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テキーラ日本での今日(2)

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読者の方々はバーでテキーラの瓶を見てギョッとしたことはないだろうか――筆者がかねがね持っていたテキーラに関する疑問の一つが、その驚きの種である“ドクロ”だった。

ドクロの秘密

「カー」(KAH)ブランドのテキーラ(手前と右奥のドクロ瓶)

「カー」(KAH)ブランドのテキーラ(手前と右奥のドクロ瓶)

 洋の東西を問わず、キワモノ的な味や容器に凝った酒はあるのだが、テキーラの瓶やポスターにはドクロをモチーフにした物が、キワモノと切って捨てるには数が多すぎるほど存在する。今回、折よくテキーラフェスタの2日前までFOODEX(国際食品見本市)が開催されていたので、メキシコブースで現地の方にドクロがメキシコではどんな意味を持つのかを聞いてみた。

 日本ではネガティブなイメージで捉えられがちなドクロだが、メキシコ人である彼らにとってドクロは不吉なものではなく、むしろ、祖先や親しい友人が“新たな世界”に旅立っていったときに、まだ生きている子供や友人たちに残していった置き土産や形見に近いニュアンスだという。日本で言えば位牌のような位置づけだろうか。

今回のフェスのフライヤーにもドクロがあしらわれていた。

今回のフェスのフライヤーにもドクロがあしらわれていた。

 メキシコでは毎年11月初旬に「死者の日」という盛大な祭りがあるそうで、祭りの際に死者の碑に飾られる「オフレンダ」という祭壇にはコミカルなドクロや骸骨が祀られて夜更けまで賑やかな(おごそかな、ではない)祭りが夜更けまで続く。これをメキシコ人は子供の頃から見ているわけで、彼らにとってドクロも骸骨も身近な存在だという。

 この地域にキリスト教が入ってくる以前の先住民にとって、ドクロは「生まれ変わりの象徴」という神聖な意味さえ持っていた。その後、キリスト教徒が増えてからも「亡くなった友人や親がドクロになって戻ってきてくれる」「そもそも死はあるべきところに帰る素晴らしいものだ」という死生観は根強く残っているという。

カクテル「パローマ」のオリジナルレシピ

 昨今のテキーラバーで強いアルコールが苦手な女性に進められることが多い「パローマ」(スペイン語で「鳩」の意。女性の名前として使われることも多い)カクテルについても、JUASTとFOODEXで聞いてきた。それによれば、メキシコには「スクアート」や「フレスカ」というグレープフルーツ味の炭酸飲料があり、もともとそれらのテキーラ割りの呼び名が「パローマ」だという。

 最初、このカクテルのことをレシピから調べ始めた筆者は回り道をしたおかげでさんざん苦労した。グレープフルーツはホワイトなのかピンクなのか。炭酸はトニックかソーダか、それともそれらを半々か。探せば探すほどレシピがばらけて来て、オリジナルがどんな形だったのかという問いからどんどん遠ざかっていく。しかし、オリジナルが判明すれば話は簡単であった――日本で現地の「パローマ」にいちばんに近いものを飲みたければ「テキーラを『キリン メッツ グレープフルーツ』で割ったもの」ということになる。レシピがさまざまなメーカーやバーテンダーで異なっているのは、それぞれがよりおいしいものやオリジナリティを求めた結果だった。

テキーラにつきもののサングリータ

 最後に、テキーラに欠かせないチェーサー「サングリータ」について書いておこう。

 サングリータは、日本ではまだ一部のテキーラフリークがちょっと自慢げにテキーラと一緒に頼むアイテム、という取り澄ましたポジションからなかなか進んでいない。しかし、メキシコでテキーラをストレートで頼むと、日本の喫茶店でナポリタンにタバスコや粉チーズが当たり前に添えられてくるが如く「サングリータ」が添えられてくるという。ごくごく一般的な物なので、各テキーラメーカーも自社ブランドでサングリータを出している。

 サングリータを知らない読者のために味を伝えたいのだが、筆者はメキシコにもテキーラバーにも行ったことがないので、そこで出されているであろうサングリータも飲んだことがない。筆者が所有していた唯一のテキーラの教本「Classic Tequila」(Ian Wisniewski著1998年)によれば、サングリータはトマトジュースをベースにレモンとオレンジを加えるのが一般的で、その他にローストした生の唐辛子、ウスターソース、タバスコ、ブイヨン、玉ねぎ、塩、蜂蜜を好みで調合して出すとあるので、ブラディーメアリのウォッカ抜きに感覚は近いようだ。

 ちなみに、これをテキーラのグレープフルーツ割りの上から注げば「バンパイヤ」(吸血鬼)というカクテルになるという。どうもメキシコの方々は日本人がギョッとするような存在を面白がる国民性のようだ。

 いささか斜に構えた書き方で4年ぶりに綴ってきたテキーラ・レポートだが、最後くらいは筆者もテキーラらしい乾杯の仕方で本稿を締めくくろう。ものの本に書かれていた、今から20年近く前のメキシコの乾杯方法だ。

サルート!(Salud!=健康と!/1杯目の掛け声)

ディネーロ!(Dinero!=富と!/2杯目)

アモール!(Amor!=恋と!/3杯目)

イ・ティエンポ・パラ・ディスフルタロ・トド!(Y tiempo para disfrutarlo todo!=4杯目。そしてそれら全部を楽しむ時間に!)

(写真提供:JUAST)

テキーラの輸入量は右肩上がりで増加している(資料提供:JUAST、メキシコ大使館商務部)

テキーラの輸入量は右肩上がりで増加している(資料提供:JUAST、メキシコ大使館商務部)

執筆者

石倉一雄
石倉一雄
Absinthe 研究/洋酒ライター いしくら・かずお 1961年北海道生まれ。周囲の誰も興味を持たないものを丹念に調べる楽しさに魅入られ、学生時代はロシアの文物にのめり込む。その後、幻に包まれた戦前の洋酒文化の調査に没頭し、大正、明治、さらに江戸時代と史料をあたり、行動は図書館にバーにと神出鬼没。これまでにダイナースクラブ会員誌「Signature」、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)に誰も知らない洋酒の話を連載。研究は幻の酒アブサン(Absinthe)にも及び、「日経MJ」に寄稿したほか、J-WAVE、FM静岡にも出演。こよなく愛する酒は「Moskovskaya」。