回るレストランが舞台の映画

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今回は、ホテルやデパートの最上階やタワーの展望台等にあって、フロアが回転することで食事をしながら360度パノラマを楽しめるという、ハレの外食の極みとも言える回転展望レストランが出てくる映画をご紹介する。

 日本国内の回転展望レストランは昭和の高度成長期からバブル時代にかけて多く作られたが、現在では一部を除いて営業や回転をやめてしまっているのが、時代の流れとはいえ惜しまれるところである。

 映画的に見ても、背景の風景が変わっていく回転展望レストランは魅力的な舞台装置であり、今回紹介する2作品はその特性をうまく活用した例といえる。

「東京會舘 銀座スカイラウンジ」と「ザ・タイガース ハーイ!ロンドン」

回転展望レストラン「東京會舘 銀座スカイラウンジ」を載せた東京国際会館。
回転展望レストラン「東京會舘 銀座スカイラウンジ」を載せた東京国際会館。

 最初に紹介する回転展望レストランは、1965年に東京・有楽町に建てられた複合ビル、東京交通会館の15階にある「東京會舘 銀座スカイラウンジ」。0系からN700系に至る東海道新幹線の歴史や、有楽町マリオン(1984)、東京国際フォーラム(1997)、有楽町イトシア(2007)、東京ミッドタウン日比谷(2018)等々、周辺地域の変貌を地上55mから見つめ続けてきた老舗レストランである。

 映画は、1969年製作の岩内克己監督作品「ザ・タイガース ハーイ!ロンドン」。1960年代後半のグループ・サウンズ・ブームの中で最も人気のあったザ・タイガースが主演した3本の映画のうち、「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」(1968)、「ザ・タイガース 華やかなる招待」(1968)に続く最後の作品である。

 過密スケジュールの日々を送るジュリー(沢田研二)、ピー(瞳みのる)、タロー(森本太郎)、サリー(岸部おさみ、現・岸部一徳)、シロー(岸辺シロー)のメンバー5人の、自由な時間が欲しいという願いに付け込んだ悪魔、出門鬼太郎(藤田まこと)が、魂を担保に時間を売りましょうと申し出る。出門は一定の時間を止める能力を持っていて、時間を買った人間は止まった時間分の自由時間が与えられるという仕組み。ただし、決まった時間内に戻らないと担保に預けた魂は取られてしまう。つまり、5人が決まった時間に戻れないように仕向ければ魂は手に入る訳で、それこそが出門の狙いであった。

 出門は5人が時間内に戻ることを妨害するために魔女のマジョリー(杉本エマ)を呼び寄せる。眼下に有楽町界隈の風景が流れる「東京會舘 銀座スカイラウンジ」で行われる悪魔と魔女の悪だくみは、あたかも天国から下界の人間を見下しているかのような、まさに“上から目線”の本性が表われたシーンである。いたずら好きなマジョリーが、出門が飲み食いしているビールやステーキを、魔法で次々に食品サンプルに変えてしまうのも楽しい。

東京交通会館
http://www.kotsukaikan.co.jp/
東京會舘 銀座スカイラウンジ
https://www.kaikan.co.jp/branch/skylounge/index.html

 なお、東京の回転展望レストランではホテルニューオータニ17階の「VIEW & DINING THE Sky」もたびたび映画に登場している。森村誠一の原作を映画化した角川映画「人間の証明」(1977)では、麦わら帽子に似た外観が謎解きの鍵として使われ、2005年にNHKが放映した「プロジェクトX 東洋一の巨大ホテル 不夜城作戦に挑む」では、戦艦大和の主砲を回転させる技術が流用されていることが紹介された。

「ピッツ・グロリア」と「女王陛下の007」

「女王陛下の007」のセットとして作られ、撮影後も活用された「ピッツ・グロリア」はフィルム・ツーリズムの先駆的施設と言える。
「女王陛下の007」のセットとして作られ、撮影後も活用された「ピッツ・グロリア」はフィルム・ツーリズムの先駆的施設と言える。

 次に紹介する回転展望レストランは、スイス・アルプス山脈のシルトホルン山(標高2,970m)の頂上にある回転展望レストラン「ピッツ・グロリア」。太陽光発電で蓄えられた電力で回転し、「アイガー・サンクション」(1975)をはじめとする数々の映画の舞台となったアイガー(3,970m)や、メンヒ(4,107m)、ユングフラウ(4,158m)といったアルプスの名峰が一望できる絶好のロケーションにある観光レストランである。

「ピッツ・グロリア」はもともと、007シリーズの第6作で、初代ジェームズ・ボンド役ショーン・コネリーの後を継いだ2代目ジョージ・レーゼンビーの唯一の主演作となった「女王陛下の007」(1969)のセットとして作られたが、撮影終了後も残され、007にちなんだメニューやインテリア、大型ビジョンによる映画のハイライトシーンの上映等の仕掛けで観光客をもてなす、フィルム・ツーリズムの先駆的施設となっている。

「女王陛下の007」における「ピッツ・グロリア」は、実はボンドの宿敵スペクターの幹部であるブロフェルド伯爵(テリー・サヴァラス)のアレルギー療養所として登場する。スコットランドの准男爵と身分を偽り、キルトに身を包んで「アルプス・ルーム」に潜入したボンドが見たのは、国際色豊かな12人の美女が治療を受けている姿だった。

 食事もアレルギーや出身に配慮し、ステーキ、チキン、ポテトといった西洋料理からアジアやアフリカ系の料理までさまざまなものがふるまわれるなか、ゆっくりと回転しながら映し出されるパノラマは、俯瞰ショットの多用によってアルプスの名峰よりも高所恐怖症になりそうな谷底の景色が強調され、療養所の裏で進む陰謀と、これから起こるであろう修羅場を予感させるシーンとなっている。

シルトホルン(スイス観光局)
https://www.myswitzerland.com/ja/schilthorn-piz-gloria.html

【ザ・タイガース ハーイ!ロンドン】

「ザ・タイガース ハーイ!ロンドン」(1969)

作品基本データ
製作国:日本
製作年:1969年
公開年月日:1969年7月12日
上映時間:85分
製作会社:東京映画、渡辺プロ
配給:東宝
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:岩内克己
脚本:田波靖男
製作:渡辺晋、田波靖男
撮影:原一民
美術:樋口幸男
音楽:村井邦彦
録音:長岡憲治
照明:比留川大助
編集:広瀬千鶴
キャスト
ジュリー:沢田研二
ピー:瞳みのる
タロー:森本太郎
サリー:岸部おさみ
シロー:岸部シロー
新倉めぐみ:久美かおり
石川:左とん平
山崎:小松政夫
魔女マジョリー:杉本エマ
出門鬼太郎:藤田まこと

(参考文献:KINENOTE)


【女王陛下の007】

「女王陛下の007」(1969)

作品基本データ
原題:On Her Majestys Secret Service
製作国:イギリス
製作年:1969年
公開年月日:1969年12月13日
上映時間:142分
製作会社:イオン・プロ
配給:ユナイト
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ピーター・ハント
脚色:ウォルフ・マンコウィッツ
原作:イアン・フレミング
製作:ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ
撮影:マイケル・リード
美術:シド・ケイン
セット:ピーター・ラモント
音楽:ジョン・バリー
キャスト
ジェームズ・ボンド:ジョージ・レーゼンビー
トレーシー:ダイアナ・リグ
ブロフェルド:テリー・サヴァラス
ドラコ:ガブリエレ・フェルゼッティ
イルマ:イルゼ・ステッパット
M:バーナード・リー
Q:デズモンド・ルウェリン
マニーペニー:ロイス・マックスウェル

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。