農産物の品質の適正な表示を考える

作物の栄養について書いたが、有機栽培のものが優れているという表示や広告には注意が必要だ。

有機栽培と慣行栽培で栄養価の違いはない

「有機栽培だから栄養面で優れている」といった表示は、現在イギリスでは禁止されている。2009年7月、英国食品基準庁(FSA)はオーガニック(有機認証)食品の栄養価と健康影響についての科学的根拠を吟味したレビューを発表した。それによると、「通常農法による食品と比較して、オーガニック食品の栄養学的優位性は認められず、健康影響についてもとくに良い影響があるとは言えない」ということだ。

●Organic review published
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20120206100416/http://food.gov.uk/news/newsarchive/2009/jul/organic

●「英国におけるオーガニック・パニック」/うねやま研究室
https://www.foodwatch.jp/science/uneyamalab/8605

 さらに、最近のいくつかの調査結果でも、有機栽培と慣行栽培で、栄養面での違いは認められないという報告がなされている。

●オーガニック食品は過大評価? 栄養価の根拠が不十分
http://kenko100.jp/news/2012/09/10/01

●オーガニック食品と一般食品、どちらを買うべき?
http://www.cnn.co.jp/fringe/35021297.html

 米スタンフォード大学のクリスタル・スミススパングラー教授が、これまでの研究結果からまとめたものであるとのことだが、有機栽培による食品と慣行栽培による食品では、栄養価の違いは見られないとの報告である。イギリス、アメリカではこういった研究結果が多数ある。

 栄養の話からそれる余談となるが、上記の研究で興味深いのは、有機栽培の果実や野菜は、一般的な農産品に比べて残留農薬による汚染のリスクが約30ポイント低い、という報告だ。

 信じがたいが、欧米の農産物の38%から残留農薬が検出されたということで、日本と比べると格段に汚染リスクが高いのだから、その意味では有機栽培の農産物を購入する意味は大きいだろう()。

 だが筆者が驚いたのはそこではなく、オーガニック製品でも7%から残留農薬が検出されたということだ。欧米の有機栽培と日本の有機栽培は、基準が違うためであるが、日本の一般の農産物がいかに残留農薬が少ないものであるのかがわかる(2004年の調査で残留農薬の検出割合は0.2%)。

不適切な広告はやがて規制されるもの

 このような指摘に対しては、「我々の農産物は違う」という反論があるかもしれない。しかし、栄養に関しては、はっきりと数値で示すことが可能なので、栄養面で優れていると主張するのならば数値で示せばよいだけである。

 誤解していただきたくないのは、筆者は有機栽培を含む、各種の栽培方法やそれらに取り組んでいる方々を否定するつもりは全くない。

 ただ、栽培方法がどのようであれ、表示や広告には注意が必要だ。栄養価などを数値で示す客観表現ではないもの、誇大な表現や虚偽は本来自主的に避けなければならない。たとえば「本物」といった曖昧な表現は、グレーだし、「健康によい」といった表現には慎重さが求められる。

 もし、現在の根拠を欠いた表示や広告宣伝が蔓延する状況が続けば、将来的には規制されることにもなるだろう。先に記したイギリスの例もあるし、国内でも農産物以外の食品の表示や広告についてはさまざまな規制がある。そういったことも考え、早いうちに対処する必要があるはずだ。

理想的な農産物を作りたいという思いは一つ

 さて、農産物の安全(安心)、おいしい(本物)、栄養価の高い(健康によい)についてここまで見てみた。

 現在は、一般に流通し、問題なく利用されている多くの農産物が、危険であるかのように、あるいは味や栄養価で劣るかのようにネガティブな宣伝がされており、そのために消費者・需用者は正しい判断ができなくなっているし、よりよい農産物の生産について考えるべき問題の本質を見失ってもいる。その点を消費者・需用者・生産者がいっしょに考え直す一助一助になれば幸いだ。

 このパートの最後になるが、「では、安全(安心)で、おいしい(本物)、栄養価の高い(健康によい)農産物はないのか?」という話になるだろう。

 それを作りたいというのが、現場で栽培している人たちの夢である。ほとんどの人がそのようなものを作りたいと考えており、日々努力を重ねている。やり方はさまざまでも思いは同じだ。筆者がいろいろ書きながら、特定の農法を批判したいのではないというのは、そういうわけだ。

 では、そのような農産物はあるのか? 筆者自身も含め、多くの人がいろいろに取り組んではいるが、理想的な農産物を安定して作り続けるというのは非常に難しい。望む品質のものを常時出荷することが難しいのである。だから工業製品のように品質表示を行うことは現実的にはできず、味や栄養を保証するような表現をすると問題となる――多くの真面目な生産者はそれを理解しているから、消費者・需用者が飛びつくような宣伝はしないでいるものだ。

 逆に、安全、本物(本当)、栄養価が高い(体によい・健康によい)といったことについて、思い切った広告表現を使っている人は、そのような表示・広告が公正な取引を考える際に問題となり得ることを知らないか、一部の高品質のものだけのデータを取って満足してしまっている可能性が高い。もしわかっていて行なっているのであれば、道義上の問題があるだろう。

 有機栽培であるから、無農薬であるとは言える。では、それは安全かというと、そういう意味ではない。農薬を使用していないという事実はあるが、それが安全を意味しているわけではない。化学肥料を使用することで、まずくなるわけではないし、栄養価が低くなるわけでもない。農産物に何らかの危険を及ぼすものでもない。消費者・需用者にここを誤解させず、正確な判断をしてもらうことを心がけたい。

 では、現在もてはやされる有機栽培などさまざまな農法による農産物の出来は、実際のところどうなのだという疑問も起こるだろう。それについては、次回以降に書いていきたい。

※ ただし、イギリスでは残留農薬の危険性を宣伝することは禁止されている。一般に販売されている食品の残留農薬がヒトの健康に悪影響を与えることはないとしているためだ。「英国におけるオーガニック・パニック」/うねやま研究室参照。

About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】