艶やかでつややか乙女うどん「慎」(東京・新宿)

「かしわ天ざる」(850円)
「かしわ天ざる」(850円)
「慎」(東京・新宿)
「慎」(東京・新宿)。お店は新宿駅南口からサザンテラス、マインズタワーを抜けて西に向かった辺り。

インフルエンザ、大流行ですね。自分の事務所でも罹患者が4人! 世間でもその猛威たるやとんでもないことになっています。手洗い、うがいはもちろんですが、インフルエンザにかかったら、無理せずにきちんと休むこと!

うどんの世界にどっぷりと

 今、東京はうどんが熱い!

 麺大好きな自分が勝手にマイブーム化しているところもあるけれど、近年の讃岐うどんブームからの本格讃岐うどんに始まって、武蔵野うどん、関西系のうどん、稲庭うどん、などなど元気なうどんがたくさん出てきた。

 そもそも、ソバの実のおいしさが勝負の中心であるそばと違って、うどんは小麦粉を練る過程で独特のコシとうま味を生み出す、実に奥深い麺類なのだ。

 店によって、こね方によって、時間によって、微妙に違う味とうま味。この世界にどっぷりとハマると、おいしいうどんを探して、あちらへこちらへと巡ることになる。

 東京でも、赤羽の「すみた」、神保町の「丸香」、飯田橋の「悠讃」、高田馬場の「蔵之介」、本郷の「こくわがた」、五反田の「おにやんま」など名店が勢ぞろい。その中でも、近年、めきめき頭角を現し、話題になっているのが、新宿にある「慎」(しん)さんなのだ。

ゆでる直前に切るうどん

「かしわ天ざる」(850円)
「かしわ天ざる」(850円)

 こちらのうどんは、釜あげも、釜かけもおいしいのだけど、やっぱり、ダントツに注文されるのが、ざる。シンプルでいちばんうどんの味がわかる、このメニューが圧倒的に支持される。

 とりわけ、かしわ天うどんを取りたい。頼んでみると、まず見た目の美しさに、心を奪われる。優美に、女性の裸のように美しい曲線を描きながら横たわるうどん、とでも言おうか。

 このたおやかな曲線と弾力に満ちたうどんは、28歳の店主楢原慎司さんの工夫とセンスから生まれたものだ。

 もともと福岡県の久留米で生まれ育った楢原さん。高卒後、植木職人として修業してたが、将来に不安を感じ、たまたま東京に遊びに来た際に訪れて感銘を受けた某有名うどん店の社員募集に応募して修業を始めたという。

 初めての飲食店の仕事に戸惑いながらも働き続け、その後、別の店に。3年間、懸命に働いているうちに、打ち粉をほとんど使わずに切る独特のスタイルを編み出していったという。

楢原慎司さん
28歳の店主楢原慎司さん

「打ち粉をほとんど使わないで、ゆでる直前に生地から麺線(うどん)を切っていくと、独特のうまみとやわらかさとコシが出るんです。これはおいしいな、武器になるな、と思いました」

 いつかは自分の店を、と独立を考え始めた楢原さんは、これは! という店に頼み込んで働かせてもらい、うどんだけではなく、日本酒やつまみなどのノウハウも蓄積していった。

「正直、うどんだけでやっていくのは売上的にもキツい。自分は日本酒も好きで、つまみを含めて自分の店でやってみたいと思いましたので、先達にアドバイスをもらいながら、試行錯誤していったんです」

 その後、都の融資制度と公庫を使って2000万円の立ち上げ資金を確保。

 ところが、開店しようとしていた矢先に、あの東日本大震災が起こった。

「流通とかがガタガタになってしまって、正直ダメかな、と思いましたが、なんとか踏みとどまって、震災の翌月4月に開店しました」

 そこから、懸命に働いた結果、評判が評判を呼び、今のかたちになってきたわけだ。

官能的なかしわ天とざるうどんのセッション

うどんの光沢
この光沢とぷるるん、としたたたずまいがなんとも素敵

 こちらのうどんは、他の店と明らかに違う。「それは、切りたてをお出しするからでしょうね」とはにかむように話す若き店主。

 実際に目の前で見るとわかるが、こちらのうどん、とくにざるは、つやつやと、美しく光っている。

 この光沢とぷるるん、としたたたずまいがなんとも素敵なのだ。

 そして、つけあわせのかしわ天。この天ぷらも、もちろん、揚げたてだ。

 ざるうどんを、食べてみる。

 ざっとタレににつけるのだが、この醤油ベースのタレがまた、濃すぎず、強すぎず、それでいてしっかりうどんを味つけていてちょうどいいのだ。

 一口すする。

 口のなかに躍り込むうどん。

 ちゅるん、と口の中に入り込んできただけで、歓びが弾ける!

 その口当たりのやわらかさと、内側に秘めたコシと弾力、そして、口の中をくすぐる食感が、なんとも、実に官能的なのだ。

 擬音で言うと、

ちゅるん、ふわり、ぐぐっ、くるん!

 という感じに近いだろうか。

 そして、その官能的な食感を味わったあと、口の中に広がっていくのが、うどんの奥深いうま味。

 うどん独特のうま味、グルテンを練ったときにグルタミン酸が生まれるのだろうか、まったく、感服してしまう。

 そうして、官能に震えた後でやってくるのが、かしわ天のじゅわっとしたジューシーなお肉とさっくさくの衣。

 これを食べていくと、もう、箸が止まらなくなる。

ちゅるん、ふわり、くるん、じゅるん、カリッ、ジュワッ、ちゅるん……。

 口の中で、美しくも官能的な、かしわ天とざるうどんのセッションが繰り広げられていく。よどみなく、喜びを増していきながら。

この感動が850円で

「釜かけ」(600円)
「釜かけ」(600円)もまたうまし

 食べている間、ああ、なんと色っぽいうどんだろう、なんと艶っぽいうどんだろうと、心の中で繰り返している人も少なくないだろう。

 それだけの感動と、満足感を味わわせてくれるうどんなのだ。

 この感動が、850円の「かしわ天ざる」で味わえるのである。なんと、リーズナブルで、うれしいことではないか。

 夜は夜で、おいしい日本酒とつまみが待っている。

 ゆっくりと時間を過ごした後、美しいざるうどんで締めるものよし。

 新宿に来た際は、ちょっと南新宿方向まで足を延ばし、「慎」さんの極旨のうどんをぜひ味わってみてほしい。

 きっと深い満足を得られるに違いない。


●「慎」(しん)

東京都渋谷区代々木2-20-16 相馬ビル1F
Tel.03-6276-7816
営業時間:
月~木 11:00~23:00(L.O. 22:00)
金・土 11:00~24:00(L.O. 23:00)
定休日:日曜・祝日

上荻吾朗
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編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。