土の中の生物

とらえどころのない土の正体をつかむため、土が造岩鉱物、生物、腐植、粘土鉱物の4つの要素の混合物だと指摘し、それぞれの解説をしてきました。今回は、土の中の生物についてお話しますが、これまでにもまして、一握の土くれの中に実に奇っ怪な世界があるとわかることでしょう。

1m×1m×0.15mに10兆頭?

 土について語る人は多く、その視点もさまざまです。土の種類や状態がさまざまである上に、解説もさまざまなため、土は余計にわかりにくいものになっています。とりわけ、土の中の生物にまつわる話は複雑です。というのも、この生物たちが土の化学的性質や物理的性質と複雑に関係し合っているため、本音を言えば、これの整理を付けるのはほとんどお手上げ状態です。

 ですから、土の中の生物をみなさんにどのように紹介しようか迷うところですが、とにかく一般論を示してみます。

 まず、どのくらいの数の生物が土の中に生活しているかです。微生物や小さな生物は肉眼では見えないので、「○○頭います」と言ってもあまりピンとこないのですが、とりあえずは数字にしてみましょう。

 森林に足を運び、1m四方の範囲で深さ15cmの土を掘り取ったと考えてください。この中に、大きさにして2cmぐらいの動物、たとえばミミズ、ムカデなどですが、そういうものは約300頭程度はいます。

 これより小さな2cmより小さな動物は、トビムシやダニのようなもの、センチュウ(回虫などもセンチュウの仲間です)、イトミミズなどです。これらは小さいので、ルーペを用いて観察、カウントすることを余儀なくされますが、その数は200万頭程度という大きな数値になります。

 1m四方、深さ15cmの中にそれだけの数の個体がいるというのは、すでに私たちには理解できない、不思議な世界にほかなりません。しかし、これで驚いていてはいけません。

 光学顕微鏡を用いることでしかわからない生物、つまりアメーバなどの原始的動物やカビ、バクテリアなどとなると、実に10兆頭ほどということです。もう、これは何なのだろうという話です。

 こうした目に見えない、しかもおびただしい数の生物が、私たちの食べる野菜やコメ、果樹などと深くかかわっているという話は、怪しくなっても当然だと思います。

 とくに野菜類では、有名な産地が「連作障害」に陥ってその名声が失われていくという現象をたびたび起こしていますが、その原因の多くが土の中の生き物、それも微細な大きさの種類の生物によるのです。ですから、連作をすると土の中で何が起きて、どんな生物がどんなことをしでかして、どのようしてある種の野菜が作れなくなるのかを知らなければならないのです。

同じものばかり植えると何が起こるか

 土の生き物をもう少し身近に感じられるように考えてみましょう。

 まず東京23区内にある畑と長野や群馬にある有名レタス、キャベツ産地の土を頭の中でシュミレーションしてみます。

 東京都には現在も700haを超える農地があるということをご存知ですか? 実は東京は相当な野菜を自給しているのです。

 その東京23区内にある畑は、都会の住宅街にあることから一つひとつの面積は小さいわけですが、どんな野菜の種を播いてもすぐに買い手がつくという経営上のメリットがあります。また、いろいろな種類の野菜がほしいと、周りの人たちからリクエストされます。

 そのため、東京23区内の畑は、いつも何種類もの野菜によってうめ尽くされている状態となります。

 一方、有名な野菜産地ではどうでしょうか?

 たとえば群馬県嬬恋村の大規模な農場では、毎年キャベツだけが作付されます。そうすると、そこではキャベツの根からいつもだいたい決まった特定の物質ばかりが分泌されることになります。これは植物の排泄物、つまりウンチやオシッコと考えてください。

 このキャベツの排泄物には、これを好む特定の土壌微生物が集まり、そこで繁殖します。

 また同様に、キャベツばかり作っている畑では、同じキャベツが同じ栄養素を、いつもそこの土壌から奪い去っていくことになります。

 連作を行うと、こうして土の中は単純化していきます。すると、土の中の生物の種類も、どんどん単純になっていくであろうことが、容易に推測されます。

 さて、そのように同じ生物ばかり多くなって単純化した土壌では、何が起きるのかということです。

 生物界には、「ある特定のものを増やさない」というルールがあります。しかし、いつもキャベツばかり作る畑というものは、このルールに抗おうという企てですから、続けているとそれに対するブレーキがかかることになります。

 つまり、キャベツばかり作っている畑では、ある特定の種類の生物ばかりがはびこることになり、やがて彼らは彼らの餌や住む場所の奪い合いを起こします。とくに餌の奪い合いは激しくなりますが、その餌というのが、この場合、キャベツだということです。

 これとは逆に、東京23区の畑では、数週間~数カ月置きにいつも異なる野菜が作付けされるので、それぞれの野菜から排泄される分泌物も異なります。その異なる分泌物には、異なる土壌微生物が群がるので、土の中の生物の種類がある種類に偏ることはありません。

 これは大変重要なことです。いろいろな作物を作っている土壌では、カビの仲間やバクテリアの仲間が増えるにしても、その種類はさまざまになります。ということは、土壌病害という厄介な現象を起こす土壌病原菌も、ある程度の密度以上には増えることができなくなるということです。

 作物には、こうした連作が続けにくいタイプと、続けても割とOKというものがありますが、それは根から排泄する分泌物の種類や量、根から吸収する栄養素の種類や量がどのようかという特性などによると考えられます。

 たとえば、連作を嫌うものとしてナス科の野菜が挙げられますが、その反対はネギのようなものでしょうか。この違いはやはり排泄物と土から奪い去る特定栄養素になるのかもしれません。

“怪しい分野”から抜けられない土壌微生物

 さて、土壌学という分野の最大の欠点は、この土壌微生物の解明がなされていないことです。これは専門に携わっている私たちもおわびしなければなりません。

 医学分野に対しては、パスツールやコッホが活躍するなど、微生物の研究は近代的な学問として飛躍し、人々の生活や生命を守りました。

 しかし農業分野では、残念ながら土壌微生物の話は“怪しい分野”の域を全く出ることができていません。

 確かに土は複雑で、とくに土壌微生物は複雑さが顕著であると言われますが、それだけではなく研究機関の姿勢にもあるのではと思います。なにぶん、農業界では研究しても金銭的にはむくわれないことが多いという構造があることが、第一の問題でしょう。

 土の中の生物については、また別の角度からお話をさせていただく機会を持ちましょう。

About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。