我々農家のあり方が問われている

5月の北海道長沼町付近上空
5月の北海道長沼町付近上空。この景観が成り立つ背景を広く国民が理解しているわけではない
5月の北海道長沼町付近上空
5月の北海道長沼町付近上空。この景観が成り立つ背景を広く国民が理解しているわけではない

TPP参加となっても、日米それぞれでの売り渡し価格がさほど変わらない小麦・大豆生産ではあまり状況は変わらないだろう。とは言えその背景には交付金収入がある。それを他の品目にも拡大していくのは、国の予算上難しい。求められるのは、我々農業という産業の形の変化に違いない。

開放するだけなら壊滅と言われるが

 実を言うと私はTPPにはそれほど関心がない。と言うのは、オーストラリア、ニュージーランドとの貿易が今後飛躍的に伸びるはずもないし、彼らラッキーな戦勝国から貿易以外の何を学べと言うのかと思っているからだ。

 私が強く望むのは米国とのFTAだけである。その辺のことは機会があるときにまたお話する。

 確かに、TPPなどの貿易自由化では、砂糖関連、畜産製品、酪農製品が関税なしに日本にやって来て、日本政府が何の手を打たなければ、それらの産業は壊滅的な被害になるだろう。

 国内の彼らが今までに成し得て来たものを「はいご苦労さま」の言葉で裏切るつもりはないのだが、同じ農業でありながら、価格そのものに関しては私の農場の自由化はすでに始まっていると言ってもおかしくはない。

小麦・大豆売り渡し価格は米国産とさほど変わらない

 実は、私が栽培して販売する大豆、小麦のそのものの価格は、海外から日本に到着した時の価格とそれほど大きな差がないのが実態である。それどころか、計算方法によっては輸入価格以下になる。

 この大豆、小麦の価格は、建前上政府が直接関与しない入札制度になっているので、どこかの誰かから価格に関して、文句を言われる筋合いのものではない。ただその前提には、認定農家であること、播種前契約を結んだ場合のみ交付金対象となるなどの、基本的な政府関与の枠組みがあるのは事実である。

 小麦の販売価格はおよそ1470円/60kgで、ここから運賃、選別料、拠出金などの1000円程度が差し引かれると、手元に残るのは500円/60kgになる。ただしこの計算には乾燥コスト500円/60kgや償却費等は含まれていない。つまり、現在10%程度の麦の自給率を上げるために、タダの麦を作っていることにもなるが、交付金制度等で収入は安定しているとも言える。

 ちなみに現在の輸入麦の政府売り渡し価格はおよそ3400円/60kgとなる。そして現在米国の生産者が受け取る基準であるシカゴ小麦価格は1100円/60kgとなっている。

 では大豆はどうなっているのか。

 平成22年産の北海道納豆用ユキシズカ2等大豆の概算払いは2700円/60kgで、1年後の本年末の予定最終精算額を足しても7000円/60kgを超えることはないだろう。ちなみにシカゴの搾油用大豆は$12/27kg≒2060円/60kgが米国の大豆生産者のポケットに入る。

 この価格をベースに輸入商社は食用大豆用にプレミアムを彼らに支払い、その後日本に輸入されて、スーパーでは糖質が国産並みに高い、食用大豆ビントン種等からできたおいしい豆腐などが陳列棚を飾ることになる。これらの米国食用大豆は日本着で5000円/60kgの価格を下回るものは存在しないだろう。

 つまり、大豆も小麦と同じように米国産のそれらと極端に違いがあるわけではない。

それが可能なのは交付金があるからだが

 その後、小麦、大豆には交付金が積み重なり90万円~100万円/ha前後が農業収入となる。私の経営の場合、この交付金の割合は収入の60%になる場合もある。

 さあここまで書けば、「なんだー交付金たくさんもらっているじゃないか」と言う話になるのだろう。

 今後、砂糖関連品、酪農製品、牛肉などが関税なしで日本にやってきた場合、私のように交付金の積み上げがないと現実には彼らの経営は困難であることは容易に推測することができる。いま農業界の巷でささやかれているところでは、そうした農業所得を維持するためには、2~4兆円の直接補償が必要であろうと言われている。“必要”と言うのは、現在の農業のシステムを変えないで収入を考えた場合ということにでもなるのだろう。建前、借金大国日本で、3兆円にも満たない農林水産予算で、今後本当に4兆円もの予算を農林水産省が増加するとは考えられない。ではどうするのか?

 経済学の基本である、印刷機のスピードを上げ、金をばらまいてインフレを起こし貨幣価値を下げるのか? 農水予算の多少の増加はあるのだろうが、現在の2倍にはならないし、現在の農水予算の内、生産者に直接関係する真水部分は1兆円にも満たないと言われている。では交付金は将来、減るのか?

「さぁ~どうなのでしょう」と答えるしかない。

 日本が今以上に貧しくなれば減少し、東京の住人が“豊かになった”と感じれば増加の可能性はある。

 よくも悪くも日本の財政次第である。

国民の税金の使い方を生産者が問われる

 この辺のことは、いち農家の私が説明することではないが、多少の未来を見ることはできる。

 まず実施しなければならないことは、生産者の頭数のの削減である。農水では5年程度で現在の一人当たり2ha以下の経営面積を20から30ha規模にすることを考えているようだ。ざっくり言って、現在の200万とも300万とも言われる兼業、専業農家の数を1/10の20万人程度の専業農家に集約すると言うことだ。

 その時点で、農水の予算が現在と同じであれば、面積当たりの予算は変わらなくても、一生産農場当たりの予算配分は莫大に増加する。

 さて、このこと自体と農業の繁栄は関係するのだろうか。

 だろうかではなく、劇的に変化することは容易に推測することができる。

 話はあっち、こっちに飛んでしまったが、限られた農業予算で最大限の効果を今まで以上に示さなければ、国民の税金の使い方を我々生産者が問われるのは当然である。

宮井能雅
About 宮井能雅 22 Articles
西南農場有限会社 代表取締役 みやい・よしまさ 1958年北海道長沼町生まれ。大学を1カ月で中退後、新規就農に近い形で農業を始め、現在、麦作、大豆作で110ha近くを経営。遺伝子組換え大豆の栽培・販売を明らかにしたことで、反対派の批判の対象になっている。FoodScience(日経BP社)では「北海道よもやま話」を連載。