畑の土 iii/黒ボク(3)

黒ボク土の圃場断面標本(モノリス)
黒ボク土の圃場断面標本(モノリス)左右ともに北海道の畑地のもの/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵
黒ボク土の圃場断面標本(モノリス)
黒ボク土の圃場断面標本(モノリス)左右ともに北海道の畑地のもの/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵

日本にとくに見られる黒ボクという土壌の特異性は、世界的にも有名なものです。化学性には問題の多い土壌ですが、非常に軽く、軟らかく、しかもその物理性が深い層まで均一になっているのが特徴です。

黒ボクは世界的にも“有名”

 黒ボクは全国的に広く分布しており、またたいへん特徴のある土ですが、世界の学界でも着目されています。これまでに説明したように、黒ボクを世界に紹介したのは米国の土壌学者たちで、第二次世界大戦後の調査団であったようです。

 そして、黒ボクの国際的に通用する呼び名は「Andosols」(アンドソル/FAO土壌分類)「Andisols」(アンディソル/USDAの土壌分類)です。これはおそらく「暗土」(あんど)、つまり暗い色の黒い土ということから名付けられたのでしょう。土壌学の用語は、ロシア語、フランス語、英語由来のものが主体ですが、その中にあってこの黒ボクを示すものだけが日本語由来というのは、やはり世界的に見ても特徴ある土ということです。

夢のように軽く扱いやすい黒ボク

 さて、前回のお話では、黒ボクは化学性に問題があるものの、それさえ解決されれば、礫もなく、軟らかなため、耕うんしたり、畝立てをしたりという作業面では楽な土と言えると説明しました。

 耕うん、溝切り、畝立て、こうした作業がすべて人の手で行われていた時代は、とくにそうだったでしょう。

 黒ボクのように、さらさらした状態が続く土は全く扱いやすいものです。逆に、重粘土質と呼ばれる土壌は、扱いがとてもたいへんです。水分を含めばネットリとして鍬にはへばり付き、畝立てをするにもたいへんな力が必要です。また乾くとカチカチになって、ハンマーで叩いても跳ね返るほどです。

 このような重くて粘る土から比べると、黒ボクは夢のように軽く、扱いが楽で、女性にも作業がしやすいものです。

 こういう性質を、土壌学では「物理性がよい」と言います。あまりピンと来ない言い方かもしれませんが、こういう言い方があるということは、指標もあるということです。その一つが容積重というものです。つまり、一定容積にどのぐらいの重量があるのかということを比べるわけです。

 たとえば100ccの容積に入った状態で見ると、火山灰土ではない土が約110gぐらいとすると、黒ボクは70g程度です。これは土の粒子そのものが軽いということだけでなく、その粒子が一つの塊をつくり、その塊がまた団子状になり、さらにその団子状のものがまた塊を形成するという構造を作っていて、空隙のある構造を作っているためです。黒ボクが触るとボコボコする感じがしたり、風に舞ってしまうほど軽かったりというのは、この構造によるものです。

深い層まで軽く軟らかな黒ボク

 そして、黒ボクのすごさは、このボコボコが地面の深い層まで同じようになっている点にあります。これも土壌学では特別なことととらえ、厚層黒ボクと名付けてその均一な厚さを表現しています。

 実際に地面を掘って断面を見てみると、世界にもこれほどの軟らかで、均一な黒い腐植層はないだろうと驚くほどのものです。同様の外観を持つウクライナの土(チェルノーゼム)は肥沃ですが構造はこのようではなく、見た目が似ていながら性質は正反対というのも面白い限りです。

 しかし、黒ボクの深層までボコボコしているというこの性質も、人間生活にとってのメリット・デメリットで考えるとやはり表裏一体のものです。

 固相率という用語があります。土という粒子の集まりでは当然隙間があり、その隙間が大きくなれば、粒子が占める個体の部分は比率が小さくなります。その個体の部分の割合を測って固相率というものを計算します。

 火山灰土以外の土では固相率は45%ぐらいです。ところが、黒ボクでは平均25%ぐらいで、低い値では12%などというものもあります。こんなに固相率の小さい土はたいへんにめずらしいのです。

 フカフカ、ボコボコな黒ボクは、建設工事の際にいくら踏み固めても、その性質はなかなか堅固なものには変えられません。しかもこの土のフカフカは厚く存在していることもお忘れなく。

 と言うことは、東京など黒ボクが分布する地域のみなさんは、スカスカな土の上に建物を建てているということです。怖がらせてもいけませんが、地震のことを考えれば、建物の設計には特別の配慮をするべきでしょう。

 さて、黒ボクのこの性質は、農産物にはどのように影響するでしょうか。

関祐二
About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。