「カラアゲ☆USA」の唐揚げ

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若鶏の唐揚げ
若鶏の唐揚げ。唐揚げ専門店「天下とり」は、宇佐の唐揚げの元祖「来々軒」の二代目がオープンした

今回は、唐揚げ専門店発祥の地といわれる大分県宇佐市を舞台にした「カラアゲ☆USA」(2014)をご紹介する。

唐揚げ専門店発祥の地

 本作は地名のローマ字表記が「USA」であることから「からあげ合衆国」と呼ばれている宇佐にちなんで、アメリカ絡みのエピソードを交えた作品となっている。

 物語は、宇佐の唐揚げ専門店が実家の辛島彩音(高橋愛)が、黒人の少女シャーリー(プリンセス・アプラク)を連れてアメリカから宇佐に戻って来る場面から始まる。彩音は、博多で料理人をしていたシャーリーの父ランディ(ダンテ・カーヴァー)と恋に落ち、彼を追ってアメリカに渡ったものの、ランディから娘の存在を知らされたうえに、彼がギャンブル三昧で借金を作って行方をくらましてしまったため、仕方なくシャーリーを連れて帰国したのだった。

 ここで、宇佐が唐揚げ専門店発祥の地という由来について触れておく。

 大分県は肉鶏(ブロイラー)の生産が盛んな地域(全国11位/2013年「年畜産統計調査」)で、一人当たりの鶏肉消費量も大分エリアは全国でトップクラス(表)である。そして、その一端を担うのが、大分県北部に根付いた唐揚げ文化である。

順位都市名数量(単位:g)
1福岡市19,288
2宮崎市18,006
3鹿児島市17,918
4熊本市17,818
5大分市17,696
6北九州市17,630
7佐賀市17,388
8和歌山市17,354
9広島市16,984
10山口市16,863
※鶏肉の二人以上の世帯における年間購入数量の都道府県庁所在市及び政令指定都市別ランキング(2011~2013年平均)
若鶏の唐揚げ
若鶏の唐揚げ。唐揚げ専門店「天下とり」は、宇佐の唐揚げの元祖「来々軒」の二代目がオープンした

 昭和39(1964)年、宇佐にある中華料理店「来々軒」の店主・福田昌生氏が、養鶏場の多い宇佐で規格外となったブローラーを安く仕入れて作った「鶏からあげ定食」を売り出したところ、高度成長初期でまだ肉を食べることがご馳走だった時代に安くお腹いっぱい食べられ、なによりうまかったことから大人気となったという。そのレシピを当時来々軒の向かいにあった居酒屋「庄助」に伝授したところ、「庄助」が鶏唐揚げのテイクアウト店をスタートしたのが唐揚げ専門店の始まりといわれている。(参考文献:日本唐揚協会ホームページ)。

 その後、宇佐市と隣接する中津市に専門店が増えると、各家庭ごとになじみの店が出来、キロ単位で唐揚げを購入するのが当たり前になったことから、地産地消の中食として“文化”とまで呼ばれるようになったという次第である。

 現在宇佐市に30軒以上、「からあげの聖地」中津市では60軒以上の専門店が共存しているのは、宇佐市約5万9000人、中津市約8万5000人という人口から考えると驚くべきことである。

唐揚げとフライドチキンの違い

 彩音が帰郷した頃、宇佐ではある変化が起こっていた。町にある弁当屋の一軒が全国展開のフライドチキンチェーン「アメリカンチキング」のフランチャイズ店に衣替えし、派手なPR戦略で専門店のシェアを脅かし始めたのである。

 その対策のため、専門店で組織する組合の会合が開かれるが、その席上で彩音が発した「からあげとフライドチキンって何が違うんですか」という問いに皆は呆気にとられる。しかし、その違いを改めて説明できるものはほとんどいなかった。唐揚げは肉に下味を付けて揚げるのに対し、フライドチキンは粉に味付けして揚げるというのが模範解答だが、唐揚げのレシピも店によってかなり違いがあり、一般家庭で作る唐揚げは粉に味付けした唐揚げ粉を使っていることが多かったりと、簡単な定義で割り切れないのが実際のところなのである。

鶏肉嫌いの後継者

 専門店の中でも、「からあげカーニバル」などのイベントで入賞した店は行列が出来るが、それ以外の店は閑古鳥が鳴くといった格差が出始めており、彩音の実家は後者に属していた。折しも、店を切り盛りしていた父・隆輔(石丸謙二郎)が病で倒れ、先代の祖母・そめ(渡辺美佐子)がピンチヒッターで復帰したものの腰痛で思うように動けず、店は休業状態に追い込まれる。

 一人娘の彩音に期待がかかるが、彼女は幼少時に鶏を屠る場面を目撃したことがトラウマとなって、この年になるまで鶏肉は食べられないといった始末だった。そんな中、「アメリカンチキング」から宇佐の2号店をやってみないかとオファーが来るが、彩音は断固として拒否。実家の窮状を見かねた彼女は間近に迫った「からあげカーニバル」で入賞を果たし、一発逆転を果たそうと決意し、初めて若鶏の唐揚げを口にし、新たなレシピ開発への取り組みを開始する。

ランディのレシピ

 しかし、これまで鶏肉を口にしてこなかった素人同然の彩音に現在の店の味を越えるものがそう簡単に出来るはずもなく、悪戦苦闘の日々が続く中、アメリカからランディが彼女を訪ねて来る。この男、実は再出発のための資金を得ようと彩音の実家に借金の無心に来るようなダメ男なのだが、こと料理にかけては一芸に秀でていた。彼は、博多で料理人をしていた頃、唐揚げは得意メニューだったといい、彩音にレシピを授ける。それは以下のようなものであった。

  • たれは醤油は少なく、すりおろしたりんごは多めにする。
  • 隠し味に魚醤(しょっつる)とかぼすの絞り汁を入れる。
  • 粉は片栗粉8に米粉2の割合。
  • 鶏肉は形の揃ったものを使い、ざるで水気を抜いてから粉にまぶす。
  • 揚げる油の温度は172℃。

 筆者も実際にこのレシピに従って作ったものを試食してみたのだが、香ばしくもっちりとした食感でこれはこれでありかなという印象であった。

 ともあれ、このレシピで作った唐揚げで彩音は「からあげカーニバル」に臨むことになるのだが、その結果とランディとの関係の行方については、実際に映画をご覧になってご確認いただきたい。

こぼれ話

 映画に登場する「からあげカーニバル」は宇佐だけではなく日本唐揚協会の主催で全国を巡回して行われており、幾多の名店が入賞を果たしている。

 また、宇佐市と中津市では独自の唐揚げ文化を町おこしにも利用しようと唐揚げ専門店マップを作り、多くの観光客を誘致している。


【カラアゲ☆USA】

公式サイト
http://www.u-picc.com/karaageUSA/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2014年
公開年月日:2014年9月20日
上映時間:95分
製作会社:カラアゲ☆USA製作委員会(三和酒造=大分合同新聞社=OBS大分放送=TSエンタープライズ=ソウルボート)
配給:太秦
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:瀬木直貴
脚本:山田耕大
プロデューサー:藤倉博
撮影:今井裕二
美術:朝倉麻理子
音楽:長岡成貢
録音:渡辺丈彦
照明:大町昌路
編集:目見田健
制作担当:大蔵穣
助監督:高明
キャスト
辛島彩音:高橋愛
稲積智也:海東健
辛島清子:浅田美代子
辛島隆輔:石丸謙二郎
島津昭泰:中村ゆうじ
ランディ・ジャクソン:ダンテ・カーヴァー
シャーリー:プリンセス・アプラク
渡辺那美子:菜葉菜
辛島そめ:渡辺美佐子

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。