堆肥を使えばよいというものではない

多くの方は、栽培の現場に行って土壌に堆肥を投入しているのを見たり聞いたりすると、「土作りを一生懸命行なっている」と受け取って感心する。“堆肥を使う=よいこと”と手放しで評価する向きも多い。

堆肥を使うと窒素過剰になりやすい

 ところが、堆肥には窒素が大量に含まれているものが多い。有機物が醗酵し、いわゆる堆肥と言われる状態になるためには、窒素成分が必須であり、簡単に言えば窒素成分がある状態を作ってやらないと醗酵しない。だから、堆肥を作るときには窒素成分を含む材料を使う。

 たとえば、堆肥原料としてよく用いられるのに木の葉、稲わら、籾殻などがある。いずれも炭素分の多い土作りに役に立つ材料だが、これらは土の上にそのまま置いておいてもなかなか変化しないものだ。これらは、炭素分を多く含んではいるが、微生物が働いて醗酵を進めるために必要な窒素成分が足りないため、空気中では堆肥化が進まないのである。ところが、これらを土に埋めてみると、地上に置いておくよりも早く変化する。土壌中に窒素分や水分があるためだ。

 実際の堆肥作りはどのように行うのかというと、炭素分を多く含む材料に窒素成分を含む材料を混合して醗酵を進める。窒素成分の多い材料で昔から用いられてきたものは、動物の糞尿である。このとき、木の葉など炭素分の多いものが大量で、窒素分が少ないと、醗酵が進まない。逆に炭素分の多いものが少なく、窒素分が多すぎると醗酵は進むが、糞尿の窒素分が残ることになる。だから、良好な状態の堆肥を作るには炭素分と窒素分の適切な配分が必要になるが、これが意外に難しい。

 日本では畜産が発達し、一方、家畜排せつ物法(1999年施行)で家畜糞尿を適切に管理すべきことが定められたこともあって、家畜糞尿は大量に供給される環境がある。一方、木の葉、稲わら、籾殻など炭素分的な材料の供給環境の方は、増える方向の変化はさほどない。そのため、家畜糞尿を中心とした堆肥作りが行われる場合が多くなっていると言える。この場合、窒素分が過剰な堆肥が出来るケースが増えることになる。

 この結果として何が起こるのかというと、土作りのために投入したはずの堆肥が窒素過剰という困った状態を引き起こすのである。

堆肥でも化学肥料でも正しい使い方が大切

 化学肥料は、その資材が含む炭素成分、窒素成分などの量がわかっている。だから、これを土壌に施すに当たってはどれをどの量使うかという施肥設計が容易であり、その田や畑に必要と想定される2倍も3倍も投入するということはあまりない。ところが、堆肥の場合は窒素量などはその都度調べてみなければわからない。現場を見ていると実際に投入する量も多くなりがちで、化学肥料に比べると桁違いに多い窒素成分を土壌に入れてしまうことが珍しくなく、土壌が窒素過剰に陥ってしまうことになる。

 化学肥料と堆肥とで、窒素投入量はどのぐらい違うことになるものか、一つ例を挙げてみる。

 一口に化学肥料と言ってもいくつか分類がある。まず、窒素、リン酸、カリ(カリウム)などをそれぞれ単一で含むものを単肥と呼ぶ。これらを混合して窒素、リン酸、カリのうち2種類以上を含むものを複合肥料と呼ぶ。また原料の混合や化学的プロセスを経て3要素の2種類以上を含むように製造されたものを化成肥料と呼ぶ。

 化成肥料はさらに、含まれる3要素の合計が30%未満のものを低度化成、30%以上のものを高度化成と呼ぶ。

 さて、高度化成肥料と呼ばれるもので窒素を16%含むものを10a(1反)に3袋(1袋は20kg)散布すると、窒素投入量の合計は9.6kgとなる。

 一方、家畜の糞尿を堆肥化したものは、原材料やプロセスにもよるが、仮に窒素を3%程度含むものがあるとする。これを10aに300kg投入すると9kgの窒素量となり、上述の化成肥料と同レベルの窒素投入量となる。しかし、筆者が見聞する範囲では、この程度の投入量で抑える例は少数派である。日本では10aに2t程度の堆肥を投入する例は珍しくない。もし2t投入すれば60kgの窒素量となり、半分の1tでも30kgとなって、上述の高度化成肥料の投入量の3~6倍の窒素が土壌に入ることになる。

 以上は試算であり、また化学肥料と窒素では土壌中に影響を及ぼすプロセスと時間が異なるので単純な比較はできないのだが、筆者の現場経験ではこのような傾向を見聞しているということを知っていただきたい。とりわけ、堆肥の窒素量を分析をして投入している農家は少なく、堆肥を用いる田畑で窒素過多を認めるケースは非常に多いということは知っておいていただきたい。

 農業の現場をあまり知らない方の多くは、堆肥を醗酵させるための施設(堆肥舎)などを見て、「土作りを一生懸命やっているのだな」と感じるだろうが、“堆肥を使う=よい農業”と考えることも短絡的な考えであり、本来は堆肥を用いるのでも化学肥料を用いるのでも、適切な設計と管理のもとに使用する必要があるのだ。

 さらに、堆肥にはもう一つ注意すべき点がある。

About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】