窒素過剰は堆肥・化学肥料共通の問題

先にも説明したように、堆肥というものは一様ではない。材料も、醗酵の程度もさまざまである。そこで注意すべきは、未醗酵すなわち未熟な堆肥が完熟堆肥と同じように扱われている現場が非常に多いという点だ。未熟な堆肥は窒素量も多い上に、即効的に窒素が効くので、窒素過多による障害も起こりやすい。

未熟堆肥には衛生上の問題もある

「未熟な堆肥」という言葉が曲者である。果実などであれば未熟なものにもそれなりの使い途というものはあるが、「未熟な堆肥」は危険をはらんでいる。と言うのは、家畜糞尿を含む堆肥の場合、それが未熟であるということはそのまま残っている糞尿が含まれるという意味だ。これには衛生上の問題があり、安全か否かと言う観点から考えるとまっさきに安全から遠い物質になる。たとえ土壌の維持のための堆肥だとしても、本来許されるべきものではない。

 そして、窒素が多すぎると生育障害の原因にもなるなど栽培上も問題が多い。

 化学肥料場合、その資材に含まれる窒素の量が記載してあり、基本的な施肥量も決まっているために、過剰に投入する人は少ないが、堆肥に関しては、その窒素量に注意する人は少なく、「土づくりのために」という気持ちで大量の堆肥の投入が行われているケースが多いのが現実である。

 以上が、化学肥料だけが窒素過多の原因ではないということ、むしろ堆肥を用いる場合のほうが窒素過多に陥りやすいと指摘する理由である。

 もちろん、化学肥料でも大量に使用すれば当然窒素過剰の問題は起こるが、窒素過剰や病害虫の発生が化学肥料を使うことが原因のように考えるのは全くの間違いだということだ。化学肥料にしても堆肥にしても、適正なものを適正な時期に適正な方法で投入しなければ、問題は起こる。

 なお、この問題については、農業ビジネス誌「農業経営者」(農業技術通信社)で筆者が執筆している「科学する農業」という連載の2011年10月号および11月号の回で、筆者が畑で計測したデータとともに詳しく書いているので、興味のある方はご覧いただきたい。

化学肥料使用で品質が悪くなることはない

 次に、第13回で掲げた化学肥料に関する誤解等のうち、「化学肥料を使用すると栄養価が低く、まずいものが出来る」「化学肥料を使用した野菜は腐りやすい」「化学肥料を使用しなくても農産物は育つ」の3つについて考えたい。

 化学肥料を“過剰に”使用すれば、「栄養価が低いものが出来る」「まずいものが出来る」「腐りやすいものが出来る」ということは起きる。しかし、適正な使用量であれば、化学肥料を使ったからと言って問題が起きることはない。逆に、天然物由来の各種資材や堆肥を使っても、それらを過剰に使用すれば同様の問題が起きる。よって、「化学肥料を使用すると……」と考えるべき問題ではない。完全なる誤解である。

化学肥料・農薬はもっと減らせる

 一方、「化学肥料を使用しなくても農産物は育つ」というのは正しい。もちろん、全く養分がない土壌では無理だが、日本にはかなり条件がよい土壌があるので、品種を選んで適切な管理を行えば、肥料など使用しなくても栽培することは不可能なことではない。

 では、なぜ使用するのか?

 第一は、商品としての農産物は、収穫のタイミングと適切な大きさ・形状が問題になるということである。農産物を出荷しようとする場合、「予定していた半分は出来た」では経営が成り立たない。あるいは、「天気次第では出来る」でも成り立たない。畑で穫れたものをどれだけ予定どおりの量を出荷できるのかが勝負であり、また小さすぎてはダメだし、形が悪くてもダメである。それに対して、ここと定めた収穫時期を狙って良好な大きさ・形のものを得るために、化学肥料を使用するという手段を用いることができる。

 第二に、品種の問題がある。昨今の品種は、比較的窒素量を必要とする品種が多く、そういった品種では窒素量が足りないと出荷できるような状態になってくれないのである。

 だが、実際には日本での栽培で施肥量が過剰になっているのは事実だ。前回までに、化学肥料を2倍も3倍も投入することはないと書いたが、これは一般に基準とされている量に対しての話である。やり方によっては、現在使用している半分、場合によっては、1/4程度、ハウス栽培ではさらに少ない施肥量でも栽培することは可能だ。では、何故、過剰施肥になってしまうのだろうか。実は「足りないと育たないのではないか」といった心配、あるいは単なる習慣など、心情的・あいまいな理由から、過剰な施肥が行われているといっていい。

 この部分は筆者が取り組んでいるかなり革新的な栽培にかかわる話で、需用者・消費者の方が現在の一般的な農業を知る上では話が複雑になって混乱するのでこれ以上詳しくは触れないが、化学肥料や農薬の使用量が多すぎるのは間違いのない事実である。今後、栽培方法を向上させて過剰な投入を止める必要はあるだろう。

 それでも、これは安全性に関することというよりも、より効率的で持続可能な農業技術を発展させていくための話である。現在、化学肥料や農薬を使っているために食べて有害なものが作られているといったことはないと考えていただいて差し支えない。

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About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】