ビフのモデルはトランプか?

今回は先日第45代アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏にちなんで、彼がモデルと言われる「バック・トゥ・ザ・フューチャー」トリロジー(3部作)に登場する悪役ビフ・タネン(トーマス・F・ウィルソン)とトランプ氏の類似と相違を、シリーズを通して見ていきたい。

実現した未来、そうでない未来

 一昨年の2015年10月21日は、シリーズ2作目「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」(1989)で主人公のマーティ(マイケル・J・フォックス)と恋人のジェニファー、タイムマシンの発明者であるドク(クリストファー・ロイド)が、タイムマシンを搭載した車、デロリアンで1985年10月26日からタイムスリップした30年後の未来にあたるメモリアルデー。それにちなんでファンの間では映画の中で描かれた未来がどこまで実現したかの話題で盛り上がった。その代表的な例は以下のようなものである。

 本シリーズについてのドキュメンタリー「バック・イン・タイム」では、この辺の検証をより詳しくやっている。そちらもご参照いただきたい。

実現・実用化して普及しているもの
若返り整形
顔認識システム
体感型ゲーム機
タブレット端末
指紋認証セキュリティーシステム
壁掛けのマルチチャンネル式大型テレビ
音声認識システム
スマートグラス(ウェアラブル端末)
TV電話
実現・実用化して普及していないもの/カッコ内は試作段階のものや映画関連の限定商品等。
空飛ぶ車(AeroMobilの試作機
秒単位の天気予報
自動靴ヒモ(Nikeが2015年にBTTF Part2記念のモデルを限定発売
自動でサイズを調整し、濡れたら乾燥する上着(ANREALAGEの2014春夏コレクション“Size”
弁護士制度廃止によるスピード裁判
ホログラム映像の3D映画「ジョーズ19」(Universalが2015年にBTTF Part2記念のフェイク予告編を配信
パワード・スーツ(CYBERDYNEのHAL
ホバー・ボード(Lexusの試作機
犬散歩用ドローン(Drone takes dog for a walk
シカゴ・カブスがワールドシリーズ制覇(1年後の2016年に実現)
アメリカ女性大統領
タイムスリップした2015年のレトロ喫茶「カフェ80's」でマーティが注文した「ペプシ・パーフェクト」。ペプシのロゴのデザインが変更されている。
タイムスリップした2015年のレトロ喫茶「カフェ80’s」でマーティが注文した「ペプシ・パーフェクト」。ペプシのロゴのデザインが変更されている。

 また「スクリーンの餐」的視点としては飲食物が気になるところ。マーティが年老いたビフと再会し、ビフの不良の孫グリフ(トーマス・F・ウィルソン の2役)と自分の息子マーティ・Jr.(マイケル・J・フォックスの2役)と出会う1980年代風のレトロ喫茶「カフェ80’s」では、ブラウン管テレビに映し出されたマイケル・ジャクソンのそっくりさんが、アボガド、ホット・サルサ、チキン、ビーンズにビーフもたつぷり入ったメキシコ風のトルティーヤを勧めている。また、レーガン大統領のそっくりさんがホメイニ師のそっくりさんと口論しながらマーティに勧めるのは「ホット・スシ」。どんなものか気になるところだが、実は彼らは音声入力で注文をとる機械で、結局マーティが注文したのはこの時代のコーラの架空ブランドである「ペプシ・パーフェクト」であった。

 マーティはコーラ好きで、シリーズ1作目「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)では「ダイエット・ペプシ・フリー」とコカ・コーラ社が当時発売していた「タブ」という透明コーラがお気に入りだった。初めてのタイムトラベルとなる1955年11月5日に訪れたダイナー風の「ルーのカフェ」でも「タブ」と「ペプシ・フリー」を注文するが、当時はこれらのブランドは発売されていなかったので、店主のルーに「勘定書(タブ)は注文の後」、「タダ(フリー)の飲み物はないよ」と言われてしまい、結局は砂糖抜きのコーヒーを注文。ちなみにマーティ・Jr.が注文したのも「ペプシ・パーフェクト」だった。

 一方、マーティとジェニファーが結婚し子供たち(マーティ・Jr.と妹のマーリーン〈マイケル・J・フォックスの3役〉)と暮らす家では、すっかりお婆ちゃんになったマーティの母ロレーン(リー・トンプソン)が腰痛治療器で逆さ吊りになった夫ジョージと共に登場。お土産に持って来たハンバーガーサイズほどの冷凍ピザを、音声認識装置付きの電子レンジで解凍すると、たちどころにLサイズに拡大するフリーズドライ・ピザは是非実現させて欲しいところである。また音声認識でデザートのフルーツが上下する食卓もあったら便利かなと思う。

 偶然の一致だと思うが、2015年のマーティが高校時代以来の悪友ニードルズ(フリー)にTV電話でそそのかされて行った不正行為が傍受され、日本人上司のフジツウ・イトウから送られてくる“You’re Fired.”(お前はクビだ)というファクシミリは、トランプ氏を一躍有名にしたリアリティ番組「アプレンティス」で彼が発する決めゼリフと同じである。

運と商才の差

「トランプ」(ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー 著、野中香方子、池村千秋、鈴木恵、土方奈美、森嶋マリ 訳、文藝春秋)

 2015年のシーンに登場する老ビフは、1作目で過去にタイムスリップしたマーティが変えてしまった歴史を反映して、孫のグリフにまでカーワックスの2度塗りをやらされるような情けない余生を過ごしていたが、マーティ・Jr.を救うためにデロリアンのタイムマシンでやってきたマーティらを見かけ、スポーツ年鑑を過去に持ち帰り賭けに利用するという彼のアイデアを立ち聞きしてしまう。そして一同がマーティの家に行っている隙にデロリアンを操作して60年前の1955年11月5日にタイムスリップ。若い自分にスポーツ年鑑を渡しアイデアを伝授する。これによりマーティたちが戻った1985年は、スポーツ年鑑を利用して賭けに勝ち続け大富豪になったビフが、カジノの帝王となってすべてを支配する暗黒時代に変わってしまうのだ。

 ビフのモデルがトランプ氏だという説は、それ以前からファンの間で噂になっていた。年表を見ていただくとわかるが、PART2が製作された1989年より前にトランプ氏は、ニューヨークで派手な不動産の買収と再開発事業を展開。儲けた資金で東海岸ニュージャージー州のリゾート地、アトランティック・シティで3件のカジノ経営に乗り出した時期と重なり、ビフが建てたカジノもトランプ氏のものとよく似ている。また子供の頃ガキ大将だったことや、元モデルの妻がいながらセレブ美人とたびたびの“ゲス不倫”でメディアのゴシップ欄を賑わせる素行もビフ像に近い。

 ちなみに高校時代からの片想いを実らせロレーンと結婚した際に口にした「3度目の正直」というセリフは、結果的にトランプ氏の再婚回数と一致している。

 これらの説について本作の脚本をロバート・ゼメキス監督と共に執筆したボブ・ゲイルは、米ニュースサイトの取材に対し認める発言をしている。彼がカジノの帝王ビフのキャラクター作りにトランプ氏を手本にしたのはまず間違いないだろう。

 一方で2人を明確に隔てるのは“運と商才”である。ビフの成功はあくまでもスポーツ年鑑あってこそであり、なければ当初のシナリオ通りワックスの二度塗りを続けていたはずである。一方のトランプ氏は、ニューヨークの裕福な不動産業者の家に生まれた幸運はあるものの、父の仕事を継いでからは自分の力でビジネスを成功させて巨万の富を築き、四度の破産に代表されるさまざまな逆境をも糧にしてしまうタフネスぶりは、まぎれもなく彼自身の力であり、常人に真似のできることではないだろう。

“チキン”と“You’re Fired.”を越えて

 このシリーズの大きなテーマの一つとして、マーティの人間的成長が挙げられる。“チキン”(腰抜け)と言われるとムキになり冷静な判断ができなくなってしまう性格は、彼の運命にネガティブな影響を及ぼしてきた。自動車事故でギターを弾けなくなったこと然り、ニードルズに挑発されて会社をクビになったこと然り。

 それがシリーズ3作目「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」(1989)で1885年の西部開拓時代にタイムスリップし、ビフの曽祖父にあたる“マッド・ドッグ”ビュッフォード(トーマス・F・ウィルソンの3役)との決闘を前に、彼の玄祖父にあたるシェイマス(マイケル・J・フォックスの4役)から、シェイマスの弟マーティンがちょうどマーティと同じような性格がもとで犬死にした話を聞かされ、人生を左右するのは結局は自分自身なのだと悟るのである。それがわかったことで“You’re Fired.”の文字は消え、有名なドクのセリフにつながっていく。

“It means your future hasn’t written yet. No one’s has.Your future is… whatever you make it.”

(人間の未来はすべて白紙だっていうことさ。未来は自分で作るのだ。君らもいい未来を作りたまえ)

 その言動が世界の注目を集めているトランプ新大統領だが、我々もあれこれ心配する前に、いま一度自分の足元を見つめ直してみるべきかもしれない。

参考文献:
「トランプ自伝─不動産王にビジネスを学ぶ」(ドナルド・トランプ、トニー・シュウォーツ著、筑摩書房)
「トランプ」(ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー著、文藝春秋)

【バック・トゥ・ザ・フューチャー】

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)
作品基本データ
原題:Back to the Future
製作国:アメリカ
製作年:1985年
公開年月日:1985年12月7日
上映時間:116分
製作会社:アンブリン・エンターテインメント作品
配給:ユニヴァーサル=UIP
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ
製作:ボブ・ゲイル、ニール・カントン
撮影:ディーン・カンディ
音楽:アラン・シルヴェストリ
特殊効果:インダストリアル・ライト・アンド・マジック
特殊メイク:ケン・チェイス
キャスト
マーティ・マクフライ:マイケル・J・フォックス
エメット・ブラウン(ドク):クリストファー・ロイド
ロレーン・ベインズ:リー・トンプソン
ジョージ・マクフライ:クリスピン・グローヴァー
ビフ・タネン:トーマス・F・ウィルソン
ジェニファー・パーカー:クローディア・ウェルズ
デイヴィッド・マクフライ:マーク・マクルーア
リンダ・マクフライ:ウェンディ・ジョー・スパーバー
サミュエル・ベインズ:ジョージ・ディセンゾ
ジェラルド・ストリックランド:ジェームズ・トールカン
ゴールディー・ウィルソン:ドナルド・フリィラヴ
マーヴィン・ベリー:ハリー・ウォーターズ・Jr.

(参考文献:KINENOTE)


【バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2】

「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」(1989)
作品基本データ
原題:Back to the Future Part II
製作国:アメリカ
製作年:1989年
公開年月日:1989年12月9日
上映時間:107分
製作会社:アンブリン・エンタテイメント作品
配給:ユニヴァーサル映画=UIP映画
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ボブ・ゲイル
原作:ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ
製作:ボブ・ゲイル、ニール・カントン
撮影:ディーン・カンディ
美術:リック・カーター
音楽:アラン・シルヴェストリ
編集:アーサー・シュミット
キャスト
マーティ・マクフライ、マーティ・マクフライ・Jr.、マーリーン・マクフライ:マイケル・J・フォックス
エメット・ブラウン(ドク):クリストファー・ロイド
ロレーン:リー・トンプソン
ビフ・タネン、グリフ・タネン:トーマス・F・ウィルソン
ニードルズ:フリー
ジェニファー:エリザベス・シュー

(参考文献:KINENOTE)


【バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3】

「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」(1990)
作品基本データ
原題:Back to the Future Part III
製作国:アメリカ
製作年:1990年
公開年月日:1990年7月6日
上映時間:119分
製作会社:アンブリン・エンタテインメント・プロ作品
配給:ユニヴァーサル=UIP
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ボブ・ゲイル
原案:ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ
製作:ボブ・ゲイル、ニール・カントン
撮影:ディーン・カンディ
音楽:アラン・シルヴェストリ
編集:アーサー・シュミット
キャスト
マーティ・マクフライ、シェイマス・マクフライ:マイケル・J・フォックス
エメット・ブラウン(ドク):クリストファー・ロイド
クララ・クレイトン:メアリー・スティーンバージェン
ビュフォード(マッドドッグ)タネン、ビフ・タネン:トーマス・F・ウィルソン
マギー・マクフライ、ロレーン・マクフライ:リー・トンプソン
ジェニファー:エリザベス・シュー
マーシャル・ストリックランド:ジェームズ・トールカン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。