無機ヒ素ばく露に厳しい判断

No.23(2025.11.12)

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国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議は、ヒ素化合物の安全性評価等に関して議論し、評価を更新した。フランス当局は、PFASに関する測定データを大規模に収集し解析した。

注目記事

【FAO】JECFA第101回会合の概要報告書

 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)の第101回会合が、2025年10月15〜21日にジュネーブで開催された。本会合では食品に含まれる無機ヒ素および有機ヒ素化合物の安全性評価、並びにJECFAによる評価に関連した全般的な検討事項(General considerations)として食品の安全性評価における新しいアプローチ方法論(NAMs)の役割および複合毒性関する議論が行われた。

 JECFAは、無機ヒ素については、虚血性心疾患との関連性に関するヒト研究の用量反応評価から出発点(point of departure: POD)としてベンチマークドーズの信頼下限値であるBMDL0.50.3μg/kg体重/日を導出した。食事ばく露量を推定した結果、飲料水における汚染濃度が低いと予想される地域であっても、無機ヒ素の平均的な食事ばく露量の上限値が子供および成人ともにPODを超えており、健康上の懸念が生じる可能性があると結論された。

 一方、有機ヒ素であるジメチルアルシン酸(DMA(V))については雌ラットにおける糸球体腎症をエンドポイントに健康影響に基づく指標値(HBGV)を6μg/kg体重/日と導出し、モノメチルアルソン酸(MMA(V))については雄ラットでの糸球体腎症に基づくHBGVを5μg/kg体重/日と導出した。食事ばく露量を推定した結果、DMA(V)とMMA(V)ともにヒトの健康に対する懸念となる可能性は低いと結論された。また、その他の低分子および複雑な有機ヒ素化合物に関する関連データは限定的であり、リスク特性評価を実施することはできないと判断した。

※ポイント:JECFAによる無機ヒ素に関する前回評価(第72回:2010年)では、ヒトの肺がんに基づきBMDL0.53.0μg/kg体重/日を導出していました。それに比べると、今回の評価では、肺がんについてはBMDL0.1であるものの1μg/kg体重/日とより低い数値に、虚血性心疾患に基づき導出されたBMDL0.5は0.3μg/kg体重/日と1桁低い数値となりました。そのため、食事を介したばく露により推定される「ばく露マージン」の幅はより小さくなり、リスクは大きくなるという厳しい結果となりました。無機ヒ素の主要ばく露源の一つである海藻の摂取による影響の評価結果を示している点もポイントです。

【ANSES】PFASのモニタリング範囲拡大

 フランス食品・環境・労働衛生安全庁(ANSES)が、パーおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)に関する測定データを大規模に収集し解析した。対象は、飲料水、環境水、堆積物、生物相(特定の生態系の全ての生物)、食品、空気、室内外の塵、土壌などの様々なコンパートメント、およびヒトの生物学的マトリクス(血液、尿、母乳など)や消費者製品(化粧品、繊維など)である。その結果をもとに、今後のPFASモニタリング計画として「継続的」「不定期」「局所的」な戦略を提案している。

※ポイント:フランスでは、EUでのPFAS規制の可能性を見据えて、2026年1月1日よりPFASを含む化粧品、スキーワックス製品、衣類、履物、およびそれらの防水剤の製造、輸入、輸出、販売を法律で禁止する予定です。本報告は、その施行やEU規制の準備として、モニタリング計画を最適化するために実施されたようです。その他、食品については、現在進行中のトータルダイエットスタディの第3版で約20種のPFASを対象にしており、その結果を2026年に発表する予定としています。

(注目記事のまとめ:安全情報部第三室)

目次

【WHO】

1. 出版物

【FAO】

1. JECFA第101回会合の概要報告書

2. FAO統計年鑑2025は、食の多様性に関する新たな指標を強調

3. 食品安全のためのAI:FAO出版物は現実世界での適用と規制上の考慮点を強調する

4. グルテンを含む穀類の参照用量を設定するための専門家会議

5. FAO/WHOの食物アレルゲンに関するワークショップ、中国・南寧で開催

6. ウェビナー「Beyond the horizon:よりスマートな準備と予測のための食品安全フォーサイト」-2025年12月2日

7. Codex

【EC】

1. 食品及び飼料に関する緊急警告システム(RASFF)

【ECDC】

1. ワンヘルス。ワンプラネット。我々の責任。

行動の時:EUの機関横断ワンヘルスタスクフォース及び欧州・中央アジア4者機関のワンヘルスに関する共同声明

【EFSA】

1. 食品に含まれる農薬を詳しく見る

2. 意見募集― EFSA Journalのアンケートに回答しよう!

3. 遺伝子組換え関連

【FSA】

1. 食品と環境中の放射能(RIFE)報告書2024

2. FSAはイングランド、ウェールズ、北アイルランド向けの食品法の実施規範と実施ガイドラインの改訂版を公表する

3. テイストトライアルガイダンス

4. 消費者調査(2025年7月〜2025年9月)

5. 新たな研究により、人気のトレイベイクには成人の1日摂取量を超える糖類が含まれていることが明らかになった

【FSS】

1. ビスフェノールAに関する意見募集

【DEFRA】

1. 食品中の残留農薬:2025年第1四半期のモニタリング結果

【FSAI】

1. FSAI、食品安全文化に関するガイダンスノートを公表

2. リコール情報

【RIVM】

1. 循環型食品システムにおいて食品残渣を再利用する際の食品安全

【ANSES】

1. PFASのモニタリング範囲拡大

【FDA】

1. FDAは未承認のフッ化物含有製剤から子供たちを守る措置を講じる

2. FDAが有毒なキバナキョウチクトウで代用された特定のサプリメントについて警告する

3. 公示

4. リコール情報

【EPA】

1. EPA、Toxics Release InventoryにPFAS1種を追加登録

【CFIA】

1. カナダ食品検査庁は官僚主義的手続きを簡素化し、カナダの農業分野を支援するための7つの措置を発表した

2. 植物性加工食品に関する行動計画の発表に関するカナダ食品検査庁長官の声明

【MPI】

1. 小麦、大麦、オート麦のグリホサート残留基準値は0.1mg/kgに据え置き、許可される使用方法に制限を設ける

2. Taranaki Coastの貝類バイオトキシン警告

3. リコール情報

【香港政府ニュース】

1. 違反情報

【MFDS】

1. 日本産輸入食品の放射能検査の結果

2. 「子供の身長が伸びる」不当広告・違法販売、食品・医薬品のオンライン集中点検、219件摘発

3. 食薬処、大学修学能力試験対策食品・医薬品のオンライン不当広告・違法流通特別点検を実施

4. 多消費養殖水産物の収去検査を強化

5. 食薬処、フードQRの消費期限適用拡大政策説明会を開催

【SFA】

1. 食品に使用が認められていない物質が混入した食品2点が発見された

別添

【EC】査察報告書

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(化学物質)No.23(2025.11.12)
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2025/foodinfo202523c.pdf
食品安全情報(化学物質)No.23(2025.11.12)別添
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2025/foodinfo202523ca.pdf