栽培方法の基準だけで品質はコントロールできない

堆肥舎(記事とは直接関係ありません)
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前章では、作物の品質を決める要因として、栽培に適した地域・条件、旬、鮮度品種がとくに重要なものとして挙げ、栽培方法による違いはあまりないといったことを述べた。以下ではもう少し踏み込んだ解説を行いたい。

レシピだけで料理の善し悪しは決まらない

 栽培方法に名前の付いたものは数あるが、その中で最も知られているのが有機栽培である。ここでは有機栽培を例として挙げて、栽培方法と品質の関係について述べていくが、これは消費者・需用者が最もイメージしやすいものとして取り上げるだけで、有機栽培を貶めるとか否定するとかといった意図によるものではない。その点はご理解いただきたい。

 さて、有機栽培はもともと化学肥料や農薬に依存し過ぎたことに対する反省から生まれた。化学肥料に依存しすぎ、土壌の生産性を維持するための有機物の還元を怠ると、しまいには“不毛の地”となり、農産物の穫れない土地になってしまうことから、そうではない方法として考え出された(第4回参照)。

 という経緯から考えれば、有機栽培とは、「化学肥料と化学合成農薬を使用しない栽培方法」と言い換えることができる。単純に、化学肥料を使用せず、農薬を使用しなければ、有機栽培である。

 有機栽培は、現在認証制度があり、有機栽培と表示するためには認証を受ける必要がある。だから、「有機栽培」として売られている農産物は、有機栽培によって生産されたことに間違いない。

 では、「有機栽培」として売られているものはおいしいのか、栄養価が高いのかと言えば、それはイエスとは言えない。有機栽培であるかそうでないかは、品質の善し悪しとは関係がない(この点、いろいろ反論のある方がいるであろうとは承知しているが、ぜひ最後まで読んでいただきたい)。有機栽培とは、作り方を規定しているだけであり、出来たものの品質を保証するものではない、ということである。現在、日本で定められている有機栽培の基準を見ても、出来上がる作物の品質や栄養がどのようでなければならないという規定はない。

 たとえて言えば、自動車工場に最新式の生産ラインを導入したとしても、それで出来る自動車がよくなるとは限らない。もっと身近な例を挙げれば、料理とレシピの関係がある。レシピは料理の作り方を規定するものである。では、著名シェフが書いたレシピに従って料理を作れば必ずおいしいものができるだろうか? 残念ながらそうはならないのである。同じレシピを用いても、材料の質や鮮度、使用する器具、火の種類や火力、作る人の熟練度などなどによって、出来上がるものはさまざまだ。

 有機栽培によって栽培した、というのも同じことだ。基本的な決まりごとは、化学肥料と化学合成した農薬を使用しないということであり、それを証明し得る方法として使ってよい資材や、必要な手順にさまざまな規定を定めているだけであるから、実際に現場で行われることは、それぞれの現場の条件次第でさまざまである。それで出来上がるものが違ってくるというのは、むしろ当然のことだ。

有機栽培で期待すべきは環境保全

 繰り返すが、有機栽培とは、安全、おいしいさ、栄養がある、ということを保証するものではない。有機栽培で作ったかそうでない方法で作ったかは、作物の品質が優れているか劣っているかということとは関係がない。

 有機栽培以外に、中にはもっと細かい栽培上の規定(料理で言えばレシピ)を定めていると宣伝している栽培方法(農法)もあるが、それでも現場作業なり仕上がりを完全にコントロールするのは不可能だ。料理ならば、一般に室内で行われ、厨房の設計や使用する機器や道具もある程度決まっている。しかし、農業は一般に野外で行われ、天候は変わり、地形、地質はさまざまであるなど、栽培に大きな影響を与える条件を数え上げればきりがない。栽培方法に基準を設けることで、品質を期待通りのものにコントロールするというのは至難の業と言える。

 ここまで読んで、疑問を感じている方も多いだろう。現状、多くの人が「有機栽培で生産したものは一般のものよりもよい」と信じているからだ。ここで「よい」というのは、安全性、味、栄養面で優れているということだ。「それはウソなのか?」と疑問に思われた人は多いだろう。それは、本当でもあるし間違いもあるということになる。

 本来、有機栽培であることについて、消費者・需用者があるいは生産者が期待すべきは、環境保全、土壌保全である。その取り組みの苦労に対して対価を支払うということは価値のあることだ。しかし、残念ながら農産物にそのようなグリーン購入の意識が浸透しているとは言えず、商業的に効果を上げるために「安心」「おいしい」「栄養豊富」という宣伝文句になってしまうのである。

 だが、最初に述べたように、有機栽培とは、ごく基本的なレシピにすぎない。繰り返すが、化学肥料を使用しない、農薬を使用しないというだけのことでは、必ずよいものが出来ると請け合えるものではない。

 では、安全性、味、栄養面で優れたものを作るポイントは何か。何によって差がつくのか。

 それは栽培管理の差になる。

About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】