倉庫での巧みなフォークリフト操作がもたらす悪夢

前回説明した倉庫契約の2つの形態――容積借りと面積借り――のメリット・デメリットの理解を深めるためのたとえ話をする。ところで、津波災害の恐ろしさを知った今、ウォーター・フロントの倉庫群は考え直す必要がある。

容積借りが面積借りを見て感じる優越感

 前回、倉庫を借りる契約には容積借りと面積借りとがあることを説明した。要約すれば、容積借りの場合はコストを圧縮しやすいが、倉庫内での荷の移動が増える難点がある。面積借りの場合は賃料が固定費化してコストダウンはしにくいが、無用な移動を抑えるメリットがある。そういう説明をした。

 容積借りの場合、実際どんなことが起こるものか。たとえば、という話をしておきたい。

 荷主側のスタッフは、自社の酒類を預けている倉庫をたまに訪問することがある。容積借り契約の場合なら、整然と何層にもパレット積みされた大量の自社在庫を眺めて満足なひとときを過ごすだろう。

 少し離れた仕切りの向こう側には、同業他社の在庫がある。ところが、それときたら、倉庫の一角にパレットが広くまばらに積まれているのだ。その低くすかすかな様子を見渡してから、我が方を振り返って自社の山積みの物量を眺めれば、優越感にも浸れるだろう。

 さて、このときの訪問理由が、きわめて稀にしかオーダーの入らない貴重アイテムを1ケースばかり引き取りに来たのだとしよう。それを頼むと、倉庫会社の入出庫担当スタッフがフォークリフトを巧みに操作して、いくつものパレットを前後左右に手際よく移動し、目的のアイテムを探し当ててくれる。おそらく、そのスピーディで見事なフォークリフトさばきに関心することだろう。

パレット上のケースから聞こえる「チャプチャプ」

 だが、この荷主会社のスタッフが、例の水平に5回だけ緩やかに撹拌したボトルのワインが香味を激変させること(第66回参照)を知り、肝に銘じている人であったなら、彼/彼女は頭をかきむしり呆然と立ちすくむだろう。耳を澄ませば、フォークリフトがパレットを移動するたびに、パレットに満載したワイン・ケースの中から「チャプチャプ」「ピシャピシャ」と音が聞こえて来るのだから。

 このとき、このスタッフの脳裏に、先ほど眺めたライバル会社の広く疎らにパレットを積んだ光景が俄然思い浮かべば一流である。彼らがなぜそのような保管のしかたをしていたのか、真の意味を理解できたということになるのだから。

 倉庫を借りる際には、こうしたことを念頭に置き、自社がどのようなワインを在庫し、どのように出庫されていくかをよく考えて契約スタイルを決めていただきたい。

 ただ付言すれば、いずれにせよ賃貸営業倉庫というものは、たとえ酒類に最適な温度帯の定温倉庫であっても、酒類の熟成に必要な静置機能は持ち合わせていないということは押さえておくべきだ。

首都圏を津波が襲うと倉庫はどうなるのか

 倉庫については、もう一つ気がかりなことがある。またワインの縦箱正立輸送の話からそれるのだが、しばしお付き合い願いたい。これはあながち脱線とも言えない話だ。

 2011年3月11日の東日本大震災以来、心配でならないことがある。首都直下地震、東海・東南海・南海連動型地震などの巨大地震による空前の激甚災害を想定していながら、われわれの政府には全く理解できない手抜かりがあることを指摘したい。避難対策や原発対策はあって当たり前の話だが、一つきわめて重要なことを放置している。

 農林水産省は日本の食料自給率が低いと大騒ぎしている。同省によれば、カロリーベースの自給率は39%であるとのことだ。それを引き上げるべきかどうかという話はまた別の機会にするとして、今現在、それを補うための61%に及ぶ輸入食料はどこに貯蔵されているのかを考えていただきたい。

 その大半はウォーター・フロントの倉庫群に収まっているのだ。そこを東北地方太平洋沖地震級かそれを上回る地震による津波が襲った場合、無事で済むはずもないこと明らかだ。もちろん、ウォーター・フロントにあるのは倉庫だけではない。食品加工工場の多くも、港湾地域や海沿いの低地に立地している。

 巨大津波が発生すれば、われわれはそのすべてを瞬時に失う。食糧供給システムの根幹が壊滅し、日本中が即刻飢える事態が到来するということだ。とくに、専ら消費機能だけを肥大させて成り立っている首都圏の飢餓は深刻に違いない。

食料倉庫は内陸に移動しなければならない

 その対策となる土地利用の戦略を立て直さなければならない。

 食料を貯蔵する倉庫や食品加工工場を、港湾から遠く離れた内陸地域まで移す必要はないだろう。津波およびそのスケールの津波の前後に起こる天災・人災をシミュレートして、厳しい話だがそこから割り出される生残者数に対応できる備蓄・加工システムを死守する。そのため、過去の巨大津波の記録や研究者の想定などから予想される津波の遡上最高到達点よりも先の標高のあるエリアへ、この機能を移設させるような都市計画を立てればよいはずだ。

 それはおそらく、京浜工業地帯の食品・飲料倉庫の半数近くを内陸へ移動させる国家プロジェクトになるだろう。

 しかし、果たしてそんな広大な用地が首都圏に確保できるかが問題となるだろう。

 それが、あるのだ。次回、数十年前から心に温めていた格好の再開発案をご披露する。立地は都内である。

大久保順朗
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酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。