トピックス

「ステーキ・レボリューション」の牛肉

FacebookTwitterHatenaLineYahoo BookmarksMixiLinkedInShare

映画監督とパリ最高の精肉店店主が世界の200を超えるステーキハウスを巡ったドキュメンタリー「ステーキ・レボリューション」(10月17日/土より順時公開)を紹介する。

「世界で一番おいしいステーキ」ベスト10
「レクスプレス」誌により「パリ最高の精肉店」に選ばれた「肉の達人」イブ・マリ・ル・ブルドネック

「レクスプレス」誌により「パリ最高の精肉店」に選ばれた「肉の達人」イブ・マリ・ル・ブルドネック

 映画プロデューサーで監督のフランク・リビエラは畜産農家の息子として生まれ、肉が大好き。そんな彼は、これまでフランスこそ世界一の牛肉が食べられる場所だと思い込んできたが、あるとき「フランスの牛肉は固くてまずい」という悪評を聞かされる。

 それを、2003年に「レクスプレス」誌(フランス)が主催した目隠しコンテストで「パリ最高の精肉店」に選ばれたイブ・マリ・ル・ブルドネックに聞いてみると、シャロレー牛などのフランス牛が放牧などで牧草を主な餌とする「グラスフェッド」であるのに対し、世界でおいしいとされているステーキの主流は、穀物やたんぱく質を配合した人工飼料を使って短期間で育てられた「グレインフェッド」だという。

青空の下でおいしい肉を楽しむステーキキャンプも「レボリューション」のありようの1つだ

青空の下でおいしい肉を楽しむステーキキャンプも「レボリューション」のありようの1つだ

 では本当にフランスの牛肉はまずいのか。確かめたくなったフランクは、イブ・マリの協力を得て世界中のステーキを食べ歩き「世界で一番おいしいステーキ」ベスト10を決める旅を企画したのだった。本作は、彼らが2年間をかけて世界20カ国、200を超えるステーキハウスを巡って記録した40時間のラッシュフィルムを、2時間弱に編集したドキュメンタリーである。

 以後文中でベスト10のいくつかについて触れていくが、順位については伏字にしておくので、ぜひ劇場でご確認いただきたい。

第●位「ピーター・ルーガー」の霜降りアンガス牛

 まず2人が向かったのは、世界一おいしいと言われているニューヨークのステーキハウス「ピーター・ルーガー」。3代続く女性オーナーが吟味したアンガス牛のステーキはサシ(霜降りの脂)が入っていて軟らかい。赤身が多いフランスの牛肉とは別物のようだ。

 イブ・マリは、ピーター・ルーガーで提供される肉には、脂の乗ったとろけるような肉を好むアメリカ人の好みに合わせ、穀物飼料を強制的に食べさせ大量の抗生物質を与えて短期間で肥育された牛が使われていて、「シャロレー牛からピーター・ルーガーに一晩で乗り換えることは不可能だ」と言う。煮込み料理などで肉のうま味を楽しむフランス人の感性とは正反対のものである。

Peter Lugers Steakhouse
http://peterluger.com/

 ニューヨーク州で畜産を営み、ブルックリンの精肉店オーナーでもあるトム・マイラン氏は、こうしたアメリカ流のグレインフェッドに異議を唱える1人である。彼は、これからも肉を食べ続けたいなら自然環境に負荷の少ないグラスフェッドしかあり得ないと述べている。

 これは、無化学肥料、無農薬といった有機農業に通じる発想であるが、この映画はナレーションやコメントを一切排することで、それを否定も肯定もせず、観客に解答を委ねる作りになっている。それはこの映画の目的が、論争ではなく牛肉好きの人々にもっと牛肉を楽しめるヒントを与えることだからである。

第●位 アルゼンチンのリブロース

 アルゼンチンは1人あたり年間の牛肉消費量が70kg近い牛肉消費大国である(日本は12kg、2000年調べ。※1)。これはすべてのアルゼンチン人が毎日200g弱の牛肉を食べている計算になり、ほとんど主食と言える。放牧によるグラスフェッドで育てられたアルゼンチン牛の肉質は赤身で、なかでも塩水に漬けて焼くだけのシンプルな調理で素材の味を活かした骨付きリブロースのステーキがお薦めである。

第●位「築地さとう」の松坂牛

 続いてフランク一行は世界的な高級牛ブランドとなっている「和牛」(Wagyu)の国・日本にも飛ぶ。東京にあるレストラン「築地さとう」では、但馬牛の血統の素牛(仔牛)を松阪や神戸で長期間肥育して、細かくサシの入った黒毛和牛の中から厳選した雌牛だけを買い付け、長期熟成させた肉を手頃な価格で提供している。

国産黒毛和牛専門店さとう
http://www.shop-satou.com/
おいしい肉を作るには精肉~熟成に至る工程も重要な要素だ

おいしい肉を作るには精肉~熟成に至る工程も重要な要素だ

 この映画では、通常ではなかなか撮影許可の下りない松阪の飼育場にもカメラが入り、穀物飼料を与え(グレインフェッド)、霜降りを作るためにブラシでマッサージするといった伝統的な肥育方法が紹介されている。

 そこで感じられたのは強制的で血の通わない生産とは全く異なる人間と牛との強い絆であり、「うまいステーキは、幸せな牛からしか生まれない」という真実の一端が見えてくる。

第●位 スウェーデンの「アイ ワギュウ」

 スウェーデンの生産者で、MBAを持ち物理学博士でもあるアンディ・ラーソンは、日本の和牛のサシの入り方に着目し、和牛の胚(受精卵)をスウェーデン牛に移植して産まれた牛をグラスフェッドで肥育することを思い付いた。この試みは成功し、今ではスウェーデン産のWagyuはステーキ1枚の価格が220ユーロ(日本円換算で約3万円)という破格の高値で売買されているという。

第●位「ル・セルジャン・ルクルトゥール」のコルシカ牛

 世界各地を巡った旅の終わりは再びフランスへ。パリの高級レストラン「ル・セルジャン・ルクルトゥール」にステーキ肉を卸しているコルシカ島の生産者は、公的な補助金に頼らず、牧草等の飼料は自分で生産し、精肉店でもあり料理人でもあり、肉だけでなく革も利用して地元経済を活性化させようとしている、川上から川下まで地産地消を実践する孤高の大富豪である。持続可能な地元経済を作るため、私財を投げ打って海に面した景観のよい土地を放牧地にし、グリーン・ツーリズムにも力を入れている。

Le Sergent Recruteur
http://www.facebook.com/LeSergentRecruteur1

 アメリカのトム・マイランやスウェーデンのアンディ・ラーソンにもいえることだが、いわゆるアントレプレナーと呼ばれる人々が肉牛の生産に参入し、映画のタイトルにもある「レボリューション」を起こそうとしている動きは、牛肉の未来に希望を抱かせるものである。

「世界で一番おいしいステーキ」ベスト10にランクされたステーキハウスの調理場

「世界で一番おいしいステーキ」ベスト10にランクされたステーキハウスの調理場

 その他のベスト10の国の顔ぶれは、イギリス、イタリア、カナダ、スペイン、ブラジルとなっている。

 映画を通して見えてきたのは、牛肉のおいしさの基準は国によって全く違うということ。グラスフェッドか グレインフェッドかはともかくとして、「どうせ肉を食べるなら、最高にうまい肉を食べましょう」というのが作り手側のメッセージである。そしてその皿の上に乗ったステーキの牛が何を食べてきたかを知ることで、そのおいしさはさらに増すことだろう。

公開とコラボメニュー
「築地さとう」のフェア

「築地さとう」のフェア

 映画は2015年10月17日(土) YEBISU GARDEN CINEMA/109シネマズ二子玉川/大阪ステーションシティシネマほか全国順次公開。

 公開を記念して、劇中に登場する「築地さとう」では11月11日(水)までの期間限定でコラボメニューを用意している。店でステーキを食べるシーンでイブ・マリが見せた表情を見れば予約したくなることは必定である。

※1 独立行政法人 農畜産業振興機構 年報 海外編2003年度 資料編/1.牛肉関係 (6)主要国の1人当たり牛肉消費量
http://www.alic.go.jp/annual/2003/fore/%E8%B3%87%E6%96%99HTML/beef/beef-pre.html

Movie Stills: © 2014 LA FERME PRODUCTIONS SAS et C.PRODUCTIONS


【ステーキ・レボリューション】
◆公式サイト
http://steakrevolution.jp/
◆作品基本データ
原題:STEAK (R)EVOLUTION
製作国:フランス イギリス アメリカ
製作年:2014年
公開年月日:2015年10月17日
上映時間:114分
製作会社:C. Productions, La Ferme! Productions, Paris Premiere
配給:ピクチャーズ・デプト
カラー/モノクロ:カラー
ジャンル:ドキュメンタリー
◆スタッフ
監督:フランク・リヴィエレ
◆キャスト
出演:イヴ=マリ・ル=ブルドネック

(参考文献:KINENOTE)

執筆者

rightwide
rightwide
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。