復興計画は国づくりの視野で――「五箇条の御誓文」に学ぶ提言

まさに、「人間の知識や進歩のはかなさと、自然の脅威の底知れなさに震えあがる」(瀬戸内寂聴氏/朝日新聞3月31日)事態が到来した。「国難」と言っていいだろう。単に東日本の問題として片付けるにはあまりにも大きすぎる惨事に見舞われて、早1カ月が経とうとしている中、大いなる自然災害に加えて、人災的な問題までもが追い打ちし、復興の妨げになろうとしている。

国難からの新生を期す

 官民が結束して英知を結集し、復興計画を策定するときではないか。そして、このあまりにも大きな不幸と悲しみをむしろ“善用”し、すでに凋落の一途をたどっていた震災直前のわが国に繁栄をもたらすよう、将来の国の形を考えていくべきだと考える。そのために、復興構想会議が有効な機能を発揮できることを願ってやまない。

 その復興構想を策定するに際し、日本人として、日本の歴史から学ぶことは多いに違いない。現在とは政治の体制も、国を取り巻く世界の状況も大きく異なってはいるとしても、価値があるはずだ。

 私が、そのためのテキストとして取り上げたいのは、前回紹介した、聖徳太子によると伝えられる「十七条憲法」、明治政府の基本方針である「五箇条の御誓文」、加えて昭和天皇による「年頭、国運振興ノ詔書」(いわゆる人間宣言)等だ。

 これらは、あるいは権力闘争による戦乱と混乱の時期を収めるときに、あるいは封建社会を脱して新しい政体の国を作り上げるときに、あるいは敗戦後の復興を期すときに書き記されたものだ。換言すれば、いずれも“国難からの新生”を願って書かれた根本方針、根本精神を表したものである。

 中でも「五箇条の御誓文」は、この危機に大いに示唆を与えるものだ。その各条に従いながら、今回の「東日本大震災」の復興に際しての、私見をまとめてみた。

1.「広く会議を興し、万機公論に決すべし」

 これは民主主義国家である現在の日本では、本来言わずもがなのことである。しかし現状を公正に見てみると、党利、党派の利害の散見される所なしとはしないようである。

 フェアに、国益、将来を思い、官・民、国・地方が結束し、ベクトルを合わせ、時機を逃すことがないように、幅広い議論を尽くすこと。今回のような災いの再来があったとしても、十分に立ち向かえるように、防災体制、危機管理のあり方を十二分に顧みること。真に“世界のモデル”になり得る、“世界の人類に貢献できる日本”を創り出せるように図ってほしいものである。

2.「上下心を一にして、盛んに経綸を行うべし

 ここに言う「経綸」とは国策・財政・経済等のことと理解しているが、この点、4月1日に菅首相が発表した「復興計画」のあらましでは、いささか心もとない。

  • 山を削って高台に住むところを置く
  • 海岸沿いに水産業、漁港などまでは通勤する
  • 植物、バイオマスを使った地域暖房を完備したエコタウンをつくる
  • 福祉都市としての性格も持たせる
  • 第一次産業を再生させていく
  • 復興構想会議を立ち上げる

 以上が首相会見で述べたあらましだが、今般の国難を最善に生かし、今すでに世界に立ち遅れ気味であるこの国の未来の姿を創り出す根本としては、あまりにも情けなく、「大きな夢を持った復興計画」(首相)としてはいささか世界的・日本的視野を欠くものと言わざるを得ない。

 復興計画は、東日本の再建に留まらず、“街づくり”“都市づくり”の規模ではなく、日本全体の再生の問題として考える必要がある。とくにグローバル化の進み行く世界にあって、発展著しいアジア諸国にも勝る戦略は不可欠だ。

 エネルギー戦略も、日本の莫大なエネルギー需要を十分に満たし得る政策の検討が必要なときに、「エコタウン」と言う表現では全貌が見えてこない。将来の日本のエネルギー政策をトータルに考える時、原子力発電に対してどのように向き合っていけばいいのかも十分に考える必要がある。

 忌まわしい原発事故の体験すら、今後プラスに転じる決意が含まれてよいのではないか。最高の技術、知識、知恵、経験を生かし、防災上も万全な体制を作ることで、原子力と言う、この苦々しくも重要なエネルギーを、世界で最も安全に活用できるというモデルまでもが含まれていてこそ、輝ける日本の再生に相応しいものではなかろうか。

3.「官武一途庶民に至るまで、おのおのその志を遂げ、人心をして、倦まざらしめんことを要す」

 一人ひとりが夢と希望をかなえることができるようにして、国民が失望したり、やる気を失うことがないようにする、ということがこの条項の意味だ。

 ところが現状は、多くの人々が震災と津波に敗れ、うちひしがれ、しかも人災にさえ見舞われる中、ややもすれば絶望感にかられ、失意の底に沈みゆく危機にある。

 地震・津波の災禍、罹災者の苦難、原発に対する大きな不安、これらが各産業にもたらす重大な影響、失業者の一層の増加等々、解消・解決すべき課題は多い。これにいかに立ち向かうかには世界の人々も大いに関心を寄せている。

 だからこそ余計に、街づくりベースではなく、新たな国創りとして、膨大な復興予算を費やすに値する国の姿を「万機公論に決して」創っていただきたい。

 また、今日のグローバル化の進み方は、ものづくりなど物理的な分野に留まるものではない。もっとトータルな視点に立った戦略が必要だ。

 わが国の国債発行額の多さは、震災前にすでに危機的状態であった。今回の復興に当たっては、あらゆる資金手当ての手段が講じられるとは思うが、現在論じられ報じられている情報を見る限りでは、この点に関しても輝く未来は見えてこない。むしろ、世界のマネー戦争で苦杯をなめ、日本の通貨の信頼性を弱め、借金に沈没する姿が目に浮かんでしまう。

 世界に貸与している膨大な貸金があるとしても、この国難を乗り越えるための原資として、短期間に各国から返済を受けられるものではない。それをあてにするなら絵空事に近いものだ。善意の義援金が日本各地から、また世界各国から送られてくるとしても、それは復興に必要な金額に比すれば、極めて少ないものでしかない。

 4月1日の菅首相の発表では、復興に必要な原資には言及されてもいない。今その金額を見積もることは困難であるにしても、財源の戦略は不可欠だ。

 自力更生の部分をもっと明確にした上で、復興の過程や結果に対して、各国からの資金が自ずと流れ込むような、魅力のあるプランが必要ではないか。これには自ずと次項が関係してくる。

4.「旧来の陋習を破り天地の公道に基づくべし」

 過去の状況や古くからのしきたりにとらわれず、世界に通用する普遍的な道理に基づいた行動をとって行くことが必要ということだ。ここの「過去」は震災前と考えるとよい。

「世界に通用する普遍的な道理」は、すでにアジア各国が日本を上回るグローバル化を実現している中、それらを上回り、先んじて対応できるものでなければならない。

 再生・復興される東日本ないし新しい日本は、日本人にとっても、また世界の人々にとっても、投資するに値すると考えられる、魅力のある姿でなければならない。そうでなければ、世界の資金を日本に呼び込むことはできないからだ。

5.「智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし」

 復興計画は、新しい知恵、知識、技術を世界に求め、大いに日本を奮い立たせるものでなければならない。

 まず、少なくとも以下を急がなければならない。

  • 原発事故の迅速な収拾
  • 安否不明者の発見・確認
  • 地上・海上を埋め尽くした瓦礫の処理(阪神・淡路大震災ではこれが迅速に進んだ)
  • 日常の生活の回復
  • そのための仮設住宅の建設
  • 雇用の確保

 東京電力、政府、自治体等がやらねばならない課題は山積している。しかし、それで終わりではない。この国難を転じて福となすためには、この国の輝ける未来を描き、実現し、“世界のモデル”になるような“気宇壮大な復興プラン”が必要だ。

 それには急速に発展する世界の情勢も十分に踏まえ、そのスピードを超えなければならない。当然、世界中から英知を集め、最も時機に添い、理を得た最高の選択をしていく必要がある。

 最後に、私自身が千葉県浦安市において、これまでに築いてきた人生の蓄えの大きな部分を、震災による液状化現象発生のために、ほぼ無に帰せられた一人であることを申し添えさせていただきたい。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/