製造物責任をリスク論で考える――こんにゃくゼリー窒息事件の高裁判決

幼児のこんにゃくゼリー誤嚥(ごえん)窒息事故の製造者責任を問う訴訟で、初めての地裁判決の控訴審(高裁)判決が今年5月に示されました。高裁判決では、事故の発生件数と、一口による発生頻度を追加考慮し、地裁判決と同じく責任はないとされました。本稿はその解説です。

高裁判決の要点と注目点

 1歳9カ月の子がこんにゃく入りゼリーを食べた際に喉につまらせ窒息死したのは、製造会社が設計上の欠陥を放置し製造・販売したことによるものであるとして、製造物責任法(PL法)に基づき、その両親が損害賠償を請求したところ、地裁判決では責任を認めませんでした(※1)。

 この地裁判決は、食品を喉につまらせ窒息(死)した事件の製造物責任を問う訴訟の判決としては、製造物責任法施行後初めてのものとされています。

 地裁の審理では、(1)設計上の欠陥、(2)警告表示の欠陥、(3)販売方法の不適切性が問題となりました。

 今回の高裁判決(※2)でも、地裁判決と同じく責任を認めませんでしたが、高裁判決は、地裁判決の理由に加え、発生件数と一口による発生頻度をその理由としました。これは食品安全委員会の「評価書」(後述)の考え方を踏まえたもので、いわゆるリスク論を規制の要否ではなく製造物責任の有無の判断に取り入れた点が注目されます。

※1 神戸地方裁判所姫路支部平成22(2010)年11月17日判決(判例時報2096号116頁)(第1審)(請求棄却、原告控訴)

※2 大阪高等裁判所平成24(2012)年5月25日判決(控訴審)(控訴棄却)

事件の概要

死亡事故発生

 平成20(2008)年7月29日、1歳9カ月(当時)の子が、家族が冷凍の上与えたミニカップ容器入りのこんにゃく入りゼリーを食べた際、これを誤嚥して喉につまらせ窒息し、同年9月20日、死亡しました。

本件こんにゃくゼリーの形状、警告表示等

 1つ当たりの内容量が25gであり、食べる際に押し出せるよう、柔らかいプラスチック製で左右非対称のハート型をしたミニカップ容器に詰められ、上面はフィルム性のふたがされていました。

(1)外袋表面にイラストが印字され、(2)同裏面には、横約6cm×縦約5cmの赤枠内に、「警告」「●お子様や高齢者の方は、のどに詰まるおそれがありますので、食べないでください。」「●お子様の手の届かないところに保管してください。」等の文字が赤色で印字され、(3)同表示の上には、横約6cm×縦約3cmの黒枠内に、「容器の底をつまんで押し出して、吸い込まずにお召しあがりください。」との文字が、絵とともに、黒色で印字されていました。

 また、各々のミニカップ容器の上蓋には、「吸い込まずに底をつまみ押し出しよくかんでお召しあがりください」との文字が黒色で印刷されていました。

行政機関による事故情報等の公表、指導等

 国民生活センターは、平成7(1995)年以降、本件事故が発生するまでの間、10回にわたり、こんにゃくゼリー窒息事故等調査結果を公表しましたが、同センター把握範囲内では、こんにゃくゼリーによる死亡事故は、本件事故までに21件発生していました。

 農林水産省は、平成7年以降、本件事故まで、計7回にわたり、全国こんにゃく協同組合連合会等に対し、事故防止のための指導等を行っていました。

判決の考え方とその解説

行政上の安全規制と製造物責任

 行政上の安全規制と製造物責任法は「意義・目的を異にするものであり、行政上の安全規制への適合・不適合と欠陥の存在や製造物責任の存否の判断とは必ずしも一致するものではない」(経済企画庁解説書第73頁)とされています。つまり、行政上の安全規制を遵守しているか否かと、製造物責任法上の責任の有無は、理論的には直接は関係がないということです。

 ただし、実際の裁判所の判断では考慮されることはあります。

製造物責任法上の欠陥

 製造物責任法上の欠陥には3種類があります。すなわち、設計どおりに作られず安全性を欠く「製造上の欠陥」(本件には無関係)、設計段階で十分に安全性に配慮しなかったために安全性を欠く「設計上の欠陥」、除去し得ない危険性が存在する製造物について、事故を防止するに適切な情報を製造者が与えない「警告表示の欠陥」とされています(経企庁解説書第65頁)。

 さらに、本判決では、「販売方法の不適切性」についても検証しました。

 また、「欠陥」とは、(a)当該製造物の特性、(b)その通常予見される使用形態、(c)その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期、(d)その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうとされています(製造物責任法第2条第2項)。

 以下個別に説明します。

設計上の欠陥

「設計上の欠陥」は、その使用形態が「(b)その通常予見される使用形態」の範囲内であったかを考慮して判断することとなっています。これは適正な使用形態でなくても予見される使用形態の場合は、司法判断上広くこれに含められています。実際に、玩具入りのプラスチック製球状カプセル(いわゆるガチャガチャのカプセル)を3歳未満の幼児が飲み込んだ窒息事故について、責任が認められています(鹿児島地裁平成20年5月20日判決判例時報第2015号第116頁)。

 本件については、乳幼児が保護者の監視・保護なく本件こんにゃくゼリーを食べることが「通常予見される使用形態」であるかが問題になりますが、本判決では、乳幼児に対しては保護者が切り分けて与えるべきであり、切り分けずに与えた結果誤嚥しても設計上の欠陥があったとは言えないとしました。

 なお、判決は、本件こんにゃくゼリーは口蓋と舌でつぶすことが困難で、口腔内ではほとんど溶解せず、また、冷やして食べることで窒息のリスクが増加するとしながらも、これらのみでは「設計上の欠陥」を基礎づけないとしました。

 ただし、消費者にとってこの食品特性を意識しにくく、気付かずに、誤嚥による事故を誘発しているとすれば、また、上を向いて食べること及び吸い込んで食べることが誘発されるという特性があれば、設計上の欠陥があるとしましたが、いずれにも該当せず、欠陥はないとしました。

警告表示の欠陥

 本判決は、前述のとおりの警告表示がされているため、「警告表示の欠陥」はないとしました。

 なお、食品の製品事故を巡る裁判例の中で、警告上の過失・欠陥が問題になったものはほとんどないとされています(升田純『警告表示・誤使用の判例と法理』第122頁)。

 また、本判決は、前述の警告表示があるために警告表示の欠陥がないとしているだけで、どのような表示が最低限必要かは示していません。

販売方法の不適切性

 欠陥は「(c)その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期」を考慮して判断することとなっており、「製造業者等に欠陥を要件とする賠償責任を負わせるためには、製造業者等が製造物を引き渡した時、すなわち製造業者等の支配を離れた時点で当該製造物に欠陥が存在していたことが必要である。」(経企庁解説書第97頁)とされています。

 これによれば、販売方法の不適切性は欠陥とはならないはずですが、不適切な販売方法が警告表示の欠陥に当たる可能性があります。具体的には、「他の通常のゼリーとともにスーパーの冷蔵ショーケース内に積まれていた」こと等が、警告表示の欠陥に当たる可能性を考慮して、本判決は判断したものと考えられます(後出の神田評釈)。

 この問題について、本判決は、どのように販売するかは、小売店が決めることであるため、子供向け菓子の傍らで販売されていても、製造会社の責任にはならないし、また、外袋の記載方法・事故報道等の認知率から、こんにゃくに由来する成分を含み、食感等の点で通常のゼリーとは異なることが十分わかるため、製造会社に責任はないとしました。

発生件数と一口による発生頻度(リスク論)

 高裁判決は、地裁判決の理由付けに加え、発生件数及び一口による発生頻度が、いずれも、古くから定着している餅と同程度以下であることからも責任はないとしました。

 窒息事故の危険性は、単に窒息死亡事故数ではなく、食べる機会や頻度(一口による発生頻度)も検討しないと判断できないとされています(後出の松永和紀著雑誌記事第130頁)。

 食品安全委員会は、一口当たり窒息事故頻度を次の算定式で算出し、各食品を比較しました(後出の評価書第47頁及び第48頁)。

一口当たり窒息事故頻度
一口当たり窒息事故頻度(単位:×10のマイナス8乗)。すなわち、以下の数値は1億口当たりの事故発生頻度とも言える。
食品(群)とその評価書のケース1-1及びケース2-1における事故頻度
6.8~7.6
ミニカップゼリー(こんにゃく入りのものを含む) 2.8~5.9
飴類 1.0~2.7
こんにゃく入りミニカップゼリー 0.16~0.33
パン 0.11~0.25
肉類 0.074~0.15
魚介類 0.055~0.11
果実類 0.053~0.11
米飯類 0.046~0.093

 食品安全の議論で用いられるよく用いられるリスク論は、たとえば、発がん性物資の摂取を日常生活でゼロとすることはできないことから、発がん性が極めて低いまたは無視し得ると思われる物質の消費・流通を規制することは、より高いものが規制されていない場合には無意味であるとするものです。

 高裁判決は、製造物責任について、このようなリスク論的な考え方をとったものであり、その点で注目されます。

 ただし、リスク論は規制の要否判断に用いられることは多いところですが、本件のような損害賠償請求の責任の有無判断に用いられた事例は初めてと思われます。

 本件では、欠陥があるなしを判断する基準が問題となりますが、高裁判決は「我が国の食文化として古くから定着している餅」を基準としており、これはリスク論者からしばしば主張される考え方で、裁判所がそれを取り入れたものと言えます。

餅の警告表示の必要性

 なお、餅が小売りされるときには、通常、こんにゃくゼリーと同程度に詳細な警告表示はなされていません。

 一方、こんにゃくゼリーの一口当たり窒息事故頻度等は、餅よりも低いにもかかわらず、本判決は、こんにゃくゼリーについて一定の警告表示が必要としているように読めます。本判決から離れますが、では警告表示がない餅は警告表示の欠陥があるということにならないかが議論となります。

 これについては、除去し得ない危険性が存在する製造物について、餅のように事故を防止するに適切な情報が一般的に知られている場合は、製造者がその情報を特段与えなくても「警告表示の欠陥」とはならないという考え方を、本判決は取ったとも考えられます。しかし、この問題について触れた文献や裁判例は見当たらず、今後具体的事件が生じたときに裁判所がどのような考え方を示すかはまだわからないところです。

参考文献

経済企画庁国民生活局消費者行政第一課『逐条解説製造物責任法』平成6年12月27日商事法務研究会(「経企庁解説書」)

松永和紀(まつなが・わき)「こんにゃくゼリーの危険度は?」栄養と料理第76巻第4号第130頁~第133頁平成22年4月

「食品健康影響評価の結果の通知について」食品安全委員会委員長発内閣総理大臣あて平成22年6月10日付け府食第455号(「評価書」)
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20090427001

升田純『警告表示・誤使用の判例と法理』平成23年2月10日民事法研究会

リスク論について詳しいサイト:リテラジャパン(西澤真理子)
http://www.literajapan.com/

地裁判決の評釈

神田桂「幼児がこんにゃく入りゼリーを喉に詰まらせ窒息死した事故について、ミニカップ容器入りこんにゃくゼリーの欠陥が否定された事例(神戸地姫路市判平22・11・17)」現代消費者法第11号第106頁~111頁平成23年6月15日

参考裁判例

 精神分裂病患者が入院中、白玉もち(だんご)が夕食として提供され、のどに詰まらせて窒息死した事件について、遺族が医師の使用者に対し、損害賠償を求めたところ、直径約2cmの白玉だんごが、他の食品と比較してとくに誤嚥事故発生の危険が高いものというのは困難で、本件事故は、患者が、口腔内の白玉だんごを一気に飲み込もうとしたことによるものというべきであり、白玉だんごを同人に提供したことについて、被告病院医師らに過失があるとはいえない等として責任を認めなかった裁判例(旭川地裁平成13年12月4日判決判例時報1785号68頁)があります。

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中央官庁室長級 たかぎ・まさお 現役中央官庁官僚。6本以上の法案作成に関与。大学講師(食品・法学)兼務。編著書は法律解説書、雑誌記事他計20冊(件)以上。