物流改善は需要サイドからの要望と力で

進まなかった酒類の陸上輸送の改善

これまで指摘してきた撹拌ダメージはワイン業界内の改革であらかたの改善が可能であるのだが、温度ダメージと過剰酸素流入ダメージを回避するには、国内運輸業界が適切な輸送温度帯を新設することと、ワインに対する誤った“常識”を見直すなどの意識改革改善を待たなければならない。

 1986年にワインのリーファー輸送提言を公開して海上輸送の改善を働きかけて以来、ワイン業界からの反発はあったものの、フランス産の良品など従来国内では入手困難だったものが扱えるようになった。しかし、国内陸上輸送については、一部の先進的物流企業を除いて海上輸送改革と歩調を合わせた改革が行われなかったことは残念と言うほかない。陸上輸送では、適切な温度を保つこと、荷に与える振動を抑えることなど、取り組むべき課題は未だ山積しているのである。

 だが、ワインやその他酒類の輸送法改革の停滞は単に業界の怠慢とも言えないだろう。それを阻んだ最大の要因は何であるのかをしっかりと認識し、肝に銘じてほしい。はっきり言うが、それは荷主が要望しなっかったからである。

ワインに不適切なクール便=10℃以下が使われる理由

 それが最も顕著に表れているのは、輸送時の温度だ。第23回で述べたように、筆者は酒類の貯蔵温度として18℃を推奨している。この案を理解しないまででも、15℃を採るワイン業者はもはや主流と言っていい。であるにもかかわらず、インターネット通販など宅配便で送られるワインの多くがクール便を使っている。

 宅配便のクール便とは、冷凍ではない冷蔵の場合「10℃以下」というのが普通だ。この温度はワインの貯蔵温度として、第一に低すぎるし、また下限が明示・保証されずあまりにもアバウトすぎる。

 それでもワインにクール便が使われ、15℃なり18℃なりでの輸送が顧慮されないのはなぜか。それは荷主がクール便を要望し指定するからだ。ほかならぬワイン業界が、クール便の温度帯(“帯”と言うには幅がありすぎるのだが)をワインの輸送管理上適温であるかのように装ってしまったから、運輸業界もそれ以上のことは考えずにきてしまった。荷主が「これでいいのだ!」と言っているものを、受注する運送業者が「ちょっと違うんでないの?」とは言えないのである。

 クール便を使って商いを拡大しているワイン業界人に猛省を促したい。今とりあえず売れても、それはやがてワインというものへの嗜好を鈍らせ、信頼を傷つけ、このジャンルの価値を損なっていくだろう。

 もちろん反省だけで終わってほしくはない。実際に有効な改善へ動き出してほしいものである。

 先ずは、ワイン業界全体として、いや消費者までも巻き込んで、「クール便利用放棄運動」を起こして既存のクール便の温度帯=10℃以下の採用を廃止し、18℃ないし15℃の新温度帯への対応を宅配業者に迫るべきだ。ワイン配送のための「新温度帯新設要望の署名活動」を始めてはどうか。

ワイン小売に携わる方への7つの提案

 また、全国のワインショップやチェーンストア酒類売り場担当者に提案したいことがある。

 まず、ワインの仕入れに際しては、前回紹介したたとえ話の狙いを理解し、実践していただきたい。そして、「クール便利用放棄運動」と「新温度帯新設要望の署名活動」にも加わっていただきたい。

 その上でさらに、ワイン品質の向上に寄与し、しかもあなたの店の独自性と価値を高める活動にも取り組んでいただきたい。それはすなわち、売場で行う以下の各項だ。

(1)顧客が不必要にワイン・ボトルを動かすことのないように、そのお願いを表示する。お客の気分を害すことなく、むしろ感心させるような伝え方は、小売業のセンス発揮のしどころだ。

(2)表示だけでなく、物理的な防止策を採る。つまり、お客がワイン・ボトルを手に取る理由の大半は、バック・ステッカーに記載されている情報の確認のためであるから、そのステッカーを拡大コピーして商品解説やプライス・カードと共にボトル脇に表示する。

(3)仕入れ時の荷姿が、縦箱正立輸送であったか否かを明記する。たとえば、「このワインは縦箱正立輸送で仕入れました」とのPOPを添えるだけでお客は大いに興味を引かれ、その意味を知ろうとするだろう。「このワインはリーファー・コンテナで運ばれました」というステッカーが、お客にどのような影響を与えたかも振り返っていただきたい。

(4)商品解説文に、実質含有アルコール度数を明記する。

(5)商品解説文に、ボトルに使用されている栓の種類を明記する。

 栓の種類の確認には、きた産業のWebサイトを参考とすることをお勧めする。これは酒類業界人必見の優れた説明である

「ワイン栓の選択肢、スクリューキャップ?合成コルク?天然コルク系?」

「続・ワイン栓の選択肢」

(6)箱詰めやラッピングに際しても、不必要にこねくり回さない方法を考案、採用、トレーニングする。

(7)お客に、ワインの正しい取り扱い法の啓蒙を行い、「クール便利用放棄運動」と「新温度帯新設要望の署名活動」への賛同署名をお願いする。

大久保順朗
About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。