正統レトロモダンの店内でゆっくり過ごす贅沢「近江屋洋菓子店」神田店(東京・淡路町)

「イチゴサンドショート」
「イチゴサンドショート」

「近江屋洋菓子店」神田店
「近江屋洋菓子店」神田店
店内
正統レトロモダンの店内

 神保町から秋葉原に向かう界隈には、ちょっと時間がゆっくり流れている空間があるような気がする。とりわけ淡路町あたりは、ゆらゆらと散策していると、楽しそうなお店が散見して……。

創業は明治17年の老舗

 今回訪れたのは、根強い人気を誇る老舗「近江屋洋菓子店」神田店さん。

 ガラス張りの開放感のある入口から中へ入ると、そこには、好き者にはたまらない光景が広がっている。高い天井、奥まで広がる空間。広々とした店内には光が溢れている。

 お店に入った左手には、作りたてでイカニモおいしそうなお惣菜パンコーナー。ショーケースには新鮮な果物を使った昔ながらのケーキがずらり、と並ぶ。

 奥に向かうと、そこは、“レトロモダン”な照明と椅子が並ぶ喫茶コーナー。ゆったりとした感覚を味わいながら座る、革づくりの背の高い椅子と机がまたなんともいい感じ。

 ちょっと時間を忘れそうになってしまう。

 創業は明治17(1884)年というから相当な老舗です。初代が商ったのは炭と駄菓子。その後、アメリカで修業してケーキを覚えた2代目から洋菓子店としての近江屋の歴史が始まる。御当主は4代目の社長吉田太郎さん(61)で、妻で取締役の優子さん(58)が、お店に立って接客を差配している。

 この美しい店舗は、昭和41(1966)年に3代目の故吉田増蔵さんが造ったもの。優子さんは、「(3代目は)相当センスのある人だったんじゃないですか。照明や細かいところまで注文つけて作らせたらしい。それが今でも立派に残るものになってるんです」と誇らしく語ってくださった。

  • 惣菜パンコーナー
    惣菜パンコーナー
  • 洋菓子のショーケース
    洋菓子のショーケース

 建物は1階が店舗、2階が工場、4~5階が住居。ちなみに本郷店も1階店舗、2階工場の7階建てビルに建て替えているが、内部は驚くほど似せて造られている。そして、両店とも、しっかりそろっているパンとケーキ、そしてセルフサービスの喫茶コーナーの充実が特徴だ。

 気軽で、それでいて落ち着く店内にファンは多い。

「もともとは、ウェイトレスさんがお運びをする普通の喫茶ルームだったんです。それを4代目が『アメリカのジュースバーのようにしたい』と言って、セルフサービスのかたちにしたんですよ」と優子さん。

吉田優子さん
店舗を切り盛りする吉田優子さん
ドリンク・コーナー
ドリンク・コーナー

 この喫茶コーナーの品ぞろえにも目を見張る。朝の9時から夜の19時まで、普通のお茶、コーヒーは当たり前のこと、フルーツジュースをはじめとするソフトドリンク、具だくさんのスープ、そして夏場の今はかき氷まで、525円で飲み放題なのだ。

 飲み放題とは言っても、一般のファミレスのドリンクバーと違うのは、とくにフルーツジュースの新鮮さ。しぼりたてでしっかり冷やされた各種ジュースが、いつも新鮮なまま置かれている。

 そのフレッシュさになにか秘訣は? と聞くと、優子さんが笑って答えてくれた。

「秘訣なんてなくて、すーぐなくなっちゃから、いつも補充し続けてるだけ。作っちゃあ出して、作っちゃあ出すから新鮮なんですよ」

 そんな驚くほどの人気ぶり。その他にも、熱々のスープは、野菜たっぷり、お肉ゴロゴロで実に味わいが深い。

飛ぶように売れる「イチゴサンドショート」

「イチゴサンドショート」
「イチゴサンドショート」
「黄桃サンドショート」
「黄桃サンドショート」
「ストロベリーシュー」
「ストロベリーシュー」
「ピロシキ」
中がいっぱい詰まった「ピロシキ」
具だくさんのスープ
具だくさんのスープ

 その超お得で楽しいドリンクと、自分の好きなパンかケーキをそろえて喫茶コーナーに座っていると、その高い天井、まさにレトロモダンの粋のような店内がとてもとても好きになってくる。

「昔からの建物だから配管や電気系統だって古いけど、ちゃんと手当てしてくれる業者さんもいてね。そういうお付き合いを含めてうちの財産だと思ってます」

「近江屋洋菓子店」は、そのように伝統を守りながら、そこに安住せず、新しいチャレンジもしていく。そのバランスのよさが、ファンにはたまらない。

 たとえば、最近のこちらの看板スイーツである「イチゴサンドショート」(630円)は、ファン垂涎の的! 新鮮なイチゴを惜しげもなくふんだんに使うこのケーキは、仕入れによって出来る日と出来ない日があるらしいが、これがショーケースに並ぶと、瞬く間に売り切れてしまう。某雑誌の洋菓子ランキングで都内TOP3に入り、洋菓子特集の表紙を飾った。

 このケーキが出来たきっかけは、15年ほど前、吉田社長が大田市場に通っている頃、「小さなイチゴをどうにかできないか」と相談を受けたことだったという。

「そういうお付き合いがしっかりあってこそのうちですから」(優子さん)

 その他にも、黄桃の味が濃い「黄桃サンドショート」、イチゴを挟み込んだ「ストロベリーシュー」、リンゴたっぷりの「アップルパイ」、果物がてんこ盛りの「フルーツポンチ」など、ファンの心を捉えて離さない商品は枚挙にいとまがない。

 貫く基本は、きょうび流行のデザイン優先の華やかなスイーツではなく、「ベーシックで本当においしい洋菓子」。奇をてらわないけれど、新鮮なフルーツと確かな材料で、実にバランスよく作られたこちらのケーキは何を食べても満足感を与えてくれる。

 洋菓子だけではない。「ピロシキ」なら、おいしい具がパンパンに入っていて実にうれしいのだ。こういう“確かなもの”を食べながら、フレッシュジュースや具たくさんで味わい深いスープをゆっくり飲んでいると、どんどん時間が過ぎて行ってしまう。

「今の喫茶コーナーの“売り”は、「スイカジュース」ですね。今の季節しかありませんから。お電話で『スイカジュース始まりましたか?』なんて聞かれてお見えになる古くからの常連さんもいらっしゃいますから」

古くても確かなものを

 昼間はお使いや喫茶、夕方から会社帰りのOLさんやサラリーマンが、こちらのケーキとジュースで、ホッと一息をつくオアシス……。近江屋洋菓子店には、都会の中でありながら、忙しさを一瞬でも忘れさせてくれる“何か”がある。

「今、息子がまだ学生なんだけど、5代目を継ごうか、って言ってくれてる。『古くても確かなもの』を受け継ぎながら、お客さんに喜んでもらえるものをご提供していきたいですね」(優子さん)

 とっておきの場所として、心のオアシスとして、これからも通いたい「近江屋洋菓子店」なのであった。

 ちなみに、最近、ハマっているのが、こちらの神田店でスイーツとジュースを楽しんだあと、ここから徒歩2分ほどの近さにあって11時から開いているスーパー銭湯「神田アクアハウス江戸遊」でお風呂に入ってさっぱりすること。これもまたたまんない楽しさなのです!

●「近江屋洋菓子店」神田店

東京都千代田区神田淡路町2-4
Tel.03-3251-1088

●「近江屋洋菓子店」本郷店

東京都文京区本郷4-1-7
Tel.03-3815-3007

営業時間:9:00~19:00(月~土)、10:00~17:30(喫茶は~17:00/日・祝)
※年末年始の休業・営業時間は問い合わせを。
Webサイト:http://www.ohmiyayougashiten.co.jp

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。