料理人の成長を象徴する賄い

年末の恒例企画、年間1000本以上の鑑賞本数を誇る私rightwideが、今年公開された映画の中から印象的な食べ物や飲み物が出てきた作品を厳選したベスト10を発表する。まずは洋画編から。

 ここ数年、ミシュランの星付きレストラン等の有名料理店を舞台にした作品がフィクション・ドキュメンタリーを問わず増えており、今年も同様の傾向を示している。

【選定基準】

2016年1月1日〜2016年12月31日に公開(公開予定)の作品で、

  • 食べ物や飲み物の「おいしそう度」
  • 食べ物や飲み物の作品内容への関連性
  • 作品自体の完成度

の3点を加味して選定した。

★=1.0点、☆=0.5点
順位タイトルおいしそう度作品との関連性作品の完成度合計
1二ツ星の料理人★★★★★★★★★★★★★★14.0
2ノーマ、世界を変える料理/ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た★★★★★★★★★★★★★☆13.5
399分,世界美味めぐり★★★★★★★★★★★★★13.0
4ブルゴーニュで会いましょう★★★★★★★★★★★★☆12.5
5山河ノスタルジア★★★☆★★★☆★★★★★12.0
6クーパー家の晩餐会★★★★★★★★★★★☆11.5
7最高の花婿★★★★★★★☆★★★☆11.0
8マネー・ショート 華麗なる大逆転★★★★★★★★★★☆10.5
9スーパーメンチ 時代をプロデュースした男!★★★★★★☆★★★☆10.0
10ソーセージ・パーティー★★★★★★☆★★★9.5

第10位

「ソーセージ・パーティー」のソーセージとパン

 2014年に某国の最高指導者暗殺を描いたブラックコメディ「ザ・インタビュー」(日本未公開)で国際問題を巻き起こした喜劇俳優のセス・ローゲンが製作・原案・脚本・主演(声)を務めた3DCGアニメ。登場する擬人化されたホットドッグ用のソーセージとそれを挟むパンが“あるもの”を連想させることからR-15指定となっている。

 内容はスーパーマーケットの棚に並べられ、神様だと信じている人間に買われていくのを待っていた食材たちが、今まで楽園だと思っていた外の世界で自分たちが人間に食われる運命にあることを知り、彼らに逆襲を図るというもの。下品なアメリカンコメディを得意とするローゲンだけに、別の意味での“フードポルノ”ともいうべき前代未聞の作品に仕上がっている。

公式サイト:http://www.sausage-party.jp/

第9位

「スーパーメンチ 時代をプロデュースした男」のカリスマシェフとチベット料理

 スーパーメンチ(SUPER MENSCH)とは直訳すると“超いい人”という意味である。これは1960年代にヒッピー生活をしていた際に出会ったジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンに見出され、アリス・クーパー、アン・マレー、テディ・ペンダーグラス等の音楽マネジメントを手がけた後、リドリー・スコット監督のデビュー作「デュエリスト 決闘者」(1977)やウィリアム・ハートがカンヌ映画祭とアカデミー賞主演男優賞をW受賞した「蜘蛛女のキス」(1985)等で映画にも進出した米エンタメ界の大立者、シェップ・ゴードンのニックネーム。本作は彼の破天荒な人生を「オースティン・パワーズ」シリーズ(1997~)のマーク・マイヤーズが描いたドキュメンタリーである。

 シェップはエンタメ界での成功で富と名声を得たが、精神的な幸せが得られず悩んでいた。そんな時、別荘のあるハワイでフランスの三ツ星シェフ、ロジェ・ヴェルジェに出会い、食の世界に関わることで幸せを見出す。そしてこれまで裏方に徹していたシェフたちを前面に出して料理をエンターテイメントにすることでビジネスチャンスが生まれ、彼らの待遇も改善できると踏んで料理人のマネジメント会社を設立する。

 彼は、TV番組を持つエメリル・ラガッセをはじめ、アリス・ウォーターズ、ウルフギャング・パック、チャーリー・トロッター、ディーン・フィアリング、松久信幸、トッド・イングリッシュ、チャーリー・パーマー、ポール・プルドーム、ステファン・パイルズ等100人以上のスターシェフを育て、彼らの関連商品をヒットさせる等、現在も続く“カリスマシェフ・ブーム”の仕掛人となった。

 また、マイケル・ダグラス、シルヴェスター・スタローンをはじめとする友人たちをハワイ・マウイ島の別荘に招待してもてなす等のフレンドリーさが“スーパーメンチ”たる所以であり、その友人リストにはチベットの第14世ダライ・ラマ法王も名を連ねている。ツァンパ(麦こがし)であったか、シェップがチベット料理の朝ごはんを作って法王に持っていったところ、「それは苦手なんだ」と言われてしまったという、嘘のようなエピソードも紹介されている。

公式サイト:http://www.supermensch.jp/

第8位

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のシーフードシチューと抹茶アイス

 2008年に発生したリーマン・ショックによる世界的金融危機をいち早く予見し、巨額の利益を上げたウォール街のアウトサイダーたちを描いたマイケル・ルイスの小説「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」の映画化で、第88回アカデミー賞の脚色賞を受賞した経済ドラマである。

 金融危機の引き金となったサブプライムローン問題を素人でもわかるよう、登場人物が突然カメラの方を向いてしゃべったり、入浴中の美女に専門用語の解説をさせたりと映像でわかるような工夫が凝らされている。その流れで登場するのが高級レストランの裏側を描いた暴露本「キッチン・コンフィデンシャル」を書いたシェフ、アンソニー・ボーディン。彼はCDO(Collateralized Debt Obligation 債務担保証券)を鮮度が落ちた魚に例え、寄せ集めてシーフードシチューにすれば高級レストランでも出せるようになるとわかりやすく説明している。

 また、終盤で主人公の一人マーク(スティーブ・カレル)が、金融関係者の集会が行われたラスベガスの「Nobu」(日本人シェフの松久信幸が俳優のロバート・デニーロと共同経営でニューヨークに開店した店をはじめとする和食レストランチェーン)で東洋人の金融ブローカーと会食した際にCDOのカラクリを知らされ、世界的金融危機が避けられないと悟る場面では、オバマ大統領の好物である抹茶アイスがデザートとして出される中、徳永英明のヒット曲「最後の言い訳」のサビの部分(いちばん大事なものが/いちばん遠くへ行くよ)がBGMで流れるという芸の細かさを見せている。

公式サイト:http://paramount.nbcuni.co.jp/moneyshort/

第7位

「最高の花婿」の七面鳥

 フランス、ロワール地方の敬虔なカトリックのヴェルヌイユ家に生まれた4人姉妹のうち、長女はユダヤ人、次女はアラブ人、三女は中国人の移民と結婚していて、さらに四女もコートジボワールの黒人男性と結婚しようとするという、多様な人種の移民が混在するフランスの縮図のようなコメディである。

 ユダヤ教徒にはコーシャー、イスラム教徒にはハラールという食事に関する規定があるため、家族全員が集まった会食では食べられるものが限られてしまう。宗教色の薄い中国人婿が豚肉の代わりにダチョウの肉を使った中華料理を用意したのだが、婿たちはそれぞれの民族の風習をからかい合って口論になり、家長で舅のクロード(クリスチャン・クラヴィエ)を怒らせてしまう始末。

 そこでクロードの妻マリー(シャンタル・ロビー)は一計を案じ、次に一同が集まったクリスマスのディナーでは、コーシャとハラルそれぞれに認定を受けたものと北京ダック風の3種類の七面鳥を用意する。婿たちもこの姑の気遣いには感激し、互いの七面鳥を味見したりして異質な他者を認め合うシーンは印象的だった。

公式サイト:http://www.cetera.co.jp/hanamuko/

第6位

「クーパー家の晩餐会」のクリスマスディナー

 本連載第121回参照。

「最高の花婿」と同様の大家族のドラマだが、こちらは時間をクリスマスイブの1日に限定し、午後5時から実家で始まる晩餐会に向かう5組の家族と彼らに関わる人たちを並行して描いたグランドホテル形式の群像劇である。それぞれが他の家族に言えない秘密を抱えていて、晩餐会の席で起こるあるアクシデントをきっかけにさらけ出されるのがクライマックスになっている。

 特筆すべきは「シェフ 三ツ星フードトラックはじめました」(2015、本連載第96回参照)でもフードコーディネーターを務めたメリッサ・マックソーリーによるご馳走の数々で、そのレシピは公式サイトで紹介されている。

公式サイト:http://gaga.ne.jp/coopers/

第5位

「山河ノスタルジア」の麦穂餃子

「長江哀歌」(2006)でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞(グランプリ)を受賞したジャ・ジャンクー監督が1999年の山西省の汾陽に始まり、2014年の現在、2025年の未来に至る“中国の黄金期”に重なる3つの時代を通してヒロインの女性タオ(チャオ・タオ)の生き様をファンタジックな映像で描いたドラマである。

 彼女が実業家の夫と離婚し、彼が引き取った息子ダオラー(名前の由来は通貨単位のドル)と離れて暮らしていた2014年、タオの実父の葬儀で母子は久々の再会を果たすのだが、父が再婚した継母に育てられた息子が彼女に打ち解けることはなかった。そんな中でも、唯一母子の心を通わせたのがタオの作った麦穂餃子の味だった。しかしダオラーはその直後オーストラリアに移住してしまう。

 時は流れて2025年、もはや中国語も忘れコミュニティーの中で孤立するダオラーは、香港から移住してきた年上の女性にひかれていくにつれて、長い間封印してきた母の記憶をたどっていく。今も麦穂餃子を作り続けるタオの姿は、彼自身のアイデンティティの表れでもあるのだろう。

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/sanga/

第4位

「ブルゴーニュで会いましょう」のワイン

 ボルドーと並ぶフランスワインの名産地であるブルゴーニュ地方のドメーヌ(自分の畑で栽培したブドウでワインを作る生産者)のワイナリーを舞台にしたドラマ。20歳で故郷を離れ、パリでワイン評論家として成功したシャルリ(ジャルリ・レスペール)は、父フランソワ(ジェラール・ランヴァン)が経営するワイナリーが日本企業への身売りの危機に瀕していることを知り、実家に戻って経営再建に着手する。

 シャルリはテイスティング能力は一流でもワイン作りは素人同然、父や妹夫婦、本来はライバルである隣家のワイナリーの娘ブランシュ(アリス・タグリオーニ)らにテロワール(ワインに反映する気温、日照、標高、土壌等のブドウ畑の生育環境)を学びながら、慣行のやり方では望みがないと、自然や風土を重視したワイン作りに取り組む。

  1. トラクタの踏圧によって圃場に硬盤を作らないように馬耕を導入。
  2. ラボの糖度計に頼らず、自分の舌でブドウの味を確かめて収穫時期を決定(リコリスの味がしたら摘み頃)。
  3. 搾汁は機械ではなくピジャージュ(昔ながらの足踏みによる搾汁)。
  4. 発酵に使う容器は樽やステンレスタンクではなくアンフォラ(陶製の甕)。

 という中世に先祖返りしたかのような製法で作られたワインの味は、本編をご覧あれ。

 なお原題の“PREMIERS CRUS(プルミエ・クリュ)”は一級畑という意味で、ブルゴーニュの場合、その上位となる特級畑がGrands Crus(グラン・クリュ)で、Corton(コルトン)がその一つである。

公式サイト:http://bourgogne-movie.com/

第3位

「99分,世界美味めぐり」の“セックス・オン・ザ・ビーチ”

 本連載第119回参照。

 世界中を旅してミシュラン星付きレストランを巡り、味わった料理の情報をSNSを通じて発信する美食ブロガーたち“フーディーズ”を案内人に、これまでカメラが入ることのなかった29の世界の名店を紹介するグルメ必見のドキュメンタリー。

 紹介される店はニューヨークやパリといった大都会に店を構える有名シェフのレストラン、ミシュランの「旅行してでも食べる価値がある」を地でいく田舎の店、東京の雑居ビルにあるすし店、京都の伝統的な料亭、マカオの黄金づくめのレストランまでさまざまだが、香港の三ツ星レストラン「ボー・イノベーション」の“デーモン・シェフ”(厨魔)アルヴィン・ランによる不快ギリギリの線を狙った一皿、砂浜に使い捨てられた避妊具をかたどった「セックス・オン・ザ・ビーチ」には驚かされた。

公式サイト:http://99bimi.jp/

第2位

「ノーマ、世界を変える料理」「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」の蟻

 本連載第126回参照。

「ノーマ、世界を変える料理」はデンマークのコペンハーゲンにある2つ星レストラン「ノーマ」のオーナー兼料理長レネ・レゼピが北欧という地域と季節にこだわり、独創的な“新北欧料理”で「世界のベストレストラン50」で3回連続1位を獲得するも食中毒騒ぎによって地に堕ちた名声を取り戻すまでを、「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」は、ノーマが東京・日本橋のホテルに期間限定の店を出店するために本店を休業し、これまでのやり方を捨てて日本全国に食材を探し求め、一からメニューを作りあげていくという世界一になっても止むことのないゼネピとスタッフたちのチャレンジングスピリットを描いたグルメ系ドキュメンタリーである。

 北欧ではレモンのような南国の柑橘類が採れないため、それに代わる酸味を得るために蟻を使うという奇抜なアイデアはノーマの代名詞とも言えるもの。ノーマ東京ではそれが長野の森で採れた蟻を北海道産のボタンエビの上に載せた「長野の森香るボタンエビ」としてローカライズされている。

公式サイト:http://noma-movie.com/http://www.nomatokyo.ayapro.ne.jp/

第1位

「二ツ星の料理人」の賄い

今年のベストワン「二ツ星の料理人」。賄いのテーブルを囲むアダム(中央)をはじめとする料理人たち。
今年のベストワン「二ツ星の料理人」。賄いのテーブルを囲むアダム(中央)をはじめとする料理人たち。

 本連載第130回参照。

 ミシュランで三ツ星を獲得した「Gordon Ramsay」をはじめ、ロンドンにある3つのレストランで合計7つの星を持ち、「ヘルズ・キッチン~地獄の厨房」(2005~)等のテレビ番組にも出演するスターシェフ、ゴードン・ラムゼイをモデルに、私生活で数々の問題を起こしてすべてを失った二ツ星シェフ、アダム・ジョーンズが再起を目指す料理ドラマ。

 ミスしたスタッフを罵倒したり皿を投げつけたりする気性の荒いアダムを、「アメリカン・スナイパー」(2014)等で3年連続でオスカーにノミネートされたブラッドリー・クーパーが演じている。

 要所要所で映し出される二ツ星シェフ、マーカス・ウェアリングによる料理も見事だが、本作の肝となる料理はアダムがスカウトして育てた若手料理人、デヴィッド(サム・キーリー)の作る賄い(staff meal)だ。お客に出すのではなくスタッフの食事として作るので冒険的なことができ、メニューに載せる前の試作としても利用できる(ちなみに、オムライスや天むすも賄いから生まれた料理だと言われている)。

 アダムが他人の失敗を許せないのは、常に完璧であることを求められた彼の生い立ちに関係していると彼の主治医のロッシルド医師(エマ・トンプソン)は指摘する。口先では「七人の侍」が理想だと言いながら、相手を信頼して任せるということができず、最終的には自分だけで何とかしようとしてしまう。だから彼はいつも孤独で周囲と真の意味での仲間(家族)にはなれず、皆で一緒に食べる賄いにも手を付けることはなかったのだ。

 しかし、さまざまな問題に直面して心が折れそうになった時、ソーシエ(ソース係)として雇ったエレーヌ(シエナ・ミラー)をはじめとする仲間たちに励まされたことで、抱え込んでいたものを手放すことができ、皆とテーブルを囲んで賄いを食べられるようになったのは、彼の人間的成長と言えるだろう。

公式サイト:http://futatsuboshi-chef.jp/

 惜しくも選外となったが、「パディントン」のマーマレード(本連載第118回参照)、「オデッセイ」のじゃがいも(本連載第120回参照)、「孤独のススメ」のスラーヴィンク(本連載第122回参照)、「マジカルガール」のコーヒーリキュール(本連載第123回参照)、「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」の山椒(本連載第124回参照)、「ルーム」のケーキ(本連載第125回参照)、「バナナの逆襲」のバナナ(本連載第127回参照)、「あまくない砂糖の話」の低脂肪ヨーグルト(本連載第127回参照)、「アスファルト」のクスクス(本連載第133回参照)、「みかんの丘」のみかん(本連載第136回参照)、「とうもろこしの島」の川魚(本連載第136回参照)も印象に残った。

 次回、ベスト10「邦画編」は小晦日の12月30日にお届けする。期待してお待ちいただきたい。

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。