皆で作り皆で食べる給食を描く

[275]「あしやのきゅうしょく」から

兵庫県芦屋市は、六甲山地と大阪湾の間に開けた“阪神間モダニズム”の瀟洒な街並みで知られるが、給食に関する独特の取り組みをアピールする市でもある。市立全小中学校で、自校調理方式の体制を整え、各校に1名ずつ配置する栄養士それぞれがオリジナルの献立を展開している。そんな芦屋市の市制施行80周年を記念して製作されたのが、今回紹介する映画「あしやのきゅうしょく」である。

 給食をテーマとした作品としては、以前「劇場版 おいしい給食 Final Battle」(2020、本連載第232回)を紹介したことがあるが、食べる側を中心にコミカルに描いた同作と違い、本作は給食を作る側を中心に描いたヒューマンドラマとなっている。

大量調理の現場を丁寧に描く

 春、芦屋小学校に配属された地元出身の新米栄養士、野々村菜々(松田るか)は、前任の栄養士、立山蓮子(秋野暢子)から給食のレシピを渡される。菜々は、分厚くファイリングされたレシピの一ページ目に目を留める。

「食べることは、生きること」

 芦屋の給食のモットーであると、蓮子が言う。食は体を作り、心を作る。給食を通して生きるためのヒントを与えることが、給食に携わる者の使命であると聞かされた菜々は、責任の重さを実感すると共に、素材を生かし手作りにこだわったレシピの数々に目を輝かせる。

 本作の特筆すべき点は、給食の調理の描写である。全校生徒700人分の給食を作るための大量の材料の仕込み、大鍋で煮込みながら二人がかりで大きなしゃもじでかき混ぜる等の工程が丁寧に描かれ、「手作りにこだわる」という様子を印象づけている。

1食の予算は250円という壁

 菜々が最初に手掛けた献立は、鰆の塩焼き、春野菜の煮物、かきたま汁、ごはん。子供たちがおいしいと言ってくれたことに安堵する一方、春野菜の煮物を残す子がいることが気がかりだ。調理師のリーダー格、星崎康範(仁科貴)は言う。最近の子供はしっかり味の付いたファストフードの味に慣れていて、薄口の和食の味は好まないと。一方、元レストランシェフという異色の経歴の調理師、今村達也(石田卓也)は、それだけではない、最近の子供は舌が肥えているから、よい素材を使って味を追求するべきだと言う。1食250円の予算内で何ができるのか。食育の授業で鰹節から出汁を取るまでを実演して見せても、給食では出汁取りから始める余裕はない。早速、菜々に難題が突きつけられる。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

ハラール対応の新メニュー

 6年生のアイシャは、宗教上の理由で豚肉を食べないため、弁当を持参していた。しかし、周囲が給食を食べる中で疎外感を感じるアイシャ。とうとう教室を抜け出し、米原校長(桂文珍)と校長室で弁当を食べるようになってしまう。

 菜々は、今は食堂を営んでいる蓮子に相談。かつてイスラム教、ユダヤ教、ヒンドゥー教、ビーガン対応のメニューを考案したことがある蓮子に、ハラールフードの食料品店を紹介してもらう。そこで見つけた食材を使い、アイシャの同級生・安達祐樹(栗田倫太郎)の祖父、豆腐屋の村上忠夫(堀内正美)の協力も得て献立に加わった新メニューは、アイシャに皆と同じ給食を食べる喜びをもたらす。

卵を使わないオムライス

 一方、祐樹の同級生で写真館の息子、中村瑛士(小笠原拓己)は卵のアレルギーがある。生徒の食物アレルギーの情報は栄養士に伝えられ、食物アレルギーを持つ生徒にはアレルゲン(原因食品)を除いた「除去食」が提供されるが、菜々に新しい課題が持ち上がる。芦屋小学校では、年1回オムライスが出ることになっていて、その時期が迫ってきたのだ。瑛士にも皆といっしょにオムライスを食べさせたいと考えた菜々は、再び蓮子に相談。蓮子は、牛乳を温めてできる膜を卵の代わりに使ったことがあると言うが、それではオムライスは巻けない。頭を悩ます菜々の前に出された蓮子の店の豆乳入りプリンがヒントになって、菜々はオムライスの薄焼き卵の代わりになるものを思い付く。それが何であるかは、実際に映画をご覧いただきたい。

願いをかなえてもらった卵

「願いがかなう卵」ことスコッチエッグ。イギリス帰りのあおいからのリクエストで加えられたMY給食の新メニューである
「願いがかなう卵」ことスコッチエッグ。イギリス帰りのあおいからのリクエストで加えられたMY給食の新メニューである

 11月、芦屋小学校では「MY給食」という行事がある。事前に発表された給食のメニュー候補から生徒各々がカロリーや栄養のバランスを考えてメニューを選択するという、食育の授業の一環として行われるものだ。

 祐樹の同級生でイギリスからの帰国子女、杉山あおい(芹沢凛)は、イギリスで食べた料理がもう一度食べたくて、菜々に新メニューのリクエストを出す。スコッチエッグという料理で、ゆで卵をひき肉で包み、衣を付けて揚げるものだ。

 あおいによれば、それは食べると願い事がかなうと言われているという。そこで菜々は「願いがかなう卵」と名付けて新メニューに採用するのだが、このネーミングにひかれてほとんどの生徒が選んでしまい、結果、1食250円の予算をオーバーする事態に。

 困り果てた菜々は、肉の仕入れ先である旧知の高杉公一(赤井英和)に相談。子供たちの思い出に残る給食を作りたいという菜々の熱意に打たれた高杉は、阪神大震災の際に避難所で凍えている人たちに牛鍋を振舞ったことを思い出し、協力を申し出る。それは祐樹の祖父に続き、地域のさまざまな人々に支えられて芦屋の給食が成り立っていることを感じさせるようなエピソードである。

 MY給食のシーンは、ビュッフェ形式に並べられた料理から生徒各々が選んだ料理を取りに行く形式で、パーティーのような楽しさが感じられる。また、生徒が栄養士と調理師に感謝を伝える場で、生徒の言葉に元シェフの今村が口にするセリフも印象的だ。

「いつも通りに」はすでに黙食だった

 本作はコロナ禍以前に企画され、2020年に公開を予定していた。しかし、地元の子供たちが参加する芦屋での撮影がコロナ禍によって数度にわたり延期となり、2021年に撮影を終え、2022年に公開となった。本作で描かれている昼休みに生徒が割烹着に着替えて給食室まで給食を取りに行き、机を向かい合わせにして食べるというスタイルは、コロナ禍以前のものである。

 公開初日の舞台挨拶で白羽弥仁監督が語った撮影時のエピソードによると、子供たちにいつも通り食べてと演技指導したところ、みんな黙食になってしまい困ったという。新しい生活様式については、大人より子供の方が早く適応しているのかも知れない。

 実際の芦屋市の給食については、兵庫県芦屋市教育委員会によるレシピ集「芦屋の給食 おしゃれな街のおいしい献立」(コミニケ出版)が詳しい。興味のある方はご一読いただきたい。


【あしやのきゅうしょく】

公式サイト
http://ashiyanokyushoku.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2022年
公開年月日:2022年3月4日
上映時間:86分
製作会社:映画「あしやのきゅうしょく」製作委員会(TKS plus、ドルチェ・ビータ)
配給:アークエンタテインメント
カラー/サイズ:カラー/16:9
スタッフ
監督:白羽弥仁
脚本:白羽弥仁、岡本博文
プロデューサー:高瀬博行
撮影:吉沢和晃
美術:阿久根桂
音楽:妹尾武
録音:高島良太
音響効果:野崎博樹
照明:鈴村真琴
編集:小谷晃一
衣裳:岩田友裕
メイク:タナカミホ
ラインプロデューサー:牧義寛
助監督:岡本博文
キャスト
野々村菜々:松田るか
今村達也:石田卓也
星崎康範:仁科貴
前田麻里:藤本泉
安達和:宮地真緒
安達祐樹:栗田倫太郎
中村瑛士:小笠原拓己
杉山あおい:芹沢凛
村上忠夫:堀内正美
村上花代:麻生えりか
米原校長:桂文珍
高杉公一:赤井英和
立山蓮子:秋野暢子

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。