検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(9)チェーンは安売りをする店とは限らない

渥美式チェーンストア理論では、日用品に特化した品ぞろえを勧め、豪華な物品は扱わないべきとしている。しかし、実際には高級品を扱うチェーンはある。チェーン=安価なものを扱うものという考え方から脱却する必要がある。

「低価格であることこそ価値」という誤り

 価格と商品の戦略についての話を続けます。

 渥美式チェーンストアでは、消費者の日々の生活にかかわる商品に特化し、スノビズムに応えるもの、豪華な物品、ギフト、遊興などの商品・サービスはチェーンストアが扱うべきではないとしています。

 しかし実際には、とくにバブル期以降、多くのチェーンストアが、自社がキーテナントとなっているショッピングセンターにジュエリーや高級婦人服・紳士服などのテナントを入れたり、比較的価格の高い洋品や雑貨を扱う店を子会社化したりして、日用品以外のものも扱っています。

 ただ、残念ながら、各地の店舗を観察してみると、その扱い方は上手ではありません。むしろ、高級品や価格の高い商品の扱い方は下手というよりも、その子会社や売場が持っていたか持つべきコンセプトを理解していないように見受けられます。これは、「低価格であることこそが価値だ」と誤った学習をしてきた結果だと言えるでしょう。

 たとえば、ブランドものの皮革製品や化粧品の売場にベタベタと「プライス・ダウン!」「10%OFF」などのPOPを平気で貼るのです。安売りせずに売れるはずの商品でこういうことをするのは、「安く提供できなければわが社の存在理由はない」といった強迫観念によるものかもしれません。

昔と今で低価格の意味が違う

 私は、そもそも低価格戦略というものに疑問を抱いています。

 確かに、戦後のもののない時代、なにもかもが高かったり適正価格というものが不明だった時代には、低価格であるということ自体が価値となる時期はあったでしょう。

 しかし、その後可処分所得が増えた時代、しかも同じように低価格化を実現した競合が増えた時代に、低価格であることは価値ではなく、珍しくはない当たり前のことになってしまったはずです。そしてバブル崩壊後には、低価格でなければ勝ち目がないという思い込みが一気に強まり、それまで以上の価格競争を始めて、そのまま現在に至っている状況です。

 かつて、生産・製造や流通のしくみ自体を変えることで低価格を実現した後、それよりさらに低価格を実現するために、今の多くのチェーンがやっていることは何でしょうか。「工場を止めるよりはましだろう」と思わせ、「消費者が望んでいることだから」と根拠のないきめぜりふで説得して、仕入先に無理をさせることが横行しているのではないですか。

PB戦略は独自の価値を創っているか?

 また、売れ筋商品をPB(プライベート・ブランド)化することも、渥美式チェーンストアで推奨されていることです。チェーンストアの店頭自体が商品の存在を知らしめる場であるから、PB化によって広告費を削減し、その分のコストを独自の価値を生み出すために使うといった説明をしています。

 しかし、現実に行われていることはどうでしょうか。既存メーカーが開発費をかけて生み出し、少なくない広告費をかけて宣伝に努め、それによって作り上げたヒット商品をピックアップし、他メーカーに類似品を作らせてジェネリック(ブランドのない一般名で売る商品)として販売するということではありませんか。たとえば、江崎グリコの「ポッキー」に似た菓子を作って「チョコがけプレッツェル」などの名称で安く売ることです。これが、そのチェーンが生み出した価値と言えるでしょうか。

「チェーン=安い」と限定する必要はない

 渥美式チェーンストアは、「小売業でもないメーカーでもない、全く新しいビジネス」であると言います。ですが、現実の日本のチェーンストアではこれらのようなことが行われているのです。それというのも、低価格化することばかりを意識してきたからの結果でしょう。

 ところで、スノビズムに応えるもの、豪華な物品、ギフト、遊興などの商品・サービスは、本当にチェーンが扱うべきものではないのでしょうか。

 これまでもお話しているように、たとえば自動車の販売はチェーンです。それも大衆車だけの話ではありません。私が手掛けてきた「ハーレーダビッドソン」の販売網もチェーンです。また、「ルイ・ヴィトン」「ティファニー」などの店舗もチェーンのしくみで運営されています。

 デパ地下に出店している高価なそうざいや菓子を売っている店は、デパートごとに違う店が入っていますか? 多くのデパートに同じ看板が出ているという例はいくらでもあります。それらも、バックにはチェーン・オペレーションがあるのです。

「チェーン=安い」というのは、渥美式チェーンストアでやってきた方々の思い込みです。ないしは、その方々が消費者に思い込ませたものです。

 商業とは、もっと広く、奥が深いのです。目を覚まして、より広く詳しく見聞されてはいかがですか。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/