命のやりとり食事のやりとり

329 映画「ブレイキング・ニュース」「エグザイル/絆」から

香港ノワールの旗手ジョニー・トーの作品は、緊張感あふれるアクションの合間に不意に挿入される食事シーンも印象的だ。少し前の話になるが、今年1月下旬よりシネマート新宿・心斎橋などで「ジョニー・トー おとこの絆セレクション」と題する上映会が行われた。

 ジョニー・トー作品は本連載第2回で「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(2009)を取り上げているが、このセレクションで上映されたのはこちらの4作品。

「ブレイキング・ニュース」
「エレクション 黒社会」
「エレクション 死の報復」
「エグザイル/絆」

 これらのそれぞれに特徴的な食事シーンがあるが、今回はこのうち2作品から一部を紹介したい。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「ブレイキング・ニュース」の“水入り”ランチ

 2004年製作の「ブレイキング・ニュース」は、まず冒頭7分間に渡ってワンカットで描かれる、ユアン(リッチー・レン)率いる強盗団と、チョン(ニック・チョン)ら香港警察捜査課の銃撃戦に度肝を抜かれる。ドキュメンタリー映画「あくなき挑戦 ジョニー・トーが見た映画の世界」などによると、撮り直しがきかない状況の下、現場ではワンテイクで成功させなければならないプレッシャーがみなぎっていたとのことで、その緊張がこちらにも伝わってくるような、臨場感あふれるシーンになっている。

 強盗団は逃亡に成功し、高層アパートに潜伏。世論の非難が警察に集まる中、組織犯罪課の新任指揮官、レベッカ(ケリー・チャン)は大胆なメディア戦略を実行に移す。それは、最前線の警官に無線カメラを装着させ、撮影した映像を加工、編集、音響効果付きでマスコミに提供し、ショーにしてしまうというものだった。強盗団はこれに対し、携帯電話のカメラとパソコンを駆使して警察の失態画像をマスコミに送り付け、事態は情報戦の様相を呈していく。

 高層アパート内での警察との攻防の中、住民のイップ(ラム・シュー)と2人の子供の家に、ユアンら強盗団の2人と、チュン(リー・ハイタオ)ら殺し屋の2人が偶然居合わせる形になる。不穏な空気が流れるが、空腹のせいだとしてユアンが食事を提案。イップは料理ができないので、ユアンとチェンが並んで台所に立つことに。エプロン姿で野菜を切ったり肉を刻んだりする2人の姿は、悪役であることを一瞬忘れさせる。

「ブレイキング・ニュース」より。ユアンの挑発に対抗してレベッカが配布を指示した香港警察史上最高の特上弁当。
「ブレイキング・ニュース」より。ユアンの挑発に対抗してレベッカが配布を指示した香港警察史上最高の特上弁当。

チュン「俺は食べるのが好きで、金は食事で消えてしまうんだ。お前はどうだ?」

ユアン「俺はいつか店を持ちたいと思ってる。本気だぜ」

チュン「俺もだよ」

 こうした他愛ない会話で悪役たちは結束を強めていく。さらにユアンは、7人でおいしそうな料理を囲んでいる食卓の動画をWebカメラで公開。これを見たレベッカも、チャーシュー、鶏足、卵、ペットボトルのドリンクに果物付きの特上弁当を、現場の警官だけでなく取材陣にも配り対抗する。

 相撲で決着が付かないときに、一時中断して取り直すことを「水入り」と言うが、本作の一時休戦のランチタイムはそれを想起させる。

 その他、チョンら刑事たちが移動中に食べるのが、ホットドッグではなく焼き芋というのも、お国柄を感じさせる。

「エグザイル/絆」の“呉越同舟”ディナー

 2006年製作の「エグザイル/絆」は、1999年12月20日の返還前日のマカオを舞台にしている。ヨーロッパのような街並みの中の一軒家。香港マフィアのボス、フェイ(サイモン・ヤム)の暗殺に失敗しマカオに逃亡したウー(ニック・チョン)と妻のジン(ジョシー・ホー)と生後1カ月の赤ん坊の家である。そこにフェイの命を受けてウーを殺しに来たブレイズ(アンソニー・ウォン)とファット(ラム・シュ)、逆にウーを守りに来たタイ(フランシス・ン)とキャット(ロイ・チョン)が鉢合わせする。ウー、ブレイズ、ファット、タイ、キャットの5人は、若い頃からの友人である。

 見張り役のファットとキャットを除くウー、ブレイズ、タイの3人は、ウーの家の中で拳銃の残弾数を6発に合わせ、三つ巴の銃撃戦を繰り広げる。計18発を撃ち尽くし、赤ん坊のミルクの時間が来ると一時休戦。先ほどまで命のやり取りをしていたかつての仲間たちは、文字通りの“呉越同舟”で、銃撃戦で壊れた家を共に修繕し、ウーが作った夕食を食卓を囲んで皆で食べ、スープにさきほどの弾丸が紛れ込んでいたことを笑い合い、挙句の果てには皆で記念写真まで撮るのである。破壊から創造へ、この異様な状況のきっかけになったのが、赤ん坊の空腹であったことは実に興味深い。

 ブレイズらは、死ぬ前に妻子に財産を残したいというウーの願いを聞き届けるために、マカオのボス、キョン(ラム・カートン)の殺害を請け負い、指定されたレストランを訪れる。ここで頼んだ料理と酒を巡る緊迫したやり取りが、不意のフェイの登場によって一気に決壊し、敵味方が入り乱れた修羅場に至る様には背筋が寒くなる。

 そしてラスト、フェイの放り投げた某エナジードリンクの缶が宙に舞い、床に落ちるまでの一瞬に起こる大バイオレンスも必見である。

 紹介した2本以外に今回上映された「エレクション 黒社会」(2005)と「エレクション 死の報復」(2006)の2部作や、その他のジョニー・トー作品にも興味深い食事シーンがたくさんあるので、また別の機会に紹介したい。


ジョニー・トー 漢の絆セレクション(公式)
https://johnnieto-films.com/index.html
本連載第2回
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0002
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【ブレイキング・ニュース】

作品基本データ
原題:大事件
製作国:香港、中国
製作年:2004年
公開年月日:2005年12月3日
上映時間:91分
製作会社:ミルキーウェイ・イメージ
配給:タキコーポレーション
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジョニー・トー
脚本:チャン・ヒンカイ、イップ・ティンシン
製作総指揮:ジョン・チョン、ヤン・ブーティン
撮影:チェン・シュウキョン
美術:レイモンド・チャン
音楽:チュン・ツィウィン、ベン・チョン
編集:デヴィッド・リチャードソン
衣装デザイン:スティーブン・ツァン
キャスト
ブレイズ:アンソニー・ウォン
タイ:フランシス・ン
ウー:ニック・チョン
ジン:ジョシー・ホー
キャット:ロイ・チョン
ファット:ラム・シュ
キョン:ラム・カー・トン
ジェフ:チョン・シウファイ
カッチョン:タム・ビンマン
トイサン:ホイ・シウホン
娼婦:エレン・チャン
チェン:リッチー・レン
フェイ:サイモン・ヤム

(参考文献:KINENOTE)


【エグザイル 絆】

作品基本データ
原題:放・逐
製作国:香港、中国
製作年:2006年
公開年月日:2008年12月6日
上映時間:109分
製作会社:寰亞娛樂集團有限公司、銀河映像(香港)有限公司
配給:アートポート
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・製作:ジョニー・トー
アクション監督:ウォン・チーワイ、リン・チャンボン
脚本:セット・カムイェン、イップ・ティンシン
製作総指揮:ジョン・チョン
撮影監督:チェン・シウキョン
美術:トニー・ユー
音楽:ガイ・ゼラファ
音響デザイン:メイ・モク、チャーリー・ロー
編集:デヴィッド・リチャードソン
衣装デザイン:スタンリー・チョン
ライン・プロデューサー:クック・コックリャン
製作管理:メイリー・ホー
プロジェクト・マネージャー:エレイン・チュー
アソシエイト・ディレクター:ロー・ウィンチョン
視覚効果:スティーヴン・マー
プロダクション・エグゼクティブ:シャーリー・ラウ、キャサリン・チャン
プロダクション・スーパーバイザー:ディン・ユインシャン
キャスト
ブレイズ:アンソニー・ウォン
タイ:フランシス・ン
ウー:ニック・チョン
ジン:ジョシー・ホー
キャット:ロイ・チョン
ファット:ラム・シュ
キョン:ラム・カー・トン
ジェフ:チョン・シウファイ
カッチョン:タム・ビンマン
トイサン:ホイ・シウホン
娼婦:エレン・チャン
チェン:リッチー・レン
フェイ:サイモン・ヤム

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。