肉系イタリアンの中心にして雄「CARNEYA」(東京・牛込神楽坂)

「CARNEYA」(東京・牛込神楽坂)
「CARNEYA」(東京・牛込神楽坂)

「CARNEYA」(東京・牛込神楽坂)
「CARNEYA」(東京・牛込神楽坂)
高山いさ巳シェフ(左)と塚本大輔マネジャー
高山いさ巳シェフ(左)と塚本大輔マネジャー

ついに猛暑に突入しました! 日中はめまいがするほどの日差し。日陰を狙って歩くことが多くなりますよね。自転車通勤でも、路面の照り返しと立ちのぼる熱気で息が苦しくなることがあるほど。こういう時期、自転車通勤には、早めの出社をオススメします。本格的に暑くなる前の朝方、自転車を駆って会社に行けば、爽快感もひとしお。いわば“チャリンコサマータイム”――いいですよ~。

波瀾万丈のお肉をめぐる冒険

 7月~8月に増えるのが、イベント。自分の勤める会社もご多分に漏れず、通常業務に加えてイベントが目白押しで、実に目まぐるしい毎日が続いている。

 それでも、部署のアシスタント女子2人が頑張ってくれるおかげでなんとか回ってくれているのが救い。そんな彼女たちの骨折りに応えようと、食事会を企画した。「何が食べたい?」と尋ねると「おいしい肉!」と元気に主張。では、とっておきの場所を用意しよう、と予約したのが、牛込神楽坂の「CARNEYA」さん。

 こちらのお店は、最近、巷でよく聞くようになった“肉系イタリアン”の、走りにして中心。オーナーシェフである高山いさ巳さん(36)とマネジャーでフロアを切り盛りする塚本大輔さん(33)の魅力全開で、連日満員の盛況が続いている超人気店なのだ。

 その高山さん、その波乱万丈の経歴はまるでドラマだ。

 そもそも浅草で50年以上続く老舗焼肉店「冨味屋」(ふみや)の孫として生まれた高山さん。子供の頃からお店の休業日になると、グルメのお母さんに連れられ、あちらへこちらへと外食巡り。その頃から「おいしい料理ってすごいな」と思っていたと言う。

 ところがエスカレータ式の高校を卒業して大学に進んだものの、入学式当日に周りを見回して「こいつらと友達になりたくないな」と、いきなり初日でドロップアウト。「お前なんて、もう子供じゃない。親子の縁を切るから、この金持ってどこへなりとも行け!!」って、帯封の付いた百万円の札束をお母さんに叩きつけられた。

 そこから、お金をもって都内を食べ歩き。これだ! というお店を見付けて「ここで働かせてください!」と飛び込みで直訴。そこで4年間みっちり腕を磨き、腕試しにいくつかの店を巡ると、24歳でシェフに抜擢。

 ああ、それなのに、人間関係でつまずき、本場イタリアへ修業へ。ローマ近郊チェッキーナのレストランへこれまた奇跡のような偶然で勤務。もう子供もいた高山さんは、ようやく安心し、単身赴任から家族を呼び寄せようとしたら、就労許可の問題で泣く泣く帰国。

 その後都内で働くうちに、マネジャーの塚本さんと知り合って意気投合。ようやく自分の店を持つ決心を固め、貯金と店舗探し。200店ほど見て決まらなかったのに、牛込神楽坂の薄汚れたレンタルビデオ店跡を見て、そこで自分が料理をしている姿がいきなり見えてしまって……今に至る、という。

とろとろの桃源郷へ

「アンガス牛と黒トリュフのカルパッチョ」
「アンガス牛と黒トリュフのカルパッチョ」
「萬元豚モツのランプレドット サルサヴェルデ」
「萬元豚モツのランプレドット サルサヴェルデ」

 ご本人のドラマを書いているだけでドキュメンタリーが作れそうな具合だが、肝心の料理の味は、もう掛け値なしに最高なのである。

 というわけで、メニュー選び。もう、前菜からお肉の競演で! 最後に「CARNEYA」さんの最強兵器「スーパーCARNEYAオールスターズ」(8500円)という皿があるから、それに向けて食事と意識を集中しなければならないのだが……。「お肉」モードに入っている我々の頭には、もう、「ウマイ肉!!」というイメージがぐるぐるしていたので、その結果として、選びに選んで、前菜を数皿チョイスしたのだ。

「カルネヤサラダ」(ピッコロ1500円、グランデ2200円)は、こちらのオススメ料理の一つ。野菜がたっぷり、しっかり食べられて、お腹を臨戦態勢に持っていくのにぴったり。

 そして、本日のオススメメニューとしての「アンガス牛と黒トリュフのカルパッチョ」。これがまず、ヤバかった。タタキ風に表面を炙りながら、内側はほろほろとしてうま味を閉じ込めた牛のカルパッチョ。これを、チーズと一緒にパンに山盛りにしていただくと……お口の中は牧草の爽やかな風とうま味のぎゅっと絞り込まれた牛の香りと味でいっぱいになり……一気に桃源郷へ運んでくれる。

 うっとりしながら3人で食べても、たっぷり量が多いから、いくらでも食べられるしあわせ。

 ああもう、しょっぱなからダメかも~と、頭をトロトロに溶かしながら、感嘆する。

 われわれのその様子を厨房から見てる高山シェフの眼差しのうれしそうなこと。ああ、肉好きで本当によかった。

 そして、まだ前菜は続く。

「萬元豚モツのランプレドット サルサヴェルデ」。要するに豚モツのイタリア風煮込みなのだが……これがもう、のけ反るくらいの味だったのだ。

 まず、とろりとしたモツ。それが、甘みを感じさせるほどトロトロになりながらしっかり歯ごたえを残し、濃厚なスープに絡み、トロトロアツアツのモツを思う存分堪能しつつ、極上のコラーゲンたっぷりのスープを飲み……と皿の中で無限のループを演ずるのだ。

 ほんとうに素晴らしい味!と感嘆することしきりだった。

熟成肉を使うには調理の技術も必要

「スーパーCARNEYAオールスターズ」
「スーパーCARNEYAオールスターズ」

 そして、いよいよメインイベント。「スーパーCARNEYAオールスターズ」。これは、その日に高山シェフがオススメするお肉をすべて一つの器に並べた、実に贅沢で天国のようなお皿。

 この日は、

 塩麹のウズラ、フランス産の鴨、羊、50日熟成した 「さの萬」の牛肉、そして90日熟成(!)の牛タン……。

 なんという美しさ、なという威容、なんという形のよさ……。ただただ感嘆するしかない。

「さの萬」とは、「CARNEYA」が、牛肉の仕入れ、熟成で懇意にし全幅の信頼を置いている、富士宮の知る人ぞ知るお肉屋さん。この「熟成」と言うのは、ドライエージングという肉の熟成方法で、表面をカラカラになるまで水分を飛ばしつつ、うま味をぎゅっとお肉に閉じ込める技術。このプロセスで大きさは1/4以上減ってしまう、その贅沢な熟成肉を、「CARNEYA」は使っている。

「熟成牛を使うのはね、もろ刃の剣でとても危険なことでもあるんですよ」と高山シェフは秘密を明かしてくれた。

「普通、肉を焼くときって、焼いてから寝かせる、って言うでしょ? 肉に水分がある場合は、焼くってのは運動させることと同じなので、味を落ち着かせるためには、焼いてからしばらく寝かせないとうまくならないんです。ところが、熟成牛はギリギリまで水分を飛ばしてカラカラになった肉を焼くから、寝かしちゃったらうま味が逃げちゃう。だから、熟成牛は、その肉によって、焼き方によって、焼いてすぐ出す場合もあるし、30秒だけ寝かせることもある。それがまた、面白いんですけどね」(笑)。

「踊ってしまいたいです!」

デザートまで大満足
デザートまで大満足

 実際、「CARNEYA」のお肉を食べるとその甘みや、噛めば噛むほど溢れてくるうま味に驚愕する。感動する、と言ってもいい。

 その感動を伝えると、マネジャーの塚本さんが「ありがとございます!」と笑い、高山シェフがにっこりする。「それだけのことをしているのだ」と、高山シェフの目の奥が光る。

 この日のお肉のそれぞれで言うと……。

 塩麹のウズラは、軟らかさと甘味を堪能できて、とくに骨のまわりのうまさが際立ち、鴨は、あの鴨独特のうま味をとことんまで追求できる深さを持ち、羊の肉は軽やかでありながら、滋味深かった。

 それでも、90日熟成の牛タンのすごさと言ったら……。古酒を飲むときにこういう感慨が出るのだろうか、と思うような、どこまでも連れて行かれるような深い味がして、飲み込むのがとても惜しかった。

 そして、その上で、高山シェフが絶対の自信を持つ50日熟成の牛のうま味の素晴らしさは……。噛めば噛むほど、味わえば味わうほど、虹色のようにおいしさが出てきたのである。

 連れて行った若い女子たちのよろこぶまいことか。「踊ってしまいたいです!」という感想もむべなるかな、と感動した。

 締めにはシンプルなオリーブオイルのパスタを食べ(このアルデンテがまた絶品!)、デザートはそれぞれがアイスやジェラードを堪能し、おなかいっぱい!

 本当のおいしさは、美味に酔う。

 祝杯を揚げたくなるぐらいの気持ちになる。

 そのまま、とてもいい気持ちで、満腹のお腹をかかえつつ、ゆらゆらとお店を出たのであった。

 ほんとうに堪能した。

 また、近いうちに、きっと来るだろう。


●「ANTICA OSTERIA CARNEYA」(アンティカ オステリア カルネヤ)

東京都新宿区南山伏町3-6 市ヶ谷NHビル1F
Tel.03-5228-3611
営業時間:12:00~14:00(L.O.)、18:00~21:30(L.O.)
定休日:日曜日
http://www.carneya.net/

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。