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「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」の道草料理

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今回は現在公開中の「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」に登場する、野草を使った料理等について述べていく。

運命の朝ご飯

樹があり合わせの材料で作った朝ご飯。

樹があり合わせの材料で作った朝ご飯。

 本作は「図書館戦争」シリーズ(2006〜)や「レインツリーの国」(2006)、「阪急電車」(2008)等の著作で知られるベストセラー作家の有川浩が2009年に発表した小説「植物図鑑」を原作に、現在放映中のNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」でヒロインを務める高畑充希と、「三代目J Soul Brothers」と「EXILE」のメンバー岩田剛典が共演したラブストーリーである。

 物語は2月のある夜、不動産会社に務める一人暮らしのOLさやか(高畑)が自宅近くで行き倒れていた青年(岩田)を見つけたことから始まる。空腹で動けないという青年は自分を捨て犬に例えて「よかったら俺を拾ってくれませんか? 噛みません、しつけのできたいい子です」と彼女に微笑みかける。

 普通若い女性が見ず知らずの男に突然こんな言葉をかけられたら誰もが引いてしまうと思うが、監督の三木康一郎は「トリハダ 劇場版 」(2012)や「のぞきめ」(2016)といったホラー作品で培ったクローズアップのショック描写を恋愛映画に応用し、岩田を“女性の王子様願望”を体現したようなイケメンに見せることで現代のおとぎ話としての説得力を持たせている。

 さやかは昼間会社で上司に叱られやけ酒をあおって帰宅した勢いもあり、青年を部屋に入れカップラーメンを食べさせ一晩泊めてやる。翌朝目覚めると青年が朝ご飯を作ってくれていた。それは賞味期限ぎりぎりの卵のオムレツに芽が出たたまねぎと乾燥わかめを具にした味噌汁、のりと梅干しはいただきものというあり合わせの材料ながら手作りの温もりが感じられるもので、父を早くに亡くし再婚した母と離れて孤独に暮らしていたさやかにとっては久しく忘れていた家庭の味であり、思わず涙を流してしまう。

「ご飯って凄いね」

 そして出て行こうとする青年に「行くところがないならうちにいなよ」と大胆な提案をしてしまったのも、この朝ご飯の力と言えるだろう。

こだわり弁当とばっけ味噌とノビルのパスタ

樹がさやかのために作ったお弁当。

樹がさやかのために作ったお弁当。

 かくして家事全般を引き受ける代わりに8月までの半年間お世話になるという約束でさやかと樹(いつき)と名乗るその青年の同居生活が始まる。樹がコンビニの夜勤バイトを始めたので二人はすれ違いの日々が続くが、毎日彼が作ってくれる心づくしの弁当が身勝手な客やヒステリックな上司にストレスを感じていた彼女の心を癒した。

 樹の弁当はミニトマトのような彩りを入れれば華やかになるところをあえて入れず、色味は茶系の体にやさしそうな素材を選んでいるのが特徴。玄米と雑穀入りのおにぎり、だしで味付けした卵焼きとほうれん草、しょうゆで甘辛く煮て白ごまをふったこんにゃく等、おばあちゃんの惣菜を思わせる献立はどれもひと手間かかったものだ。弁当箱にもこだわって女の子向けに小さくて手触りのよいできるだけ薄めのアルミ製のものを選んでいる。一体彼は何者なのだろうか。

 1カ月後の3月、初めてもらったバイトの給料で自転車を2台買った樹はさやかを“狩り”に誘う。“狩り”とは河川敷に自生したふきやふきのとう、つくしといった食べられる野草を採集することだ。

「ごちそうが野生で生えてる。採らない手はないでしょ」

 樹は持ち帰ったふきは混ぜご飯と佃煮(きゃらぶき)に、ふきのとうは天ぷらとばっけ味噌に、つくしは佃煮へと手際よく調理していく。手伝ったさやかにとっては初めての体験だ。ばっけ味噌とはふきのとう味噌の東北での呼び名で、岩手県の山村を舞台にした「リトル・フォレスト 冬・春」(2015、本連載95回参照)にも登場している。ほろ苦さが特徴のふきのとうを食べやすくし、白いご飯が欲しくなるレシピは以下をご参照あれ。

【材料】

  • ふきのとう 5ケ
  • 味噌 大さじ2
  • 酒 大さじ2
  • 砂糖 大さじ3
  • 油 大さじ1/2

【作り方】

  1. ふきのとうは良く洗っておく。沸騰したお湯に塩を入れ、1分半くらいゆでる。
  2. ゆでたふきのとうをザルにあげて5分くらい水にさらし、アクを抜く。
  3. さらしたふきのとうは良く絞ってみじん切りにする。
  4. フライパンに油をひいてふきのとうを炒める。
  5. 味噌、酒、砂糖を入れてさらに炒める。焦がさないように火力に注意。
  6. ふきのとうの緑色が深緑色に変わってぼってりとしたら出来上がり。

(参考文献:植物図鑑 運命の恋、ひろいました オフィシャルブック)

ふきのとうを味噌と酒と砂糖で炒めたばっけ味噌。

ふきのとうを味噌と酒と砂糖で炒めたばっけ味噌。

 それからというもの、休日になると二人は“狩り”に出かけ季節と共に移り変わる“獲物”の料理を楽しむようになる。そのひとつがノビルの球根と葉を使ったパスタ。ノビルは球根部分を包丁で切り水洗いする。葉は適当な長さに切り、フライパンでまずベーコンを炒め、次にノビルの球根、最後にノビルの葉を入れ、塩こしょうで味付けし、ゆでたパスタと混ぜ合わせる。ノビルの持つネギのような甘さとベーコンの塩味が合い、球根のカリッとした食感が楽しめる一品である。

 次第に距離を縮めながらも同居人としての一線を越えられなかった二人だが、ある出来事をきっかけに急接近する。ところが、約束した期限である8月、さやかの誕生日を手作りのケーキで祝った翌日に樹は突然姿を消し、深く傷付くさやかが描かれていく。そんな彼女を慰めたのは、樹が詳細に書き残した野草のレシピノートで、彼女は喪失感を埋め合わせるかのように一人で“狩り”に出向き、樹と作った料理を反復していく。そして1年後、樹からある小包が届く……。

ノビルのパスタ。付け合わせもワラビを使った野草づくしのメニュー。

ノビルのパスタ。付け合わせもワラビを使った野草づくしのメニュー。

こぼれ話

 本作でフードコーディネーターを務めたのは、料理研究家のあまこようこ。撮影が初夏だったので春の野草の調達には苦労し、関東では3月にしか採れないふきのとうを北海道や長野まで飛んで採取したり、その他の野草も園芸班に栽培してもらったりしたという。


【植物図鑑 運命の恋、ひろいました】

◆公式サイト
http://shokubutsu.jp/
◆作品基本データ
製作国:日本
製作年:2016年
公開年月日:2016年6月4日
上映時間:112分
製作会社:松竹 ホリプロ LDH 幻冬舎 木下グループ ポニーキャニオン ローソンHMVエンタテイメント(制作プロダクション:ホリプロ 制作協力:松竹撮影所)
配給:松竹
カラー/サイズ:カラー/ビスタ
◆スタッフ
監督:三木康一郎
脚本:渡辺千穂
原作:有川浩:(『植物図鑑』(幻冬社文庫))
エグゼクティブプロデューサー:武田功、津嶋敬介
企画:井上竜太
製作:大角正、堀義貴、森広貴、見城徹、木下直哉、三宅容介、坂本健
プロデューサー:石塚慶生、石田聡子、井上竜太
撮影:板倉陽子
美術:AKI
音楽:羽毛田丈史
音楽プロデューサー:志田博英
主題歌:Flower:(「やさしさで溢れるように」(Sony Music Associated Records))
録音:鈴木肇
照明:木村匡博
編集:坂東直哉
衣裳:宮本茉莉
ヘアメイク:飯浦亜由美
ライン・プロデューサー:渡辺修
制作担当:吉田信一郎
助監督:府川亮介
スクリプター/記録:浦川友紀
VFXプロデューサー:田中尚美
フードコーディネーター:あまこようこ
◆キャスト
日下部樹:岩田剛典
河野さやか:高畑充希
竹沢陽平:阿部丈二
野上ユリエ:今井華
玉井千秋:谷澤恵里香
警察官:相島一之
来店客:酒井敏也
内覧客:木下隆行
山崎誠:ダンカン
登来柳明:大和田伸也
河野典子:宮崎美子

(参考文献:KINENOTE)

執筆者

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。