多種多様なガルナッチャ

野生動物による被害が多発する原因の一つに気付いたので、本題からはずれるが最初に触れておく。一方、フィロキセラ禍の話題からアリカント系ブドウの話に戻ると、この系統の多様さには改めて感心させられる。

野生動物を里へ向かわせたのはフィロキセラか

 このフィロキセラ禍に関する部分の原稿を書き終えようとした時、またしても推理の範囲が膨らんでしまった。近年の野生動物による農業被害の急拡大にも、野ブドウの絶滅が深くリンクしているはずだと思い至ったのだ。

 クマ、シカ、イノシシ、サル、アナグマ、タヌキ、ハクビシンなどが、山村の耕作地だけでなく町中にまで出没している。今では東京の23区内の住宅街にもタヌキやハクビシンが生息している。

 私が住む小金井市でも、私の幼少期の昭和30(1955)年前後の時代には、タヌキやハクビシンの姿を見ることはまずなかったが、今では注意していれば頻繁に目撃できる。

 現在、東京の“制空権”を握っているハシブトガラスも昔は山地の住人である。

 昔の東京のカラスはハシボソガラスであり、“少し大柄なくちばしの黒い九官鳥”といった風情のかわいい姿だったと記憶している。それに対して、私が渓流釣りを始めた昭和40年代中頃、谷のつり橋のワイヤーにびっしりと整列している不敵なハシブトガラスの群れに気圧されて、しばしば橋を渡ることを躊躇させられた思い出がある。現在、山地のカラスはハシボソガラスが主体である。

 フィロキセラ禍で減少してゆく野ブドウの争奪戦にあっては、夜目の利かない鳥類は、夜行性の四足動物には敵わない。仕方なくハシブトガラスは野生動物の町中侵出の先遣隊となったのだろう。

 それならば、アメリカ系台木に接木したブドウを野山に多数植樹してやれば、野生動物による農業被害は減少を始めてくれるのではないだろうか? そして運がよければ、動物に喰われ、ばら撒かれる膨大な量の種子の中からは、いずれフィロキセラ耐性を有したヴィティス・ヴィニフェラ系品種が誕生することもあるのではないか。

 野生動物たちも好き好んで里へ降りて来ているわけではない。急がば回れである。農業関係者の方々にはぜひに一考をお願いしたい。

赤ワイン用ガルナッチャの多様さ

 さて、話をアリカント系ブドウに戻そう。

 ジャンシス・ロビンソンの「ワイン用葡萄ガイド」の巻末には「産地名に隠れた葡萄品種」という項目がある。そのスペインの欄を調べると、産地により赤ワイン用ブドウとしてのガルナッチャは、単に「Garnacha」の表示の場合と、「Garnacha Tinta」「Garnacha Peluda」「Garnacha Tintorera」の名前が使い分けられている場合が確認できる。

 また、同書ではガルナッチャ・ペルーダ(Garnacha Peluda)という名前のブドウ品種は、しばしば単にガルナッチャ・ティンタと呼ばれる場合があると記されている。

 他方、岩野貞夫先生の「ワイン事典」(柴田書店)の記述では、黒いガルナッチャはガルナッチャ・ネグラ(Garnacha Negra)と記載されている。岩野先生の記述中にはガルナッチャ・ネグラ・ペルーダ(Garnacha Negra Peluda)という品種名もある。さらにガルナッチャ・ロサード(Garnacha Rosado)やガルナッチャ・ローハ(Garnacha Roja)なども記載されている。

 ガルナッチャ・ペルーダについて調べてみると、Peludaとはフランスの川に棲む伝説の毛むくじゃらの怪獣の名前とのことで、スペインでは転じてフランス兵を意味する言葉であるらしい。

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酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。