映画の中の豚「ブタがいた教室」「豚と軍艦」

豚の丸焼きの中に入っていたのは……(絵・筆者)
豚の丸焼きの中に入っていたのは……(絵・筆者)
星先生(妻夫木聡)は一学期の初日に子豚を教室に連れてくる(絵・筆者)
星先生(妻夫木聡)は一学期の初日に子豚を教室に連れてくる(絵・筆者)

冷しゃぶやゴーヤーチャンプルーなど夏のメニューも豊富な豚肉料理。今回は豚が登場する新旧の日本映画を2本紹介する。

「いただきます」の意味

「ブタがいた教室」(2008)は大阪の公立小学校で教鞭をとっていた黒田恭史の実体験を基にした著書「豚のPちゃんと32人の小学生――命の授業900日」の映画化である。

 1学期の初日、6年2組を担任することになった新任教師の星先生(妻夫木聡)は、教室に1頭の子豚を連れて来る。卒業までの1年をかけてその豚を育て、最後には食べようという彼の提案から、26人の生徒たちは校庭に小屋を作り、“Pちゃん”と名付けてその子豚を飼い始める。

 Pちゃんの世話には餌集めや糞の処理、病気など数々の困難がつきまとうが、彼らはそれらを通じて楽ではない家畜の飼育について学ぶ。そして時にはサッカーで遊んだりしてPちゃんへの愛着が深まっていく。しかし、それは同時にPちゃんを食べることに対する抵抗が増すことでもあった。卒業が近付き、彼らはホームルームで「Pちゃんを食べる」(食肉センターに送る)か、「食べない」(3年生に世話を引き継ぐ)かについて大激論を展開するが、なかなか結論を出すことができない。投票も13対13の同数となり、最後の一票はクラスの一員である星先生に託される。そして星先生が最後に出した結論とは……。

 映画は6年2組の生徒たちによるディスカッションシーンにかなりの時間を割いている。前田哲監督は子役の生の声を引き出すためにあえてこのシーンの台本を配らず、彼ら自身が考えた言葉で話させたという。そしてその言葉の一つひとつが大人にとっても日々生き物の命をいただいて生きていることの意味について考えさせる重みがある。

 また、給食や家庭でハンバーグや焼肉などの豚肉を使った料理や、生徒の一人の家である食堂で豚肉を捌くシーンなどが挿入され、生き物を食べることに対する子供たちの微妙な気持ちの変化をとらえている。

ドブ板を猪突猛進!

豚の丸焼きの中に入っていたのは……(絵・筆者)
豚の丸焼きの中に入っていたのは……(絵・筆者)

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「豚と軍艦」(1961)は、前回紹介した「うなぎ」(1997)の今村昌平の5作目の監督作品である。

 初期の今村作品は、師匠である「幕末太陽傳」(1957/今村は脚本とチーフ助監督を担当)の川島雄三監督の影響を強く受け、戦後の庶民のしたたかな生き様を描いた作品が多い。監督デビュー作の「盗まれた欲情」(1958)のドサ回りのテント劇場の旅芸人一座や、「果てしなき欲望」(1959)の旧日本軍のモルヒネ発掘を巡って争う悪人たちと同様、本作品でも当時東洋最大の軍港と呼ばれた横須賀を舞台に、在日米軍の利権にたかる人間たちの欲望に取り憑かれた姿を描いている。

 警察当局によって米兵相手の売春ハウスを摘発されてしまった地元暴力団の日森組は、ハワイ出身の日系人崎山(山内明)と結託し、米軍の出す大量の残飯を安価で払い下げ、養豚の飼料にしようと目論む。組幹部で「人斬り」の異名を持つ鉄次(丹波哲郎)の舎弟でチンピラやくざの欣太(長門裕之)は、「日米畜産協会」と称する豚舎を任されて俄然張り切る。

 そんなある日、組長の日森(三島雅夫)が、彼と浅からぬ因縁を持つ流れ者やくざの春駒(青木富夫)を殺してしまうという事件が起こる。組の子分である星野(大坂志郎)、大八(加藤武)、軍治(小沢昭一)らと遺体を海に沈めた欣太は、万一の時は組長の身代わりになるよう星野に諭される。しかしほどなくして春駒の遺体が浮かんできてしまい、処理に困った一同は遺体を豚舎に穴を掘って埋めることにする。

 数日後、麻雀に興じていた鉄次たちの前に欣太が育てた豚の丸焼きが出される。腹の減っていた一同は喜んでありつくが、鉄次の歯にカチッと何かが当たる。取り出してみるとそれは人間の差し歯であった。大八がニヤニヤしながら、穴を掘って遺体を埋めるのが面倒くさかったので豚舎にそのまま放っておいたと告白する。普段は強面で通しているやくざたち、とくに鉄次の狼狽ぶりが何ともおかしく、「重喜劇」の今村の面目躍如たるシーンとなっている。

 この映画のクライマックスは、ドブ板通りでのやくざたちの仲間割れのシーンである。豚を持ち逃げようとして追い詰められた欣太が、米軍流れの機関銃をぶっ放しながらダンプカーに満載した豚を通りに放し、暴走する豚の群れは敵味方を問わずやくざたちを押し潰してゆく。よく豚は愚かな人間の代名詞として使われるが、シネマスコープの画面いっぱいに満員電車のように押し込められた豚と人間のクローズアップが、愚かな人間たちの欲望の末路を示しているようである。

 まあ、何の関係もないのに人間たちの業の深さに付き合われた豚たちにとっては、トンと迷惑な話であったことだろう。

作品基本データ

【ブタがいた教室】

「ブタがいた教室」(2008)

製作国:日本
製作年:2008年
公開年月日:2008年11月1日
製作会社:「ブタがいた教室」製作委員会
配給:日活
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
上映時間:109分

◆スタッフ
監督:前田哲
原案:黒田恭史「豚のPちゃんと32人の小学生」(黒田恭史著、ミネルヴァ書房)
脚本:小林弘利
エグゼクティブプロデューサー:馬場清
撮影:葛西誉仁
美術:磯見俊裕
音楽:吉岡聖治
主題歌:トータス松本
録音:小野寺修
音響効果:小島彩
照明:守利賢一
編集:高橋幸一
スタイリスト:小里幸子
ヘアメイク:池田美里
助監督:橋本光二郎
動物統括:田嶋啓次

◆キャスト
星先生:妻夫木聡
高原校長:原田美枝子
仁科教頭:大杉漣
池沢先生:田畑智子
甘利花:甘利はるな
甘利花の母:戸田菜穂

【豚と軍艦】

「豚と軍艦」(1961)

製作国:日本
製作年:1961年
公開年月日:1961年1月21日
製作会社:日活
配給:日活
カラー/サイズ:モノクロ/シネマ・スコープ(1:2.35)
上映時間:108分

◆スタッフ
監督:今村昌平
脚本:山内久
企画:大塚和
撮影:姫田真佐久
美術:中村公彦
音楽:黛敏郎
録音:橋本文雄
照明:岩木保夫
編集:丹治睦夫
スチル:斎藤耕一

◆キャスト
欣太:長門裕之
春子:吉村実子
日森:三島雅夫
鉄次:丹波哲郎
星野:大坂志郎
大八:加藤武
軍治:小沢昭一
勝代:南田洋子
菊夫:佐藤英夫
崎山:山内明
弘美:中原早苗
母ふみ:菅井きん
春駒:加原武門
矢島:西村晃
妻つね:初井言栄
陳:殿山泰司

(参考文献:キネマ旬報映画データベース)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。