「UNDERWATER LOVE―おんなの河童―」――異質な者たちの出会い

「UNDERWATER LOVE―おんなの河童―」より
「UNDERWATER LOVE―おんなの河童―」より

映画の中の食を鑑賞するコラム。今回は日独合作の異色の新作を取り上げる。
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才能の宝庫

 キュウリが嫌いである。あの独特の青臭さがどうしても好きになれないのだ。そんな私にとって、蓮沼の中で河童がキュウリをボリボリ食っているシーンから始まるこの映画は“鬼門”と思われたが、そんなことを忘れさせてくれるほど興味深い内容であったので、今回はこれを紹介したい。

「おんなの河童」は、ピンク映画の製作会社である国映の創立50周年を記念した日独合作のピンクミュージカル映画である(当然、濡れ場もある)。ピンク映画と聞くと眉をひそめる向きもあろうが、ちょっと待ってほしい。実は、現在日本映画界で活躍している監督の多くが、ピンク映画や今はなき日活ロマンポルノ等の成人映画でデビューした後、一般映画に進出しているのである。

 本作の監督であるいまおかしんじも、そうした若手監督群のうちでも最も期待されている一人で、ピンク版特撮映画や、2005年ピンク映画大賞を獲得した作品等、ユニークな作風で知られている。

 今回の企画は、日本のピンク映画に興味を持ったドイツ人プロデューサーのステファン・ホールからもたらされたという。条件は、「ブエノスアイレス」(1997)、「パラノイドパーク」(2007)、「リミッツ・オブ・コントロール」(2009)といった作品で世界的に知られるオーストラリア人撮影監督のクリストファー・ドイルと、ドイツの人気ポップス・ユニットであるステレオ・トータルを起用してミュージカルを撮ること。何という贅沢な条件であることか。

 かくしていまおか、ドイル、ステレオ・トータルという、国籍も資質も異なる三者によるコラボレーションとなったわけだが、この一見無謀とも思える取り合わせが、河童という現実には存在しないものが人間の前に現れる奇妙さをさらに際立たせていると言える。

 いまおかは、河童の出現に驚くでもなくコミュニティに受け入れていく人間たちをコミカルに描写(とくに河童を誘惑する同僚の女が出色)。また、ミュージカルシーンを短めに切り上げることで、観客のもう少し観たいという気持ちを高めている。

 巨匠に似合わぬフットワークの軽さで知られるドイルは、撮影現場にスケートボードを持ち込み、それに乗って移動撮影を敢行。乗り物酔いのような不思議な感覚の映像を生みだした。

 また、空を撮ってくれという監督の要望に対して、ドイルは水面に映る空を撮ることでそれに応えた。いまおかはこれに感心して採用したそうだが、この作品と相前後して撮影された「ラビット・ホラー3D」でドイルが同じことをしたところ、「呪怨」(2003)等で知られる監督の清水崇はこれを許さず、両者は衝突したという。監督による画作りのスタンスの違いがわかる興味深いエピソードである。

無意味であることの意味

 極めつけはミュージカル音楽を担当したステレオ・トータルである。それぞれに脚本を担当し死神役で出演も果たしている守屋文雄が作詞した日本語の歌詞が付いているのだが、彼らはその意味を全く解さずに歌っているというのだ。最近YouTubeで“日本語に聞こえる外国語”の動画を見たが、ちょうどそんな感じである。この全く情感のこもっていない、発音としてだけの歌唱が「何じゃこりゃ」感をさらに増幅させ、役への感情移入を許さないブレヒトの異化効果のように作用している。

 また、特殊造形を担当した西村映造は、リアルな特殊メイクや造形で知られる製作集団だが、今回はあえて河童のくちばし等の造形をチープに留めることで、繰り返し描かれるキュウリをかじるシーンを可能にしている。

終わりに

 物語は、高校時代に沼で溺死して河童となった青木哲也(梅澤嘉朗)が、好きだった元同級生で、今では35歳のおばさんとなった明日香(正木佐和)の命を救うために帰ってくるといういたってシンプルなもの。彼の彼女への思いと行動は、ピンク映画というより純愛ラブストーリーなのだが、前述のような異質なスタッフが出会うことによる化学反応のような相乗効果が、河童と人間という異質な存在の出会いとも重なって「ちょっとヘンな」気になる作品に仕上がっている。

作品基本データ

UNDERWATER LOVE―おんなの河童―

【UNDERWATER LOVE―おんなの河童―】

製作国:日本、ドイツ
製作年:2011年
公開年月日:2011/10/08
製作会社:国映、Rapid Eye Movies、インターフィルム
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
上映時間:86分
◆スタッフ
監督:いまおかしんじ
脚本:いまおかしんじ、守屋文雄
企画:朝倉大介、ステファン・ホール、樋上幸久
プロデューサー:高津戸顕、森田一人
撮影監督:クリストファー・ドイル
音楽:ステレオ・トータル
編集:日見田健
特殊造形:西村映造
振り付け:鹿野裕子
◆キャスト
正木佐和(川口明日香)
梅澤嘉朗(青木哲也)
成田愛(島麗子)
吉岡睦雄(滝はじめ)
守屋文雄(死神)

(参考文献:キネマ旬報映画データベース)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。