バーテンダー諸兄に贈るFOODEX JAPAN 2012洋酒レポート10(5)

「ホワイト・バーチ」ほか
左「ホワイト・バーチ」はSMIRNOVA PLANNING扱い。画面中央「ルースカヤ・ベリョースカ」は日本未入荷。右が「NEMIROFF BIRCH」。いずれもロシア製

去る3月6日~9日、幕張メッセにおいてFOODEX JAPAN 2012が開催された。参加国数72か国、約2400社の飲料・食品メーカーが一堂に集まる世界でも有数の見本市であり、今回も73000人を超す来場者で賑わった。その中でバーテンダー目線に立って見付けてきた洋酒10品を紹介していく。最終回はウクライナ産ウォッカ2品、そしておまけが一つ。

【9】REX ULTRA

REX ULTRA
REX ULTRA

3回蒸溜、11回濾過で最後は銀とプラチナのフィルターを使用してわずかにザクロの香りをつけたプレミアム・ウォッカ
取扱:スペンタス Tel.03-5772-8632

 ウクライナのネミロフ社は、以前、SPI(ソユーズプロドインポルト/ソビエト連邦食料品輸出輸入公団)のペルツォフカが日本に入らなくなったとき、ペルツォフカを入れたことで日本でも知られるようになった。そのネミロフ社スーパープレミアム・ウォッカが「LEX ULTRA」だ。

 現在は輸入代理店を通さず、自社の日本法人で輸入しており、ラインナップも増えている。もともと唐辛子入りウォッカの本場はロシアではなくウクライナであり、SPI時代の「世界の名酒事典」(講談社)にもそう説明が書かれていた。「ペルツォフカはウクライナの剣」の名言が示すように誇り高く、武勇の誉れ高いコサックの酒として愛されてきた。

 で、ウクライナのメーカーのトップ・ブランド「LEX ULTRA」なのだが、筆者は正直ピンとこなかった。理由はポーランドの「PRAVDA」で書いたことと重複するが、要は総じて口に甘く、重く、自己主張が強いことに尽きる。にも拘わらずここに挙げたのは、かつての「ルクスソーヴァ」(ポーランド)や「モスコフスカヤ・クリスタル」(ロシア。現在はドイツ向けの並行輸入品が入手可能)のキレのよさと、飲み干した時のかすかな甘さ、そして後から来る余韻のほろ苦さ――「sweet bitterness」と筆者は呼んでいるが――を好む筆者の嗜好が日本のみならず世界のウォッカ・トレンドからずれているのでは……と思ったからだ。

 もちろん「REX ULTRA」の甘さもベタつく系の甘さではないし、後口も悪くないのだが。筆者が強く惹かれたのは、次に掲げる同社のもう一つのブランドだった。(ウクライナ)

【10】NEMIROFF BIRCH

NEMIROFF BIRCH
NEMIROFF BIRCH

3回蒸溜、9回濾過でウォッカには欠かせない白樺の花の蕾と菩提樹で香り付けをしたウォッカ
取扱:スペンタス Tel.03-5772-8632

 今回のFOODEXで筆者が一番気に入ったのが、ネミロフ社のウォッカ「BIRCH」(白樺の英語読み)だった。

 まず、デザインが良い。凛とした空気の中で霜をまとったストレート・グラスで飲む、キリリと冷えたウォッカは格別だが、まさにそのために作られたような味が、これに拍車をかける。白樺の蕾と菩提樹(のたぶん樹液)でかすかにつけられた甘みと香りが心地いい。別の会社が日本に輸入しているサハリンスカヤのように華やかではかなげな感触を口に残して喉を滑り落ちていく。ウクライナのブースでは冷蔵だったが冷凍庫で冷やした時ののど越しが楽しみになる1本だった。

「ホワイト・バーチ」ほか
左「ホワイト・バーチ」はSMIRNOVA PLANNING扱い。画面中央「ルースカヤ・ベリョースカ」は日本未入荷。右が「NEMIROFF BIRCH」。いずれもロシア製

 加えて白樺はウォッカには欠かせない濾過に使われる活性炭の原木としてなじみが深い点でもポイントが高い。ウクライナの人々もベリョースカ(白樺のロシア語読み)に思い入れがあるのだろうか。以前サンクト・ペテルブルグ(旧レニングラード)でSPIにお邪魔して直接ウォッカについてお話をうかがう機会があった。その際、筆者が「アメリカではテネシー・ウイスキーに『チャコール・メロウイング』という楓の活性炭を使う工程があるが、それとどう違うのか」と少々意地悪な聞き方をしたときの彼の回答が痛快だった。「ロシアには楓も白樺もある。しかしウォッカをろ過するときには白樺の炭しか使わない。それが貴殿への回答だ」と。

 後日談になるが、「プラヴダ」を確かめに行った銀座のウォッカ・バー(当レポート/2 参照)で「ネミロフのバーチ」の話題を出したところ、彼は右の写真の2つの白樺系ウォッカを出してきた。“ギネス級の品揃え”というのは、誇張ではない。(ウクライナ)

【+1】ザ・モルト

ザ・モルト
ザ・モルト

スコッチウイスキーの原料に使われる英国産大麦を焙煎、塩味と少量の醤油で香りをつけたバー用のスナック
曽根物産 Tel.078-915-0070

 5gごとの個装になっており、使い勝手もいい。スコッチの原料としてはプレミアム扱いとなる「ゴールデンメロン種」の大麦かどうかは聞き漏らした。

 今まではスコットランドに行ったバーテンダーのお土産でしか味わう機会がなかったが、これからはちょっと本格的なバーで目にする機会も増えそうだ。

About 石倉一雄 129 Articles
Absinthe 研究/洋酒ライター いしくら・かずお 1961年北海道生まれ。周囲の誰も興味を持たないものを丹念に調べる楽しさに魅入られ、学生時代はロシアの文物にのめり込む。その後、幻に包まれた戦前の洋酒文化の調査に没頭し、大正、明治、さらに江戸時代と史料をあたり、行動は図書館にバーにと神出鬼没。これまでにダイナースクラブ会員誌「Signature」、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)に誰も知らない洋酒の話を連載。研究は幻の酒アブサン(Absinthe)にも及び、「日経MJ」に寄稿したほか、J-WAVE、FM静岡にも出演。こよなく愛する酒は「Moskovskaya」。