになる。

 ある日彼女は彼とアメリカ帰りで羽振りのいい茂木夫婦の食事会に招かれ、そこで鮎のフライをメインディッシュにした米国式の食卓を目の当たりにする。

 小さな鮎を、オリーブ油で揚げたと見えて、黄金色に反り返ってるのを、茂木は、塩でふりかけてから、指でつまみながら、

「これだけが、ここの鮎なんだよ、柳の葉ッて、いうやつかな。後の料理には、長良川のを、探さしたがね」

と、無造作に、メニュの説明をした。

「あたしは、川魚料理なんて、ほんとは、好きじゃないんだけど、肉(ミート)は、食べないようにしてるもんだからね」

「お肉、お嫌い?」

「いいや、肥(ふと)る心配をしてるんですよ、うちのブロンディは……」

(同)

鮎のフライをつまむ茂木(大映版より)
鮎のフライをつまむ茂木(大映版より)

 ここで茂木夫人のニックネームとして出てくるブロンディとはアメリカの新聞四コマ漫画の主人公である主婦の名前で、当時は週刊朝日と朝日新聞に連載されていた。憧れのアメリカンライフの象徴として、食をはじめとする戦後の日本人の生活の欧米化に貢献したとされている。

 また食事の細かい描写は食通として知られ、「私の食べ歩き」(中公文庫)や「食味歳時記」(文春文庫)などのエッセイを遺した原作者・獅子文六ならではのものがある。

松竹版と大映版の比較

 結論から言うと、両作ともほぼ原作を忠実に映画化しており、その出来には甲乙つけがたいものがある。あえて違いを述べると、佐分利信と高峰三枝子という戦前から何度も共演しているコンビと、前作「てんやわんや」(1950)で同じ獅子文六の原作を手がけた渋谷実監督による松竹版の安定ぶりに対し、主演の五百助役に一般公募の素人を起用し、前年の1950年に設立した独立プロダクションである近代映画協会のスタッフ(監督:吉村公三郎、脚本:新藤兼人、出演:殿山泰司)を中心に作られた大映版が、より当時の世相への風刺に意欲的なことぐらいだろう。

 なお、一般公募1600人の中から大映版の主演に選ばれた小野文春は、文芸春秋社の出版企画部長を勤めていたことが芸名の由来となっている。

作品基本データ

【自由学校】松竹版

製作国 :日本
製作年 :1951年
公開年月日 :1951年5月5日
上映時間 :109分
製作会社 :松竹大船
配給 :松竹
カラー/サイズ :モノクロ/スタンダード

監督:渋谷実
原作:獅子文六
脚色:斎藤良輔
製作:山本武
撮影:長岡博之
美術:浜田辰雄
音楽:伊福部昭

◆キャスト
南村五百助:佐分利信
南村駒子:高峰三枝子
羽根田力:三津田健
羽根田銀子:田村秋子
藤村ユリ:淡島千景
堀芳蘭:杉村春子
堀隆文:佐田啓二
辺見卓:清水将夫
平さん:笠智衆
茂木:松井翠声
茂木夫人:高橋豊子
長谷川金次:東野英治郎
加治木:小沢栄
下宿のおばさん:望月美惠子

【自由学校】大映版

製作国 :日本
製作年 :1951年
公開年月日 :1951年5月5日
上映時間 :105分
製作会社 :大映東京
配給 :大映
カラー/モノクロ :モノクロ/スタンダード

◆スタッフ
監督:吉村公三郎
原作:獅子文六
脚本:新藤兼人
製作:服部靜夫
撮影:中井朝一
美術:今井高一
音楽:仁木他喜雄
画:宮田重雄

◆キャスト
南村五百助:小野文春
妻駒子:木暮実千代
ユリ:京マチ子
隆文:大泉滉
羽根田博士:徳川夢声
妻銀子:英百合子
藤村功一:山口勇
藤村の妻:織賀邦江
堀芳蘭:岡村文子
菱刈乙丸:河原侃二
辺見卓:山村聡
加治木健兵:殿山泰司
同志高橋:宮崎準
じいさん:藤原釜足
平さん:藤田進
高山:加東大介
茂木:斎藤達雄
茂木夫人:荒川さつき
高杉未亡人:宮原恭子

(参考文献KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。