米韓FTAで韓国農業は悪影響を受けていない/「農業経営者」TPPセミナー

農業ビジネス誌「農業経営者」(農業技術通信社)は7月31日、TPPセミナー第3弾として「FTA先進国・韓国農業界から具体的に学ぶ! 日本農業のTPP対策と勝つ方法」を開催した。

米韓FTA「毒素条項」はデマ

米韓FTAをはじめ、韓国が結んだFTAの内容と、それへの対策や影響から、日本農業のTPP対策を探る内容。

講師は、大東文化大学経済学部社会経済学科教授の高安雄一氏(元経済企画庁入庁、元外務省在韓国大使館一等書記官)と、農業ジャーナリストの青山浩子氏。

高安氏は、韓国はWTOドーハラウンドの難航・長期化を受けてFTAによる自由化へ舵を切ったことを説明した上で、同国がすでに結んだ9つのFTAについて解説。とくに対米、対EUでは農産品の自由化度は高く、聖域はコメを除いてほとんどないことを指摘した。

また、米韓FTAでは、韓国にとって不利な「毒素条項」が存在すると喧伝されているが、それらのほとんどがインターネットで流布されたデマであり、米韓FTAが不平等条約ではないことを説明した。

その上で、米韓FTAの影響として、製造業にはプラスの影響出てきている一方、アメリカからの農業輸入は今のところ増えておらず、韓国農業が最も懸念する畜産と果実には今のところ影響が出ていないことを指摘した。

韓国農家にFTA悪影響の実感なし

青山氏は、韓国農業のあらましと日本農業の類似点と相違点を説明した上で、同国のFTA対策の内容を解説した。

この中では、FTA対策費が補助金・助成金のように交付してしまうものよりも、融資や利子補填に重きが置かれていることを指摘した。また、離農支援、農地を担保とした年金の拡充、企業と農村を結び付ける一社一村運動など特色のある政策についても解説した。

さらに、現地農家の生の声を紹介。FTA以前に独自の取り組みで生き残り、成長を目指すという農家の考えを伝えた。また、FTAの影響はあるかと農家に問うと、一般に「私は影響を受けていないけれど、友達は影響を受けている人がいると言っていた」というように、ムードとしての影響はあるものの、自身の経営の中で実感している人にはほとんど出会わないという感触を伝えた。

両氏の話の後の意見交換の中では、「韓国農業は米韓FTAで大きな打撃を受けている」と日本で紹介されることが多いものの、数字の上でも現地取材からの実感としても、実態とは異なることが改めて指摘された。また、米韓FTAを受けて韓国農村を視察する日本の農家・農業関係者が増えているが、FTAの悪影響をことさらに見出そうとする予断がある例が多いことも紹介された。

また、韓国農業界は米韓FTAについてさほど脅威を感じていない一方、今後の中韓FTAでは地続きで気候も類似しコストも低い相手となるため、それへの対応が正念場と考えている向きが多いことも紹介された。

「農業経営者」は、今後もTPP関連の記事、セミナーを展開する予定。過去のセミナーはDVD化し、販売している。

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