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標準化抜きのお客様第一の罪

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以前、外食関連のある企業について連続して取材をしていました。この会社は外食の人材コンサルティングを行うほか、いくつかの業態をフランチャイズ展開していて、直営店やフランチャイジー店に店長職を派遣していました。その派遣店長たちの気付きや行動を記すシリーズ記事を私が担当していたわけです。

 2~3回の取材を終えた段階で、私はかなり戸惑いを感じていました。その店長たちが店に入ってからやったことというのは、たとえば器具や食材の定位置を決めるとか、受注・調理・提供の作業体系を組むだとか、掃除をすることにしたとか、なのです。

 それぞれはよい話ですし、気付きから仕組みとして作って実践する流れもよい。しかし、問題は、その店長がその店に配属される前には、それらの事柄が標準化(マニュアル化)されていなかったわけです。つまり、フランチャイズのパッケージとしての瑕疵を感じるわけです。

 また、それぞれの店長が、それぞれの店舗で行った標準化は、その人の手柄としては評価されるのですが、一店舗を超えて全店で共有されチェーンとしての標準化がされていく仕組みも認められませんでした。マニュアルが改善されていく気配がない。

 この会社は外食のフランチャイズ展開のほか、人材コンサルティングも行っていたのですが、これではまずかろうと思いました。僭越とは感じながらも、読者によい話として書き続けていく以上は、ある段階で意見もさせてもらったほうがよいと考えるようになりました。

 それで、過去に取材した店長に2~3カ月後連絡をとってみるということがあったわけですが、驚いたのはそのほぼ全員がその段階で退職しており、連絡がとれなくなっていたのでした。彼ら一人ひとりは、それだけの能力があれば他社でも通用するし、自分でも店を開業できたでしょう。

 結局、彼らが店で創り上げたノウハウは会社の中に留まることなく川のように流れ去り、この会社も今はありません。

 私が学生時代に専門誌を読んでいた頃、アルバイトをしていた頃、記者として見聞をスタートした頃、そうした頃の外食というのは、よく研究され磨き抜かれたハードとソフト両面のシステムの世界という印象が強かったものです。

 それに対して、「マニュアル化はよくない」など言う昨今の新しい経営者たちは、実際にはメーカーが加工した食材を使って簡単な調理を組み合わせ、インターネットで集客し、お客にはタッチパネルで注文をさせ、その実厨房は3S(整理・整頓・清掃)どころかものの定位置(標準化の基本中の基本)も定まらず右往左往しているという、漫画が見えてくるのです。

 それでヘトヘトになっているスタッフに、根性論だとかお客様第一だとかの心の話を吹き込んで遮二無二働かせようとする。仕事を標準化して働きやすくした上での根性論なりお客様第一主義と違って、これはタチの悪いものだと言わざるを得ません。

 このような企業・店の場合、創業者・創業家は裕福な状態で引退することはできるかも知れませんが、後には何も残らないでしょう。外食の産業化というのは、一時期の夢だったのかと力が抜ける気がします。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →