カルトの活動を表現する食事

283 「ビリーバーズ」から

1990年代に大きな社会問題として顕在化したカルト。そして7月8日、その団体の一つへの怨恨が動機と思われる凄惨な事件が発生し、再びカルトへの関心が高まっている。折しも事件当日の7月8日に公開された「ビリーバーズ」は、過去にカルトや過激派が起こしたいくつかの事件をモチーフとした、山本直樹の漫画(2000)を原作とした問題作である。以下、その前半の食べ物絡みのシーンについて書いてみたい。

うどんか、パスタか

 主要な登場人物は、「ニコニコ文化センター」という“宗教団体”に所属する「議長」(宇野祥平)、「副議長」(北村優衣)、「オペレーター」(磯村勇斗)の3人。彼らは教祖の「先生」(山本直樹)が提唱する「孤島のプログラム」実践のため、とある離島で3人だけで暮らしている。「本部」からメールで届く指令に従って行動し、「みんなのためにがんばりましょう」を合言葉に、禁欲的な生活を送る毎日。その「欲」の中には当然食欲も含まれる。彼らは、夜中に本部から船で運ばれてくる、先生によって“浄化された”食料以外は口にしてはいけないことになっていて、飢えや渇きと闘う、限界ぎりぎりの日々を過ごしていた。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

本部から届けられた小麦粉のような白い粉で、3人はボンゴレパスタを作って食べる。
本部から届けられた小麦粉のような白い粉で、3人はボンゴレパスタを作って食べる。

 ある日届けられたのは、先生が“浄化した”ことを示す「処理済」のシールが貼られた、小麦粉のような白い粉が入った袋。この粉をうどんにするか、パスタにするかで、3人は侃侃諤諤かんかんがくがくの議論を展開する。そもそも、うどんとパスタの打ち方の違いって何だ、塩は入れるのか、卵は必要か等々、3人共うろ覚えの知識しかない。そんな中、議長のある「発見」によって、小麦粉だけでもパスタは作れることが判明。味付けのための塩には海水を使い、オペレーターが採ってきた貝も入れてボンゴレパスタが完成する。

 包丁で切ったために焼うどんのようなパスタになってしまったが、空腹も相まって3人はうまそうに食べる。この一連のシーンは3人の特異な思考プロセスもあってコメディタッチとなっているが、本部の指令を絶対としながら浄化されていない食材(海水と貝)を使うなど論理は破綻し始めていて、後半の悲劇を予感させるシーンにもなっている。

紫色のなんだかわからないもの

 孤島のプログラムでは、それぞれが昨晩見た夢の内容について話し合うのが日課となっている。ある晩に議長が見た夢は、学生時代にいじめを受けていた議長が、「あるもの」を食わされる再現夢だった。議長は、浄化されていない海水や貝を口にした結果、悪夢を見たのではないかと分析する。

 そんな折、本部から届いたのは、水槽の下に沈殿した紫色の多数の物体。強烈な刺激臭を放つ「それら」は、明らかに腐っていたが、先生が浄化したものだと信じる議長は、こういう種類の食べ物なのだと口にしてしまう。案の定、腹を壊して寝込んでしまい、昨夜の夢は腹を壊す予知夢だったと訂正する始末。次第に症状は悪化し、意味不明なうわごとを口走るようになる。非常事態と判断したオペレーターは、教義に反するある行動で薬を手に入れようとする。その薬とは……。

 この紫色の物体の正体については、最後まで明かされることがない。先生および本部が3人を試すために届けたのか。はたまたスパイの陰謀なのか。真相は謎であるが、回復後の議長の様子の変化や、それが一因で3人の間に生じる不穏な空気と無関係ではないと思われる。

二人の天才の出会い

 本作のクライマックスに登場する「ニコニコ文化センター」の教祖「先生」役は原作者の山本直樹が自ら演じ、ラスボス的な存在感を示している。

 山本は1984年のデビュー以来、作中の性描写が問題となった「BLUE」(1991)、連合赤軍をモデルにした「レッド」(2006〜2013)等先鋭的な作風で知られ、「夕方のおともだち」(2009、映画2022)のように映画化された作品も複数ある。

 本作でいちばん不気味なのは、後半、浜辺でのオペレーターと副議長のラブシーンからカメラがパンすると、「ニコニコ文化センター」に洗脳されたオペレーターの母親を、オペレーターが救い出そうと説得する回想シーンにつながる「2シーン・1カット」の場面である。家族を脱会させるはずが自らも入信してしまうというこの問題の根深さは、最近の事件にも通じるもので、それをインパクトのある映像テクニックで魅せる城定秀夫監督の手腕は特筆に値する。

 城定監督は、ピンク映画やVシネマでのユニークな作風で注目され、「アルプススタンドのはしのほう」(2020)、「愛なのに」(2022)、「女子高生に殺されたい」(2022)等、一般映画でも活躍中の今最も脂が乗った監督である。


【ビリーバーズ】

公式サイト
https://believers-movie2022.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2022年
公開年月日:2022年7月8日
上映時間:118分
製作会社:「ビリーバーズ」製作委員会(制作プロダクション:レオーネ)
配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
レイティング:R-15
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・脚本・編集:城定秀夫
原作:山本直樹
製作:藤本款、久保和明、直井卓俊
プロデューサー:原口陽平、秋山智則、久保和明
撮影:工藤哲也
装飾:藤田明伸
音楽・主題歌:曽我部恵一
録音:松島匡
整音:山本タカアキ
効果:小山秀雄
照明:守利賢一
衣裳:十河誠
ヘアメイク:重松隆
キャスティング:伊藤尚哉
ラインプロデューサー:浅木大
制作担当:矢口篤史
助監督:山口雄也
宣伝美術:寺澤圭太郎
キャスト
オペレーター:磯村勇斗
副議長:北村優衣
議長:宇野祥平
第三本部長:毎熊克哉
先生:山本直樹

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。