農業そのものが最大の環境破壊産業である

北海道の自然と農村(記事とは直接関係ありません)
北海道の自然と農村(記事とは直接関係ありません)

農業生産と環境への負荷について、もう一つあまり知られていない環境問題に触れておきたい。日本ではほとんど話題にならないが、農業に関する最大の環境問題であり、筆者は地球温暖化よりもはるかに大きな問題になると考えている。

農業が土地から土壌を失わせる

 実は、農業というものは、農薬や化学肥料などが与える問題よりもはるかに大きな環境問題をはらんでいる。「負荷を与えている」などというものではなく、「農業という営みそのものが環境破壊である」と言っていい。

 農業については非常に大きな誤解があって、農業を守ることは地球の環境を守ることだと勘違いしている人が多い。しかし、実際には逆で、農業こそが地球の環境を破壊している最大の産業と言える。

 それは何かと言うと、表土の流失、土壌の流失という問題である。つまり、農耕を行うことによって、土壌がなくなってしまうということだ。

 森を切り拓き、草原を切り拓く、まずこのことが環境の破壊ということはわかるだろう。自然環境を破壊しなければ、畑というものはできない。

 しかし、畑には植物が生えているではないかと思うだろう。ところが実際にはそうではなく、1年のうちに畑に植物が生えている時間は一部である。その他の時間には裸であり、土壌が風雨にさらされる状態だ。裸の畑では土は雨に流され、風に飛ばされて土が失われていき、最後にはなくなってしまうのである。

 雨風で土がなくなる程度など大したことはないだろうとも考えるかもしれない。ところが、そう思っているととんでもないことになる。

 誰しも写真でか現地へ行ったかで、ギリシャの風景を見たことがあるだろう。白亜の岩に緑がところどころにあるといった風景だ。実は、ギリシャは太古からそのような風景だったのではない。ローマ時代には、ギリシャは森も畑もある緑の大地だったのだが、その後土壌が失われ、森に戻すこともできくなってしまったというのが真相だ。これは、農耕を行うことで、雨や風から土壌を守っていた木や草がなくなり、その結果、土壌が流され飛ばされて、ついにはなくなってしまったということなのだ。

 このような変化は非常にゆっくり進むために、5~10年ではわからないが、100年や数百年が経過するうちには土壌のすべてを失ってしまうというわけだ。

 日本ではなぜこの問題に関心が持たれないかと言うと、古くから日本では水田が主流で畑作はあまり行われていなかったためだ。水田というのは、土壌を守るという観点からも非常に優れたシステムだと言える。1年のうち多くの時間は水田に水が張られ、雨風の影響を受けない。また、冬季にはレンゲソウなどを植えることにより、地力増進をはかり、土が裸になることを防いできた。

 しかし、日本でも現在すでに急傾斜地に作られた畑などでは、徐々に土壌の流失が問題化してきている。急傾斜地では雨のたびに土壌が流されてしまうのだ。

 さらに、近年水田ではなく畑が増えてきたことで事情は変わってきた。こうなると、水田中心だった日本では畑の歴史は浅いことが問題になる。土壌の流失ということにあまり関心が持たれず、話題として表面化していない今の状態こそが、将来大きな危機をもたらす原因になるだろう。

農業が砂漠化を招く

 さらに、世界的に見れば、土壌の流失と並んで砂漠化も進行中だ。

 砂漠化は、土壌中のアルカリ成分が土壌表面に蓄積してpHが上がってくることで耕作不能に陥ったり、また土壌中の有機物を完全に使い尽くしていしまい、畑としての機能を失うなどの形で進んでいる。

 メソポタミア文明の栄えたチグリス・ユーフラテス川流域は、今や完全な砂漠地帯となっている。これは、灌漑の失敗によるもので、土壌の塩類集積による砂漠化である。

 実は、20世紀以降の人口爆発は、開墾による農耕地拡大で支えているところが大きい。つまり、森林や草原が次々と農耕地化している。そのことによって、土壌の流失や砂漠化が進行中なのである。

 この問題はすでに海外では顕在化し強く意識されており、日本以外の国々では海外の農地確保が積極的に行われている。すでに、土壌は石油や鉱物と同じように、確保すべき資源と見なされているのだ。

 日本では、これまで土壌に有機物を還元して土壌を維持するという考え方で土づくりが行われてきたが、先に述べたように急傾斜地などではそれでは到底追いつかない。早急に、もっと別な土壌保全の方法を検討し、実施すべきだ。

 以上は、直接的には農業に携わる人の問題かもしれない。しかし、消費者・需用者として農業生産によって支えられている多くの方々にも、こういった重大な環境問題もあるのだということを知っていていただきたい。

 さて、次回からは、今後の農産物のあり方について書いていく。現在すでに栽培の現場で起こっていて、今後解決していかなければならないはずの問題について説明していく。

 それは大きく分けて、(1)生産、(2)販売・流通、そして(3)食べることの3段階の話となる。消費者にとっては(1)(2)、小売業・外食産業などの需用者にとっては(1)は関係ないことと思われるかもしれないが、食べ物を確保し、それを利用し楽しみ続ける上では、農産物の現実の姿を知り、農業生産の現在の問題と未来のあり方を知っていただく必要があると考えている。

《第35回以降は4月下旬からお送りする予定です。ご期待ください》

アバター画像
About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】