栽培現場ごとの土の事情(5)水田での水稲(2)

田植えの後に窒素肥料をまく/茨城県
元肥一発タイプが普及する前は追肥を行っていたが、さらにその前には土用干しが有効だった
栽培現場を7つに分類して説明する
(1) 育苗培土(野菜苗を中心に)
(2) 固形培地によるハウス栽培
(3) ハウスでの地床栽培
(4) 露地畑
(5) 水田での水稲
(6) 水田からの転作
(7) 海外での農業

農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明している。水田のメカニズムの2回目。水田の効果は窒素を操ることができるだけでなく、リン酸も有効態となる。

土用干しの狙い

 さて、田植え後のイネの苗は、春の田起こしで出てきた窒素を吸収して順調に初期生育を遂げ、茎の数を増やしていきます(分けつ)。

 そして、分けつが一定以上に進んだころに、今度は水を抜いてしまい、一時的に畑のようにしてしまいます(土用干し)。

 これは何が目的でしょう。

 狙う効果はいろいろありますが、その最も重要なポイントは、土の中の有機物の分解を再び促進して窒素を出すことにありました。イネはこの先穂をはらむためにさらに栄養が必要な段階に入りますから、ここで肥料が必要になるのです。現在では穂肥えと称して施肥しますが、昔肥料のなかった時代、高価だった時代には、こうした工夫が有効だったわけです。

 現在でも土用干しは行い、さらに施肥も行うことは奨励されてはいますが、かなり何もしなくてよい「元肥一発タイプ」というコースで楽をするやり方も一般的です。

還元層が有効態リン酸を作る

田植えの後に窒素肥料をまく/茨城県
元肥一発タイプが普及する前は追肥を行っていたが、さらにその前には土用干しが有効だった

 水田が「人工の土」と言える場面はまだあります。それはリン酸を効かせる技です。

 これまで日本の土はリン酸が効きにくいことが特徴、とくに火山灰土壌はそうであると説明してきました(第20回参照)。しかし、水田ではこの欠点を見事に補うことができるのです。

 どういうことかと言うと、水田がきちんと均平化されていてそこに水が張られると、土壌中の鉄が錆色の酸化鉄(酸化鉄(III)/Fe2O3/酸化第二鉄)から還元鉄(酸化鉄(II)/FeO/酸化第一鉄)に変化します。還元層が灰色になるのはこのためです。

 この現象は、リン酸の有効化に働くのです。第20回で説明したように、鉄と結び付いたリン酸は、その状態では作物が利用できないのですが、鉄が還元されると、リン酸がここから遊離し、イネの根からうまく吸収されるのです。

 このため、水田作のイネにはあまりリン酸を施用しなくても育ってしまうのです。

土を生かす優れた栽培法

 こうした水田のメカニズムは南の方から日本列島に伝えられたのでしょう。そして、この方法が有効であったために、歴史的にも南から北へかなり早いスピードで稲作が普及していったのだと考えられます。

 次回は、水田として使っていた圃場を水稲以外に使う場合の考え方についてお話します。

関祐二
About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。