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セブン-イレブンの保存料・合成着色料不使用のどこを評価するのか

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セブン-イレブンが弁当・そうざい類などで保存料と合成着色料を不使用としたことについて、私は肯定的に見ている旨を何度かこの覧に書いてきた。最初に書いた記事から時間が経ったこともあり、読者からはそれはなぜかといった問い合わせや、反論もいただいている。今一度、そのことについて説明しておきたい。

 セブン-イレブンが調理パン、そうざい、調理麺などオリジナルのチルド商品で保存料と合成着色料の使用をやめたのは、2001年8月からだ。その後、同年10月初めには取り組みを米飯商品に拡大。現在は、さらにPB(プライベート・ブランド)の菓子類でも保存料と合成着色料の不使用を進めている。同社では今後も、同様の取り組みを行う商品群を拡大し、保存料と合成着色料以外の食品添加物についても、可能なものについては不使用を検討していくとしている。

 なぜこのようなことを始めたのか。取り組み開始当初に出たニュースリリースでは、消費者の「“健康志向”に応える商品開発の必要性から、さまざまな検討をしてまいりました」と、やや婉曲な表現をしている。これを私の責任でもう一歩踏み込んで解釈すれば、「消費者が“健康志向”で商品を選ぶようになった。その消費者が、食品添加物を避けたいと考えている。これを何とかしないと売れなくなるので、対策を考えた」ということになるだろう。

「なんとかする」手段はいろいろあったはずだ。例えば、「食品添加物は国が安全性を確認し使用を許可したもので、これを使っていることに健康上の問題はない」と訴える広告・宣伝などの活動を行うことも考えられる。保存料や合成着色料をはじめ、食品添加物を使い続けるしか品質を保つ方法がなく、しかも広告・宣伝活動の費用対効果に満足できそうであれば、この選択肢も有効だったはずだ。

 しかし、セブン-イレブンが実際にはその方向は選ばずに、保存料・合成着色料を皮切りに食品添加物使用を見直す道を選んだのには、彼らなりの合理的な理由がある。

 セブン-イレブンは従来から、弁当・そうざい類などの商品は数時間単位で売り切ることを前提に製造、物流、販売の仕組みを作ってきた。これは、在庫を持たないことで店舗の効率を高めるためであり、商品の鮮度を高めることで味などの品質を向上させるためだ。だから、もともとセブン-イレブンでは商品が棚に置かれる時間は限られており、しかも製造から販売までのすべての段階で、各種の商品に適した温度管理を徹底している。その上、弁当・そうざい類は、すべて専用工場で製造している。これらは必ずしも自社工場ではないが、パートナー企業との強い信頼関係のもと、厳密で正確な品質管理が可能になっている。

 こうした仕組みが出来ている中では、保存料と合成着色料を使わないという選択肢は、不可能なことではなかった。つまり、それまでに培ったノウハウと十分な準備を踏まえて「使わなくても済むものは使わないことにした」ということだ。彼らにとっては、食品添加物の意義を訴える活動にリソースを割くよりも、この選択肢の方が、“セブン-イレブンらしい”ことだったはずだ。在庫を減らし、鮮度向上、品質管理を徹底するという、セブン-イレブンの従来からの路線を強化することそのものだからだ。

 しかも、ここで重要なのは、この取り組みに当たって、彼らは弁当・そうざい類を値上げするなどの価格改定を行わなかったことだ。食品添加物を使っていないことを理由に、高価な食品を販売する企業や店も少なくない中、セブン-イレブンは、“保存料・合成着色料不使用”を付加価値(利益)として認めなかった。人々が求めるスペックを、“特別なもの”として高く売るのではなく、新しい標準つまり“普通のこと”として大衆化することはチェーンの王道だ。私がセブン-イレブンの保存料・合成着色料不使用の選択を、イノベーションの一つとして肯定的にとらえる理由は、ほとんどこの一点に尽きる。

 このイノベーションを支える技術には、製造、物流、販売を管理するITもあれば、工場から店舗までの各段階の温度を一定に保つ、工業的技術もある。もちろん、衛生状態を向上させる化学的な技術もなくては実現不可能な取り組みのはずだ。その意味で、これも極めて今日的な、先端技術の組み合わせの賜物だと言える。

 もちろん、食品添加物を取り扱うメーカーにしてみれば、穏やかではないということはよく分かる。ある面、腹立たしいことでもあることは想像に難くない。その点、食品添加物を取り扱う各社が冷静に対応していることには敬意を表したい。望むらくは、今後も、セブン-イレブンのこの取り組みを“敵視”するのではなく、健全な競争の中でのライバルととらえること、そして、私の師匠の一人である農業技術通信社の昆吉則社長の言葉を借りれば、「お役立ち競争」を闘ってもらいたい。

 セブン-イレブンにとっても、保存料と合成着色料は、高品質と安全を保つためにかつて必要なものであった。また、「我が国には食品添加物の使用に関する厳しい規制があり、加工食品などに使用しているものはすべて科学的な実験によって安全性を確認したうえで、厚生労働省の認可を受けて」いる旨は、同チェーンのWebサイトなどでも断りを入れている。しかし、彼らは彼らなりの方法で、これらを使わずに同じ価値を提供することに成功した。解を得るためのアプローチが変わったのだ。一方で、今日でも食品添加物を用いて同じ解を得るアプローチも厳然として存在する。そこで、両方のアプローチのどちらがより消費者に役立っていると感じてもらえるかの“お役立ち競争”が始まっていることに気づくべきだ。

 この競争に勝つには、どちらのボールの投げ方やバットの振り方が気に入らないと言っていても始まらない。あちらはあちらで、こちらはこちらで、自社のコア・コンピタンス強化にまい進するまでだ。

 その点、食品添加物を取り扱うサイドからは、セブン-イレブンがこちら側のアプローチについて、例えば消費者の食品添加物に対する不安感をあおるような宣伝や情報発信がないかどうかをチェックし、もし何かあれば意見することは必要だろう。また、消費者が保存料や合成着色料、あるいは食品添加物全体について抱く誤ったイメージも是正していかなければならないだろう。

 しかし、それだけをやっていても“お役立ち競争”には勝てない。食品添加物を取り扱うサイドからも、消費者に対して食品添加物を使用したものならではの価値をどれだけ伝えられるかどうか、さらに言えば、食品添加物をむしろ積極的に使用し、消費者に胸を張って価値あることとして宣伝したくなる小売業が現れる土壌を作れるかどうかが問われているのだ。

 難しいことには違いないが、野球と同じでビジネスは守りだけでは点は取れない。ヒットとホームランの数が必要だ。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「Food Watch Japan」で無償公開しているものです。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →