日本のささげが故郷・中国を思い出させてくれた

ささげと豚肉の炒め物
ささげと豚肉の炒め物(撮影:ちえ)

今年7月の頃、いつものようにスーパーで買い物していたとき、突然、目が丸くなった。中国で「長豆角」と言われる私の好きな野菜が並んでいたからだ。ただし、その売場で書かれている名称は「ささげ」であった。

懐かしい長豆角が日本のスーパーに

ささげ
スーパーで見つけた長豆角には「ささげ」と書かれていた。

 細長いインゲンのような莢豆(さやまめ)で、「ささげ」と書かれたそれは、間違いないかよく見て確かめてみても、やはり「長豆角」だ。日本に来てから長く経つが、今年初めて見つけた。

 早速3束を購入した。その日は、いつもと違って、うれしい買い物ができた。

 スーパーから家に帰って、さっそくインターネットで「ささげ」を調べてみた。「ササゲ」は、日本ではお盆のお供物にも利用されているという。ネーミングの由来にとても興味を持った。「捧げる」と関係しているか確かなことはわからないが、“ご先祖さまに野菜を捧げる”という意味があったのかもしれない。

 地域によって、「十六ささげ」「長ささげ」「三尺ささげ」「ふろう豆」とも呼ばれているようだ。お盆のお供物についてはいくつかの説があるようで、お土産の包みを結わえる紐になぞらえてという説や、薬用に用いられ、依り代(神霊が憑依する媒体)ともされたキササゲという木の実に似ているからという説などを見つけた。

 数日後、同じスーパーに行ったとき、真っ先に野菜コーナーへ向かった。しかし、その日はささげの姿がなかった。店員にちょっと聞いてみたところ、先日ささげを売ったのはこの店では初めてのことだったとのこと。店長は試しに仕入れていたようだ。私はもちろん、「これからも仕入れていただきたい」と、お願いした。

 それからしばらくの間、そのスーパーに行くたびに野菜コーナーを見に行って、ささげがあれば必ず買った。だから、一時は家にささげがたまって毎日食卓に上ることとなり、家内からは「もう厭きた」と言われてしまった(笑)。

 やはり、お盆の時期に出荷が多いのか、8月も半ばを過ぎるとすっかり見かけなくなってしまった。秋になって、そのスーパーに行くたびに寂しさを感じている。

ご飯とビールに合う炒め物

 中国で「長豆角」は普通の野菜の一つとしてよく店頭に並ぶ。料理の種類も多い。その中で最もポピュラーなのは、やはり長豆角と豚肉の炒め物だ。ご飯とビールに合う。

ささげと豚肉の炒め物

ささげと豚肉の炒め物
ささげと豚肉の炒め物(撮影:ちえ)

材料:ささげ(1束)、豚肉(薄切り、50g)、ニンニク、ショウガ、白ネギ、醤油、サラダ油(各少々)

作り方:

(1)ささげは両端を切り捨て、2cmぐらいの長さに刻む。豚肉の薄切りは食べやすい大きさに切っておく。

(2)フライパンを中火にかけ、サラダ油を少し入れてささげを炒める。ちょっと時間をかけて炒め、ささげに少し黄色みが付いて少し焦げたようになったら、いったん取り出す。

(3)再びフライパンにサラダ油を少し入れ、薄切りのにんにく、ショウガ、白ネギを入れて少し炒め、香りが出たら豚肉を入れて強火で炒める。肉に火が通ってきたら、ささげを戻し、塩と醤油を加えて混ぜながら炒める。

【編集部・齋藤訓之より】

 徐さんから「ささげについて書きます」と連絡をもらったとき、私はてっきり豆料理のお話かと思っていましたが、意外や莢豆のお話でした。

 ささげと聞いて私がまず思い浮かべたのは、赤飯に使う小さな豆です。赤飯には小豆も使いますが、ささげ豆のほうが煮崩れしにくいのでよいそうです。

 それで、読者から笑われてしまうと思うのですが、ささげの莢豆のことを私は知りませんでした。調べてみると、十六ささげは中部地域でよく作られ、食べられているらしいとわかりましたが、さらに調べてみると私の故郷の北海道でも生産されていました。まだまだ知らないことがたくさんあります。

 サヤインゲンやスナップエンドウなど、日本ではいろいろな莢豆を料理に使いますが、きっと中国でもさらにたくさんの莢豆があるでしょう。

 莢豆で私が懐かしく思い出すのは若いハナマメです。春になると父が庭に小さな畑を作って植え、細い竹でやぐらを組んでそれに蔓がからむようにしました。やがてそれは緑のトンネルとなって、私はよくそこをくぐったり、獲ってきた虫やカエルを葉陰に隠したりしたものです。

 夏に大振りの薄い莢豆となったものを父と穫ってきて母がゆで、マヨネーズをつけて食べたり、刻んでサラダに加えたりしました。秋には丸々と太った豆を含んだ莢がカラカラに乾きます。父と新聞紙の上で莢を開き、赤い豆と白い豆を集めました。甘く煮て食べたり、来年の種に取っておいたり。今は家族の誰が誰ともわからなくなってしまった年老いた父との、大切な思い出です。

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About 徐航明 24 Articles
立命館大学デザイン科学センター客員研究員 じょ・こうめい Xu Hangming 中国の古都西安市出身。90年代後半来日。東京工業大学大学院卒業。中国や日本などの異文化の比較研究、新興国のイノベーションなどに興味を持ち、関連する執筆活動を行っている。著書に『中華料理進化論』「リバース・イノベーション2.0 世界を牽引する中国企業の『創造力』」(CCCメディアハウス)があり、「中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる『山寨革命』の衝撃」(阿甘著、日経BP社)の翻訳なども行った。E-mail:xandtjp◎yahoo.co.jp(◎を半角アットマークに変換してください)